転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)

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第伍章

95話 生贄ですから

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 博士はヒオゥネに操られていたとは言え、呪いの実験をしていた。

 今の世界ほど詳しくなかったとしても、俺よりは知識があるだろうし。

 幼少期に呪いのことについて少し話したが——ウニョウニョの説明で——突っ込まれることはなかった。


 呪いとは何ですか? 現実に存在するのですか?


 普通ならこう聞くけれど、その言葉については反応を示さなかったのだ。

 でも今すぐ伝える訳にはいかない。伝えてから何が起こるかわからないから、少し勇気がいるし。

 壁際に丸めて置いておいたコートを羽織って出掛ける準備をする。博士は鞄に毛布を詰め込んでいるが。入るのか?

 じっとその様子を眺めていたら、博士が振り返る。

「準備は整いましたか? そろそろ出掛けましょう。」
「え、あ、うん」

 毛布が鞄の中に消えてしまった。もしかして、それは某ポケットの……いや、なんでもない。

「触手も其の中に入れてるのか?」
「返しませんよ」
「う、うん」

 ギロリと睨まれて怯んでしまう。

「で、でもまた借してあげてもいいです。いっぱい愛情表現してあげてください」
「いや……それは。まあ、そうだな。俺も被害者にならなきゃだもんな」

 博士が手放してくれたら即解決することなんだけど。

「……そうだ、新しくうにょうにょ作ってあげるから、それと交換しない?」
「いえ。あれが良いんです。」
「でもあれは……」

 ウォルズと俺の……。

 出て行きかけた言葉を噤む。伝えられない、無垢な中学生に——いや、寧ろ中学生だからこそお年頃かな。


「バン様と初めて会った時の、思い出の品ですから」
「そ、そっか」

 なんか照れ臭いなぁ。……あれ、もしかして、触手を可愛がってる理由って、可愛いと思っているから、だけではないのか?

 あげたのが俺じゃなかったら、もう少しマシな可愛がり方をしてたのかな?

「……やっぱりあげなきゃ良かったかな」

 あげるにしても違うものを……。

「…………バン様は私との思い出は必要がないのですか」
「えっ! そ、そう言う意味じゃないッ! あの日、俺もテイガイアと過ごせて楽しかったよ」

 よしよしと頭を撫でると、眉間に皺が寄る。相変わらず表情には出ないらしいが、これは喜んでいるのだと知っている。

 男とは思えない長い睫毛が幕を下ろすように綺麗な瞳を隠し、唇から静かな声が紡がれる。

「好きでいてくれてますか?」

「え」

「私は貴方のあの言葉を忘れたことはありません。貴方が私を好きでいてくれている、そのことを忘れませんでした。貴方に言われた通り、ずっと思い続けていました」

 咄嗟に出たあの時の言葉、届いていたのか。

「例え、永遠に会えなかったとしても。ずっとそう思うと誓いました。……貴方一人が好きでいてくれると思うだけで、私は救われていた」
「テイガイア……」

 そう言えば、再会した時、会いたかったって言ってたっけ。

 俺は長い間待たせてしまったんだな。……だけど、またすぐにこの世界とも別れることになるだろう。そうなったら何年後の博士に合うのかな。

 でも、中学生の——目の前の博士は、何年も前のことを覚えてるのに。俺の時代の博士はどうして、俺のことを覚えてなかったんだろう。

「……好きだと言われたから好きになるなんて。単純かもしれませんけど」
「そうかな。好きって言われたら嬉しいし。いいんじゃないか?」
「好きだと言ってくれるのは貴方くらいですから」
「え。でも学校の皆はお前のこと好きそうだったけど」
「あれは猫を被っているだけですよ。私達は生贄ですから。そうして貴族としての地位を確立出来る訳です。」

 生贄? どう言う意味だ。

 思ったままに尋ねれば、博士は撫でたままでいた手から離れ、扉へ向かう。

「貴方は知らなくていい」
「あ、ちょ! 待って——」

 博士の背が扉の向こう側へ行った途端、ぐにゃりと視界が歪む。正確には——眼前の世界だ。

「……ま、待って」

 テレビがプツンと切れるように目の前の世界が消えてしまった。

 前回のように気を失うことはなかったけれど、何故か、胸の奥の方がギュッと締め付けられた気がした。








            ◇◇◇

 


 停滞し続けても抜け出せる訳じゃないだろうし、少しずつ構成されていく世界を進む。奥に進む程空間がはっきりしていき、朧げだが姿は捉えることが出来た。

 装飾のされた白い壁と、白いタイルの地面だ。

 白く美しい世界を行くあてもなく無心で歩いていたら、突然目の前に巨大な門が現れる。

 ぼやけていない……?

 触れようと手を伸ばせば、水面が揺らめくように柱に波紋が広がり、手には通常通り空気をかいているような感覚しかない。

 柱に手を突っ込んでいる状態だった。そこには柱が存在しないのかと思うくらい手には何も感じない。幻覚……?

 手と門柱の境界線が七色に輝き、少し動かすだけで波紋はたちまち広がって門を怪しく震わせる。

 こんな大きな門くぐったことないと、好奇心で門の下を通過した時だ。

 門の真下——つまり向こう側との境界線に足を一歩踏み出した時だった。

 階段を一歩踏み外した時と似ていた。

 片足に妙な浮遊感を感じて——。

「うぎゃあああああああああああああああッ!?」

 身体を支えようと地面に手を伸ばしたが、柱と同じように——するんと通過してすぐに顔も地面に近付く。

 身構えたが衝撃は感じず、俺は何処かに落ちるような感覚を感じるだけ感じて、地面の中を落ちていた。


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