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第伍章

89話 不思議な人

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 再び意識が覚醒した時——跳ね上がるように起きて、博士の姿を探そうと周囲を見渡した。

「こ、ここは——」

 学校か?

 28層から26層は学園都市だ。
 28層ネクトヘイヴには学園都市ダルヘイヴ。
 27層ンランラには学園都市アトクタ。
 26層ヤイマーンには学園都市ナーハが存在した。

 この国で唯一の教育機関であるから、全部の層からここへ学生達が通うのだ。

 生徒達は学生証で限られたエレベーターを使うことが出来る。

「アトクタか。」

 ゲームでは貴族の生徒が通う学校だと説明される。
 ダルヘイヴ、アトクタ、ナーハは其々の紋章があり、校内の至る所にそのデザインが起用されているのだ。

 建物のデザインを見れば、アトクタであることは間違いない。

「ゾブド様! ゾブド様! 学校をおやめになると言うのは本当なのですか!?」

 幼い声が聞こえて振り返る。

 ……中学生くらいか? ここは中等部……ってことかな。

 ゾブドと呼ばれた黒髪の少年が振り返る。俺の横を通り過ぎて行った少年がゾブドの袖を引っ張った。

「しかもダルヘイヴへ入学すると聞きました! 貴方ほどの方がなぜ!」
「あそこには興味深い研究資料がいるからな」
「研究資料?」
「亜人だ。ダルヘイヴの生徒になれば身近で亜人の研究ができる」

 ……ダルヘイヴは人間だけでなく、他種族にも平等に教育を受ける権利があると宣言している。ダルヘイヴの影響で、28層ネクトヘイヴは人と亜人が最も仲良く暮らす都市となっていた。

 博士はやっぱり研究好きか。

 まだサングラスは掛けていないようだけど、いつから口説き出したんだろう。

 記憶に干渉してしまうから、今度は話しかけてはダメだ。前回は幼い頃だったしきっと忘れているだろう。

 博士は少年を置いて颯爽と去っていく。少年は博士の姿が見えなくなった後、地団駄を踏んだ。異常な位地面を蹴り続ける子供を覗き込むと、彼は何かを呟いているようだった。

「この俺より地位が高い癖にダルヘイヴへ降りるだと。地位だけでなくこの俺から首席も奪って置いて、一般人と仲良く勉強し直すだと。ふふふふふふ、ふふふふふ、テイガイアの野郎。覚えておきやがれ。この学園を辞めたことを後悔させてやる。そしてこの俺を貶めたこともな」

 怖くなって一歩下がると、少年は博士の行った方向を睨みながら言った。

「所詮魔獣ごときが」

 魔獣……? 博士はこの頃ヒオゥネには会ってないんじゃ。まだ魔獣ではないんじゃないか?

 分からないことが多いが、取り敢えず博士から離れては危険な気がする。少年を気にしつつ、追いかけて行く。あの子供……大丈夫だろうか。なんか、放って置いたらいけないような……。

 博士を追いかけようと少年の横を通り過ぎた道で、立ち止まる。少年の何を考えているのか分からない横顔を見て、やはり放って置けず引き返す。

「……まだ子供なのに。どうして博士もこの子も……」

 ——少年が突然振り返る。

 え。

「——っ、アンタは一体、いつ、ど、どうやって」
「へ!?」

 え、違う! 俺この子に話し掛けたつもりなんかなかったんだけど!?

「あ、えと。その。け、けけけけ見学に。叔父に頼んだら行っていいよーって。あはは。だから見て回ってたら君がブツブツ呟いてたから頭大丈夫かな打っちゃったのかなぁって」
「……はい?」

 はっ! しまった! 頭大丈夫かって、失礼じゃないか!?

 もうちょっとマシな誤魔化し方はなかったのか。

 めちゃめちゃ睨まれてる。不機嫌なのがビシビシと伝わってくる。なんだこの貴族とは思えない……ヤンキーに睨まれてるみたいな感じ。

 ……引きこもってたからヤンキーに会ったことなんかないけど。

「ご、ごめん。大丈夫ならいいんだ」

 頭を撫でると、少年の目が見開かれる。……なんだこのデジャヴ。

 博士と言い、……まさかお偉いさん方の親でも、我が子の頭を一切撫でないなんてことはないだろう。博士とこの子が特殊なのか?

「君、名前は?」
「……私はグラディオン。グラディオン・バークレイです。」
「……ぐらで、クレい」

 グラデーションが暗いのか? 意味分からん。

「グラデーション暗いくん、でいいのか?」
「グラディオン・バークレイ」

 ディオン? バークレイ?

「そうか。よろしくなディオン。俺は……バン。さっきここを通って行ったテイガイアに昔名付けて貰ったんだ」
「……ゾブド様を呼び捨て? 昔つけて貰ったとは、彼に拾われでもしたのですか」
「え。いや、えっと。小さな頃だからあっちは覚えてないと思うけど。テイガイアのお父さんと話をしただけだよ。時間潰しに少しの間一緒に過ごしただけ。そんなに重要な話じゃあなかったし、あの多忙なゾブド様じゃ覚えてないだろう」

 本当によくすらすらと嘘が出てくるものだ。……これも俺がヴァントリアだからなのか?

 巧みに悪者を騙してウォルズに、敵意を抱くように仕向けていたからな。ネットの書き込みを見る度、こいつのせいだとネット上で叩かれていたのを思い出す。否定しない、その通りだ。

「名前を付けてもらう意味がわかりませんが」
「名乗れる身分の者じゃないんだ」
「名乗れる身分の……」

 俺の言葉を反芻した彼が俺の姿を観察するように上から下へと眺めていく。

「……一般人はまずは入れない。しかも見学を許すほどこの学園は甘くない。ゾブド様の父上の知り合いということは……公爵家と繋がりがあると言うことですか。しかし公爵家でも、この学園がただの見学を許すなど、あり得ない」

 そう言えばこの学園は校則が厳しいんだったっけ。貴族の学園ということもあって、身分がお高いからな、兵士も学園に出入りするらしい……し?

 あれ、俺って兵士に見つかったら、やばくない?



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