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第伍章
101話 バトルだ!
しおりを挟む『カプセルに刻んであった。多分こいつ等の名前だ。』
『一番古いカプセルに見えたけど』
『機体は160年前のものだ』
カプセルを確認すると、確かに変な文字が刻んである。その横に数字が書いてあるから、これのことを言ってるんだろう。
『160年!? 160年にしては随分綺麗だな。』
確かに。一番古いと言う分には分かるけど、160年前と言われたらそれにしては新しいなと思えてしまう。
『いつからこいつ等が存在しているかは分からないが、ノートを読み漁れば誕生した日が調べられるかもしれない』
『じゃあさっさと、叩き起こしてノートを持たせて脱出しよう』
博士と同類なのか、ラルフは目をキラキラさせて言った。生徒達を揺すり起こそうとするが、彼等はピクリとも動かない。
『何で目覚めないんだろう、バークレイくーん、おおーい!』
『私は先に行くぞ。液体から出した後どれだけ保つか不安だ』
『うん、此処は任せてよ。起こすだけだし』
博士が去ってからも記憶の世界は続いている。
これも呪いの力だろうか。
『起―きーろー! どうして皆起きないんだよ、早くここから逃げたいのに』
『それは不可能ですよ』
『……っ、君は、』
背後から突然声が聞こえて——ラルフと一緒に振り返る。
気配を全く感じなかった。
『ヒオゥネくん……? 確か中等部の首席だって噂が……』
『おや。顔まで知られているとは。ラルフ・レーライン先輩』
ヒオゥネは人の良い笑みを浮かべてラルフに近付いていく。
「ラルフ逃げるんだ! ヒオゥネは博士の敵なんだ……! ラルフ!」
ヒオゥネがここにいると言うことは、やはり実験室に違いないし、何よりヒオゥネこそがこの実験室を使用している人物に違いない。複数の中の一人であったとしても、この儘相手をするのは危険過ぎる。
ラルフは逃げようとはしないがどうやら察しているらしい。額に汗を浮かべながら唇を食いしばっている。
『まあ……美形だって有名だし』
『僕も存じています。先輩には隠れファンが多いんでしょう』
『え、隠れファン? 僕に? いないよそんな人』
ないないと顔の前で手を振って、まるで世間話みたいにニコニコし合う二人。
……なんだろう、二人の笑顔に似合わないこの緊迫感。
『——逃してはくれないよね』
『侵入してくれて嬉しい位です』
ヒオゥネの表情から笑みが消える。声音だけはとても楽しそうに笑った。
『上層部の博士達が作り出した貴方のような失敗作を。最高傑作へ変える。きっと、とても楽しいです』
『うるさい黙れ……っ』
ラルフは生徒達を庇うように立ってヒオゥネを睨め付ける。その様子にヒオゥネはくつくつと肩を揺らして笑った。
『その人達、もう死んでますけど』
『…………なに?』
『気付かなかったんですか? そのカプセルは死体を永久保存する為の機械です。処分に困っていたので持ち出してくれるならそれはそれは光栄ですね』
『貴様……貴様等! 死体なんて保存して何に使う気だったんだ!』
『……もう使用済みですよ』
ヒオゥネがパチンと指を鳴らすと、ラルフの背に一人の生徒がのし掛かる。
『バ、バークレイくん……?』
——ラルフが狼狽して振り返った時。
だらんと力なく彼の肩に乗せてられていた腕が、ラルフの首に巻き付く。——ディオンは大きく口を開きラルフの首根に歯を立てた。
『うああああ——ッ!?』
肉と歯が擦れギチギチと音を立てる。ラルフの肩に少量の血液が伝った。
『バ、バークレ、痛い、痛いって……! 突然どうしたんだよ、うあ、ああ』
皮ごと引っ張り肉を噛み千切ろうとするディオンの頭を掌で押し返そうとする。肘で腹を打ったり、足を踏み付けたり髪を引っ張たりと必死に抵抗するがディオンはラルフを離そうとしない。
それどころか——
「ら、ラルフ!」
——彼等の背後で、生徒達が次々と目を覚ましてラルフの方へ向かっていく。這い蹲り、狂乱して走り寄り、背中を地面に這いずって腕と足だけで動いたり。
まるでゾンビのような動きなのに、表情や身体は何れも人間らしい。皮膚は綺麗なままだし、何より、皆意識があるのか、ずっと泣き喚いているのだ。
『ふぅぅ——フゥッアゥウッ』
ラルフのクビに噛み付いた儘のディオンも、ずっと目を釣り上げて涙を流している。
『あうああああ、ああ、あ、あ、それ以上は——痛い、バークレイくん! ……はな、』
ラルフの腕が掴まれ、違う生徒に噛み付かれる——次は足首を、膝を、次々に生徒達が餌を与えられた鳩みたいに集まってくる。
『……身体は残して置きたいですね』
『ヒオゥネくんの言うとーり! 俺さんラルフ先輩の隠れファンの一人だから彼の顔だけは命かけて守りたい!』
ヒオゥネの背後の扉の向こう——奥から誰かがやってくる。
長い髪を後ろで1つにまとめた少年だった。こちらもイケメンだが、今まで見た中では一番薄い顔をしている。皆目鼻立ちがくっきりしてかっこいいからな。ただ、下まつ毛は男とは思えないくらい多い。
ヒオゥネがちらりと横に来た相手に目を向けて呟く。
『ランタール先輩。どうしてここに。今日は休みですよ』
『なははぁ。何か実験したくなって来てみたら、びっくり仰天ふぁンタスティック! ティックちっくたっくとーっく!』
『少し静かにしててくれないですか。先輩』
『なははぁーヒオゥネくんはつれないなー』
大人しそうな見た目に反してウザそうなキャラだな。
このこのぉ、と中学生ヒオゥネの頬をつんつんするランタール先輩と呼ばれた彼。しかしヒオゥネの肘打ちで地面にのたうち回る羽目になった。
いいなー俺もヒオゥネのほっぺたつんつんしてみたい。いやいや。相手は敵だ。それにテイガイアのほっぺた、もにもにしたし。ヒオゥネより可愛かったからいいし。
それより何よりラルフだ。
博士、どうにかして気付いてくれないのか——いや、博士が来たところでどうにか出来る確信はないけれど。この儘じゃラルフが——
——そこまで考えた時だった。ラルフの首筋に噛み付いていたディオンが一直線に吹っ飛んできて、咄嗟に避けてしまう。
避けなくてもすり抜けるんだった……。ほんと、回避は相変わらず得意だな、ヴァントリア。
ディオンは床にのびて動かない。息はしているようだ。
『クソッタレども……僕がそう簡単に捕まるとでも思ったのか』
ひえ。
何処から聞こえた声かと思ったら、ラルフの鋭い瞳が爛々と輝いて前髪の隙間から殺気を放っていた。
もさもさの髪を掻き上げ、桃色の瞳が晒される。吊り上がった眉と眉間の皺はかなりの迫力があった。
普段大人しい人が怒ったら怖いって奴か? にしては随分性格が変わってるような……まるで。
『何で僕達が来たと思う……僕達なら君等を一瞬で制圧出来るからさ』
『力を使う時だけ横柄になる……資料通りです』
『二重人格ってこと?』
二重人格……それだ!
博士も二重人格の設定だったけど、もしかして似た設定をラルフも持っているのかもしれない。
ディオンを吹っ飛ばしたラルフの左腕が、ベキベキと音を立てて変形する。皮膚の下で蛇が暴れ回るみたいに何かが蠢き——刹那、皮膚を突き破り、血肉を纏った白い触手が大量に飛び出してきた。それ等はラルフの左腕に巻き付いて骨の様に硬化していく。
——博士の魔獣の姿と一緒だ。
巻き付いた触手の姿は、何処か鎧の様にも見える。
『きっと貴方位ですよ、その力を完璧に扱えるのは——』
『たわけが。息をするな』
んな無茶な……。
『なはは、面白くなってきたなぁ~!』
ランタールと呼ばれた少年が袖を上げ、手首の装飾品を突き出した。何を言ってるか分かんないけど呪文らしき言葉を唱え出す。
——な、なんかバトル始まってるっぽい!?
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