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第伍章

92話 何度目かの求婚

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 先生に根掘り葉掘り尋ねられてしまったが、告げ口したら許さんと、お得意の悪い顔で脅せば大人しく引いていった。

 アトクタは全寮制。博士にはルームメイトがおらず、一人で使っていたらしいが——首席だけ特別扱いらしい——是非来て下さいと言われ、俺は博士の部屋にお邪魔することになった。

 先生が客室で寝てくれと部屋を用意したらしいが断って、テイガイアの部屋に行くと言えばガビーンとされてしまう。

 そして瞬く間に中等部中へ俺の噂は広まってしまったらしく。……お忍びだって言ったのに。子供達は口が早いな。

 この騒ぎが貴族の親達に知られ、彼らから王族に知らせる可能性もある。そうなったら大変なことになるぞ。

 まあ博士が3日後に出て行くと言うので、一緒に着いて行くことにする。そうすればやがて調査が入っても噂話だろうと言うことになるさ。

 それに元の世界に帰るには博士が鍵になるだろうし。何より一番信頼出来る。

 博士の殺風景の部屋にて、床に二人で毛布にくるまっていた。

 荷造りはもう済んで荷出しまでしてしまったらしい。荷出しと言っても契約した宿に転送魔法で送っただけらしいが。

 つまりもう荷入れも済んで家具の配置もされているわけだ。魔法ちょー便利。

 いいなぁ。俺も魚燃やす魔法と脱獄魔法以外の魔法使いたいなぁ。

 せっかく魔法のある世界なのにたった二つしか使えないなんて……魔法使いなんて皆の夢だぞ。

「それにしても……先刻も思ったけど口説き症はこの頃から発症していのか……」

 間近でうるうるする瞳から、いたたまれなくなって目を逸らす。

「——バン様、何て美しい仕草でしょう。見ているだけで目を奪われてしまう」
「し、仕草って。特に気にしたことないけど」
「何と言うのでしょうか。首を傾げるだけで美しいのです」

 さ、錯覚じゃないのか?

 キラキラした瞳で見つめられて、小さな頃の実験好きを思い出す。

 俺に興味持ってるってことかな? ああ、そう言えばうにょうにょちゃんで喜ばれたんだっけ。こんな目で見られても可笑しくはないか。

 どんどん顔を近づけて来て鼻先が触れる。避けようとすれば肩を掴まれてしまう。中学生だから俺の方が力は上だが、別に抵抗する理由もないか。

「バン様、どうか将来私の伴侶に——」
「——ちょっと待て! その台詞はもう聞きたくない!」

 全力で抵抗した。

「そ、そんなに求婚をされているのですか。それでは私も立候補させて下さい。是非私を婚約者の一人に」
「ちちちちちがう! ——俺には婚約者は一人しかいないから!」
「え……。い、いらっしゃるのですか、もう既に?」
「……確か5歳の時に上の命令で婚約を結んだって言ってた。最近会ってないなぁ」

 前世の記憶でごっちゃになってるから、忘れていたけど。ヴァントリアには婚約者がいる。

 ゲームでは最も美しい姫として地上から地下都市へ招待され——攫われて、俺と結婚することが決められていた。

 可愛くて人気なキャラだったからヴァントリアと結婚なんて可哀想! とか、ウォルズやシストとも話したことがあるからノーマルカプとしてそれなりに人気はあったみたいだ。

 ヴァントリアとのやり取りはまあ見たことないけどな!

 ただ、その相手はくそみたいなヴァントリアに本気で好意を寄せている。ウォルズにあいつはやめておけと言われても「あなたに何がわかるのか」と怒り出したほどだ。

 それも幼少期からの知り合いらしく、地上の姫だからと隔離されていたため、話せたのは婚約者のヴァントリアくらい。

 だが、ヴァントリアは美しくて優しくて一途に自分を想ってくれる婚約者がいるにも関わらず、女性を強姦するわ部屋に呼ぶわ奴隷をいいように扱うわ。

 幼い頃彼女と話した記憶を思い出そうとすると思い出せる気もするが、何か思うところがあるのか、思い出し掛けるとストップが掛かる。

 彼女の名はウラティカシェハニエル・テュア。地上からの侵略を恐れた王族によって、人質として攫われ、政略結婚することによって戦争を免れた。そしてヴァントリアならいんじゃね、という理由で婚約。

 美しいエルフの姫として知られるが、顔を見られるのは国王と婚約者と彼女の世話係のみ。つまり肖像画で美しく描かれていたから美しい人だと皆賞賛したのだ。

 幼少期はよく遊んでいたが、その後は一度も会いに行っていない。彼女は外に出られない為、ヴァントリアが会いに行くしかないんだ。

 ——未だ閉じ込められてるなら、彼女も助けないとな。俺の被害者だし。流石にもう嫌われてるかも。

「会わなくても良いのでは?」
「え」
「バン様は我が家に嫁がれるのですから!」
「嫁がないけど!?」

 嫁げてたまるか! 幾らヴァントリアとは言え、俺は王族なんだぞ。いや元王族なら次期公爵と結婚してもいいのか?

 ——博士と。結婚。

「……無理」

 博士の表情が固まる。今にも泣きそうな顔でフラフラと寝返りを打つ、しまった、と思った。公爵家のプライドが許さないよな。

「ご、ごめん。でも俺男だし……」

 背を向けながらブツブツと呟く。

「ウロボス式なら男同士でも結婚出来ます」

 う、何度も言われた言葉……。

「は、博士は未だ子供じゃないか」

 それに博士の家は確かオルテイル一派。……いやでもヒオゥネがウロボスなら将来的にウロボス派になってしまうのか?

「子供でも婚約は出来ます」

 うう、引いてくれない。

「こういうのは好きな相手とちゃんと……」
「私はバン様を愛しております」

 うぐぅ、未だ恋を知らない子供からの好意。嬉しくないわけじゃないけど複雑。

 将来はお父さんと結婚する! ——って奴だな。複雑な心境は親の気持ちが分かるからだろうか。うんうん。


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