転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)

文字の大きさ
上 下
101 / 293
第伍章

98話 会いたかった

しおりを挟む


 庭を抜けて声の方へ向かえば、少し廊下を歩いた先に庭を案内してくれた小さなテイガイアとその父がいた。

 想像通りの威厳のある男だった。テイガイアにはあまり似ていない。本当に彼が父親なのかと疑うほどだ。

『まさか、その巨大な力を扱えれば公爵家の跡取りになれるとでも思っていたのか?』

 テイガイアは答えない。

 傍まで行っても反応はない、やはりこちらは見えないらしい。

『化け物め。確かに貴様を作ったのは私だ。私とあいつの間に子供が生まれるのは不可能だった。跡取りが残せないのならと出来上がった貴様をと考えた。しかし。考え直したのだ。自分の息子でもない奴に——しかも魔獣に継がせるなど、想像するだけで胸糞悪い』

 侮蔑の目を向けられても博士の表情は変化しない。長い睫毛が上を向いて小さな唇が震えた。

『信じられません。人工生命体の誕生はあの人の……』
『ああ、庭で出会ったと言う怪しい男の話か。しかし人工生命体の初誕生は貴様だ。既に成功していた』

 博士は俯いて手の内にあるウニョウニョを見つめた。やはり常に持ち歩いていたのか。

『その白い瓶の中の薬とやらに粉をひとつまみ入れただけで人工生命体が生まれただと? そんな話も怪し過ぎると思わなかったのか? ゾブド家を主柱とした研究者達が代々受け継いできた研究を。我々が目指してきてやっと成功例が出た人工生命体を。その男は偶然にも作り出したと? バカなことを言うな。それとも気を引くために自分で作ったのか? そんなもの空の瓶に触手を持つ生き物を詰め込めば簡単に出来上がる』

 博士は唇の端を噛んだ後、すぐに睨み上げて断言した。

『呪いを抑える薬であることは実証しました。本物です』
『黙れ。貴様に呪いの何が分かる? 呪いを抑えると聞いてそれを食べ続けて来たのだろう? 実証されたか? 本当に? 残念だがお前は化け物のままだ』

 テイガイアは唇の端を噛んで息をフッと吹き出し、長いまつ毛を震わせた。

『不本意ではあるが私の兄に息子がいる。跡取りは彼に任せた。貴様は跡取りとしては不要だが、人工生命体の要となる化け物だ。そう簡単には手放せまい』
『……私は父上の期待に応えようと』
『元から期待などしていない。私が期待しているのは、貴様が王族に気に入られる兵器になり、莫大な金になることだ』

 廊下を歩いてくる男の召使いに男が言い放った。

『こいつを部屋に閉じ込めておけ。実験の日以外は私の屋敷の中を歩かせるな』

『貴方を尊敬してきました……父上』

 柳眉がへしゃげて眉間に皺が寄る。憤怒のようにも聞こえたが、訴えるような呟きだった。

『散々言っただろう。貴様は私の息子ではない。最高傑作の実験体だ。父などと二度と呼ぶな』
『……私は化け物なんかじゃない』
『お前は生まれた時から化け物だ』

 召使いがテイガイアの肩を掴む。

『私は化け物なんかじゃない! ちゃんと人間です! だって貴方のような人でも父上として愛しています!』

『私は化け物が嫌いだ』
『……私を好きだと言ってくれた人だって……っ』
『——どうせ庭であったと言う男だろう? 屋敷中を捜索したが、誰一人目撃者はいない上、屋敷に侵入した形跡も残っていなかった。お前の作り出した幻だ。自分を愛してくれる存在を、自分で作り出したのだ。お前を好きになる存在など、いる筈がないだろう』
『まぼ、ろしなんかじゃ、ない。バン様は——私の』
『何度も言わせるな。お前を愛する存在などいない』
『ちがう……ちがう! 好きでいてくれるって、言った』

 召使いの男がテイガイアの腕を掴み乱暴に引きずっていく。父親はその言葉に嘲笑の笑みを浮かべた後、背中を向けて何もなかったかのように去っていく。

「——テイガイア……ッ」

 男に掴み掛かろうとするがすり抜けてしまう。

『バン様は私を好きだと——ずっと好きでいてくれるって言ってくれた……ッ! 私は化け物じゃ、魔獣なんかじゃ……ない、違う、絶対に!』

 男は博士を彼自身の部屋へ投げ入れる。そして、外側の扉の下部に設置された幾つもの鍵を次々と施錠していく。

『——出してください! 開けて! 開けてください父上!』

 金属の擦れる音が次々と音を立てていく様を見ることしか出来ない。テイガイアが中から扉を叩いているのかけたたましい音が廊下へ響いていた。

『開けてください! 私がいらないなら捨てて下さい! 閉じ込めるなんてやめてください! ……いっそ、捨ててくれれば、開けてください、お願いします——出して』

 ——堪らず、やめろと叫んだが、何でこんなことするんだと訴えたが。相手は聞く耳を持たない。掴み掛かろうとして、すり抜ける。

 これは記憶だ。もし干渉出来ても、現実では変わり得ない。

「テイガイア……っ」

 呼び掛けても俺への返事はないが、扉の向こう側で消えそうな声が呟いた。

『おねがいします、私をこれ以上化け物にしないで……くださぃ』

 嗚咽が交じり、ガタガタと扉が震える。



 あの後にこんなことがあったなんて。

 どうにかあの天井に戻れないのか。

 ——男が去ってからも、ずっと静かに泣き続けるテイガイアに。どうにかして助けられないのかと考えてしまう。

『開けてくださいッ父上!!』

 扉に触れたら、するんと手が抜ける——そうか、入れるんだ、と考えてテイガイアの部屋に入った。しかし、干渉出来ないんじゃ意味がない。

 扉の前で蹲って嗚咽を漏らすテイガイアの傍に寄る。

『まぼろしなんかじゃない……まぼろしなんかじゃ。』

「テイガイア。大丈夫だ。俺はいるから。ちゃんと好きでいる」

 頼む、あの時みたいに聞こえてくれ。

『いないわけない……妄想なんかじゃない……っ、会いたい……会いたい、バン様に会いたいぃ……』

 博士の頬を大粒の涙が伝っていく。

『会いたい……会いたい、かみさま。バン様に……バン様はいると言ってください』

 ————テイガイア。

 何度も名前を呼ぶが、答えてはくれない。

 どうしてこんなことになるんだ。

 俺は、博士を救いに——救いに来たのに。

 俺が、俺があの時話し掛けたせいで——違う、あの時確かに博士は嬉しそうにしてくれたんだ——でも——こんなに苦しむなら、俺となんか話さない方が良かったのかも知れない。

『——ン様、バン様……助けて』

「……絶対に助ける。助け出して見せるから」

 頭を撫でようとしてすり抜ける——いい加減にしてくれ——少しくらい、少しくらいどうにかしてくれたっていいじゃないか。

 ズズッと背中を引っ張られるような感覚が襲う。

「待ってくれまだ……っ、このままなんてダメだ——」

 テイガイアは何年あいつに閉じ込められたんだ——俺と会うまでの間、何年間。

 ——テイガイアがどうしてあんなにくっ付いてきたのか、今更知るなんて。もっと甘やかしてあげれば良かった。

 俺が幻じゃないと、証明しなきゃならなかったのに。



 元のシンとした部屋に戻る。

 門をくぐった時と変わらず鼓動は速い儘だった。真相を知って、焦りによるものだと理解する。

「博士は生まれた頃から……魔獣だった。だからヒオゥネは目を付けたのか」

 ——じゃあ、ヒオゥネは博士になんの実験をしてたんだ。

 3つ目の門。鉄柵で向こう側に行くことが閉ざされた門の前に立つ。

 早くここから出て、テイガイアを助けなきゃ。

 ——異常な位の鎖へ手を伸ばす。

「こう言う時の脱獄系魔法だ——ッ」

 施錠されていた鍵が開錠され、複雑に交差していた鎖は蛇のように動いて地面へ散らばった。

 これしか取り柄がないけど、やっぱり微妙ではあるけどなかなかに使える魔法じゃないか!

 今度はもう迷わない。いくら怖くたって、テイガイアを助けるためなら——俺がどうなったって知るもんか。

 3つ目の門に近付けば、焦げ臭い匂いが鼻に付いた。門をくぐれば、ぐらりと倒れ落ちるような感覚が起きて。目の前が真っ暗になる。





「ん……ここは」


 真っ暗だが輪郭が捉えられる位の闇だった。壁にある松明がてらてらと石造りの外観を照らしている。

 見渡す限り、薬品や——メスなどの医療道具が揃っている。医療に絶対使わないような巨大なサイズの刃物などもあるが。

 それ等は古い木造の机の上や壁に設けられた戸棚に散らかった状態で仕舞ってある。手入れされていないところを見ると——放置されているらしい。

 実験室……のように見えなくはないが。初めてくるな。

 ゲームの世界でも見たことがないかも知れない……ん? いや、ちょっと待て。あのマークは。

 アトクタ……?

 此処は学園都市アトクタの中等部施設か——?

 一体どう言うことだ、学園内にどうして実験室みたいな怪しい部屋があるんだ。


 嫌な予感がして額に玉の汗が滲む。


 ——奥の部屋へ繋がる古い扉へ近付くと。ゴウンゴウンと機械らしき音が聞こえる。

 部屋へ入れば、カプセルの中に大勢の亜人が格納されている。

 正に——研究室でよく見る類の。未知の液体の中で小型サイズの亜人がプカプカと浮かんでいたのだ。

 しかし、恐ろしくはあったが1つ1つ確認していけば——その中に、見知った顔を発見して驚愕した。


「ディ、ディオン!?」

しおりを挟む
LINEスタンプ https://store.line.me/stickershop/product/16955444/ja
感想 23

あなたにおすすめの小説

【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」 知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど? お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。 ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います

緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。 知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。 花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。 十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。 寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。 見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。 宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。 やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。 次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。 アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。 ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。

【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?

MEIKO
BL
【完結】そのうち番外編更新予定。伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷うだけだ┉。僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げた。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなの何で!? ※R対象話には『*』マーク付けますが、後半付近まで出て来ない予定です。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

処理中です...