95 / 293
第伍章
92話 何度目かの求婚
しおりを挟む先生に根掘り葉掘り尋ねられてしまったが、告げ口したら許さんと、お得意の悪い顔で脅せば大人しく引いていった。
アトクタは全寮制。博士にはルームメイトがおらず、一人で使っていたらしいが——首席だけ特別扱いらしい——是非来て下さいと言われ、俺は博士の部屋にお邪魔することになった。
先生が客室で寝てくれと部屋を用意したらしいが断って、テイガイアの部屋に行くと言えばガビーンとされてしまう。
そして瞬く間に中等部中へ俺の噂は広まってしまったらしく。……お忍びだって言ったのに。子供達は口が早いな。
この騒ぎが貴族の親達に知られ、彼らから王族に知らせる可能性もある。そうなったら大変なことになるぞ。
まあ博士が3日後に出て行くと言うので、一緒に着いて行くことにする。そうすればやがて調査が入っても噂話だろうと言うことになるさ。
それに元の世界に帰るには博士が鍵になるだろうし。何より一番信頼出来る。
博士の殺風景の部屋にて、床に二人で毛布にくるまっていた。
荷造りはもう済んで荷出しまでしてしまったらしい。荷出しと言っても契約した宿に転送魔法で送っただけらしいが。
つまりもう荷入れも済んで家具の配置もされているわけだ。魔法ちょー便利。
いいなぁ。俺も魚燃やす魔法と脱獄魔法以外の魔法使いたいなぁ。
せっかく魔法のある世界なのにたった二つしか使えないなんて……魔法使いなんて皆の夢だぞ。
「それにしても……先刻も思ったけど口説き症はこの頃から発症していのか……」
間近でうるうるする瞳から、いたたまれなくなって目を逸らす。
「——バン様、何て美しい仕草でしょう。見ているだけで目を奪われてしまう」
「し、仕草って。特に気にしたことないけど」
「何と言うのでしょうか。首を傾げるだけで美しいのです」
さ、錯覚じゃないのか?
キラキラした瞳で見つめられて、小さな頃の実験好きを思い出す。
俺に興味持ってるってことかな? ああ、そう言えばうにょうにょちゃんで喜ばれたんだっけ。こんな目で見られても可笑しくはないか。
どんどん顔を近づけて来て鼻先が触れる。避けようとすれば肩を掴まれてしまう。中学生だから俺の方が力は上だが、別に抵抗する理由もないか。
「バン様、どうか将来私の伴侶に——」
「——ちょっと待て! その台詞はもう聞きたくない!」
全力で抵抗した。
「そ、そんなに求婚をされているのですか。それでは私も立候補させて下さい。是非私を婚約者の一人に」
「ちちちちちがう! ——俺には婚約者は一人しかいないから!」
「え……。い、いらっしゃるのですか、もう既に?」
「……確か5歳の時に上の命令で婚約を結んだって言ってた。最近会ってないなぁ」
前世の記憶でごっちゃになってるから、忘れていたけど。ヴァントリアには婚約者がいる。
ゲームでは最も美しい姫として地上から地下都市へ招待され——攫われて、俺と結婚することが決められていた。
可愛くて人気なキャラだったからヴァントリアと結婚なんて可哀想! とか、ウォルズやシストとも話したことがあるからノーマルカプとしてそれなりに人気はあったみたいだ。
ヴァントリアとのやり取りはまあ見たことないけどな!
ただ、その相手はくそみたいなヴァントリアに本気で好意を寄せている。ウォルズにあいつはやめておけと言われても「あなたに何がわかるのか」と怒り出したほどだ。
それも幼少期からの知り合いらしく、地上の姫だからと隔離されていたため、話せたのは婚約者のヴァントリアくらい。
だが、ヴァントリアは美しくて優しくて一途に自分を想ってくれる婚約者がいるにも関わらず、女性を強姦するわ部屋に呼ぶわ奴隷をいいように扱うわ。
幼い頃彼女と話した記憶を思い出そうとすると思い出せる気もするが、何か思うところがあるのか、思い出し掛けるとストップが掛かる。
彼女の名はウラティカシェハニエル・テュア。地上からの侵略を恐れた王族によって、人質として攫われ、政略結婚することによって戦争を免れた。そしてヴァントリアならいんじゃね、という理由で婚約。
美しいエルフの姫として知られるが、顔を見られるのは国王と婚約者と彼女の世話係のみ。つまり肖像画で美しく描かれていたから美しい人だと皆賞賛したのだ。
幼少期はよく遊んでいたが、その後は一度も会いに行っていない。彼女は外に出られない為、ヴァントリアが会いに行くしかないんだ。
——未だ閉じ込められてるなら、彼女も助けないとな。俺の被害者だし。流石にもう嫌われてるかも。
「会わなくても良いのでは?」
「え」
「バン様は我が家に嫁がれるのですから!」
「嫁がないけど!?」
嫁げてたまるか! 幾らヴァントリアとは言え、俺は王族なんだぞ。いや元王族なら次期公爵と結婚してもいいのか?
——博士と。結婚。
「……無理」
博士の表情が固まる。今にも泣きそうな顔でフラフラと寝返りを打つ、しまった、と思った。公爵家のプライドが許さないよな。
「ご、ごめん。でも俺男だし……」
背を向けながらブツブツと呟く。
「ウロボス式なら男同士でも結婚出来ます」
う、何度も言われた言葉……。
「は、博士は未だ子供じゃないか」
それに博士の家は確かオルテイル一派。……いやでもヒオゥネがウロボスなら将来的にウロボス派になってしまうのか?
「子供でも婚約は出来ます」
うう、引いてくれない。
「こういうのは好きな相手とちゃんと……」
「私はバン様を愛しております」
うぐぅ、未だ恋を知らない子供からの好意。嬉しくないわけじゃないけど複雑。
将来はお父さんと結婚する! ——って奴だな。複雑な心境は親の気持ちが分かるからだろうか。うんうん。
10
お気に入りに追加
1,932
あなたにおすすめの小説
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
【完結】足手まといの俺が「史上最強パーティを離脱したい」と言い出したら、なぜか国の至宝と呼ばれる剣聖とその親友の大魔道士に囲い込まれる話
.mizutama.
BL
※完結しました!ありがとうございます!
「もう潮時だろう? いい加減に目を覚ませ! お前はあの二人に遊ばれているだけなんだ!」
勇敢な冒険者を目指すティト・アスティは、魔法学園の下男として働きながら、いつか難攻不落と言われる国内最大のダンジョン攻略の旅に出ることを夢見ていた。
そんなある日、魔法学園の最上級生で国の至宝とよばれる最強の魔剣士・ファビオが、その親友の魔導士・オルランドとともに、ダンジョン攻略のための旅に出るための仲間の選定を行うことになった。
皆が固唾を飲んで見守る中、どんなめぐりあわせかそこにたまたま居合わせただけのティトが、ファビオにパーティのメンバーとして指名されてしまった。
半ば強引にパーティに引き入れられ冒険の旅へ出る羽目になったティトだったが、行く先々での嘲笑や嫉妬、嫌がらせ、そして己の力のなさに絶望し、ついにはファビオとオルランドにパーティ離脱を申し出る。
――だが、ファビオとオルランドの反応は、ティトの予想だにしなかったものだった……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
タイトルそのまま。ありがちな設定と展開。タイプの違う美形攻め二人×鈍感庶民受け
溺愛系を目指しています!
※注1 一対一嗜好の方には激しくオススメできない内容です!!
※注2 作者は基本的に総受け・総愛されを好む人間です。固定カプにこだわりがある方には不向きです。
作者の歪んだ嗜好そのままに書かれる物語です。ご理解の上、閲覧ください。
複数攻め・総受けが好きな人のために書きました! 同じ嗜好の人を求めています!!
クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。
とうふ
BL
題名そのままです。
クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。
心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる