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第五章 前編

65話 埋められない差

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 42層ジェイジィジェルィに到着してからは、そろそろ衣装が出来た頃だとウォルズが言うので、皆で取りに行くことになった。いつまでもローブのままじゃ動きにくいし、何より目立つと指摘されてしまった。

 確かに。動きにくい。

 ローブの下はシスト様に破かれた見廻りの服だけだから体に対しての抵抗はないが、ローブは無駄に長いし風が吹くとびらびらするし、更にほつれているところが色々なところに引っかかって動きづらい。

 いっそローブは脱いで——半分裸同然だが——破けた見廻りの服でいた方が動きやすさは格段に上がるだろう。

 まあこの街中で見廻りがハイブリッドを連れて歩ける筈もないけど。それに胸丸見えだし……。シスト様のせいで。

 ウォルズのデザインした服はなんかカッコよかったし嫌じゃないんだよな。……ただ二枚重ねになっていた下の方のデザイン案は見ていないから信用ならないが。

「おお、いらっしゃい。準備なら出来てるよ」

 これも定番の台詞である。装備や武器、衣服等の特定のアイテムを頼んだら、時間経過によって受け取りに行くことになっている。秒単位だったり、分単位、時間、数日後……なんてこともあった。

 お金を払えば時間短縮してくれるから、魔獣狩りで稼いだもんだ。

 店主が店の奥に行ってから、少し経つと荷物を抱えてやってくる。

 ——当たり前だがビニールには入ってないんだな。

 手渡されたくしゃくしゃの包み紙を開けると、正にウォルズのデザインした衣装が存在していて、思わず感嘆する。

「……凄い。よくあんなんだけでここまで再現出来るな……」

 俺の言葉を聞いてか、店主は鼻をすすって笑った。

「まあ、ざっとこんなもんよ」

 この台詞も受け取った時に言う言葉だ。

 ああ、いちいち店主の台詞はゲームの中そのもので感動するなぁ。

 胸を震わせていると、突然横から期待に満ちた悲鳴が上がった。

「はやくはやく! 早く着てみて万!」
「……う、そうだった。ウォルズが考えたんだ、一体どんな仕様になっているのやら……」
「酷いなぁ! でもいいから着て!」

 お前扱われ方に慣れてきてるな。

 着替えてるところを見られるの、恥ずかしいな……。銭湯なんかで着替えてる時は全く恥なんて感じなかったけど、……子供の頃だったからか?

 引きこもり生活で人と関わらなくなったから恥ずかしいのかな。

 いやいや、でも今の身体は前世の身体よりヒョロくないし。どちらかと言うと、ちゃんと男らしいと言うか。

 筋肉も一般兵士よりは付いているみたいだし、ザコキャラでもモブでも兵士よりは出番の多かったヴァントリアだからな。

 ……あれ、でもよく考えたら。モブでザコキャラな割に皆に知られてるんだよな、ヴァントリアって。

 ゲームの話になると必ずネタとして上がるし、カップリングのイラストや小説なんかにも当てつけ役としてよく出ていたし……嫌われ過ぎてもはや知らない人はいない位だった。

「……なんか寒い」

 色々考えながら衣装を着ていったが、見た目の想像通りになり過ぎて突っ込む気力さえ残っていない。

 ウォルズのデザインした隠されていた方のデザインの服はかっこいいし問題ない。……ただ、一着を除いては。

「何でこんなに背中開いてんの……」

 そう、もはや逆転の発想だ。シスト様が破いた服は前がおっ広げてたけど今は背中がおっ広げだ。

 何これもうヴァントリアって露出狂でいいんじゃないの。

「似合ってるよ! セクシーだよエッロいよ! 白い肌を今すぐ撫で繰り回したい!」
「そ、そうかな、えへへ。うん、俺はヴァントリアだからな、昔よりは自慢出来る身体だし悪くはないな」

 ジノが舌打ちした気がしたが気のせいと言う事にしておこう。

「それにしても……二人とも似合ってるじゃないか。いいなーそっちもいいなーイルエラのなら俺着れそうじゃない?」
「——ナチュラルに彼シャツをお望みになるヴァントリア可愛い!」
「もう俺お前に構うのやめようかな」
「ねえねえ万、背中触ってもいい? ちょっとだけ、先っちょ、ね、いやダメだよねこんな言い方じゃ、どっぷり触っちゃうからお願い!」

 先っちょですらねえじゃねえか。

 ぐいぐい背中に顔を近づけて目をキラキラさせるウォルズから思わず距離を取る。

「ああ……何てキメ細かい肌なんだ。想像してた以上にヴァントリアの肌綺麗……。どうしよう俺こんなの言葉に表現出来ない……フォロワーさん達に伝えられない……」

 だから其れ前世の話で伝えるどころか術がないだろう。

「だ、だからせめて俺の手に……ヴァントリアの毛穴という毛穴すべて、そして隅々の感触を俺の手にどうか……! どうかお恵みを!」

 手を伸ばされてひんやりとした掌が服の中に滑り込んでくる。上から触るだけじゃ済まないのか! お前こう出来ると計算して設計したな!

 おかしいと思ったんだこの服以外はまともだし……背中が開いてるだけで済むなんて。他に何かあるとしか……ひえ!

「ひああっ! つ、冷たいもう触るな!」
「うひょおおスベスベだー! ああまるでヴァントリアと夜を共にしている気分……」
「やめろ変な想像するな手を離せ!」

 うひょおってなんだうひょおって、本当に言う奴なんて初めて見たぞ。

 ウォルズの手を払いのけ、上から上着を羽織る。するとウォルズは自分でデザインしておきながらブーイングする。どんなに責められようが褒められようがもうお前の前では二度と脱がん。

「はっはっは、お前達元気でいいなぁ。そうだ、此方も揃ってるぜ」

 カウンターの向こうで何やらガチャガチャしていた店主が、ドカッとカウンターの上に置いたもの。それは。

「武器——ッ!?」
「ああ。ウォルズに頼まれててな」
「ふええ。すげー。此奴こんなものまで頼んでたのか」
「元々は俺用に頼んでたんだけど、今の武器の方が使い勝手がいいから万達にあげるよ」
「え、いいの!?」

 本当にウォルズって凄いんだ……。これめちゃくちゃ高い奴だよ。確か攻略本に載ってた。素材も簡単には手に入らないし。

 魔獣狩りの中でも最も強いと言われたドラゴン。森の主——マデウロボスの部位が素材として必要だ。

 そう言えば、ウォルズと出会ったのも魔獣狩りの森だったな。……そうか、魔獣狩りの後もウォルズはこの店に来てたから、その時に頼んでたんだ。

「……本当にいいのか? 苦労して手に入れたんだろ?」
「いや、目的のものを手に入れるために倒しただけだし。余った素材で作っただけだから」
「……目的のもの?」
「万の左足見て」

 左足?

 何かあるか?

 ——靴の装飾くらいしか……うわ、この石凄いな。真っ黒なのに透明感があって、なんか……中から溢れてるみたいな……。

「其れ……マデウロボスの中にあった素材なんだ」
「え。……じゃあこれが目的のものなのか? か、返すよ、そもそも何で俺の服に——」
「ヴァントリアの為に探してたんだ」
「え、えっと……」

 強い瞳でそう言われ、思わず怯む。

 そう言えば、武器にもこの石付いてるじゃないか。確か……攻略本で見たのは七色に輝く白い石だった気がしたけど。もしかしてこれもウォルズが自分で考えたのか?

 確か刀身も赤かった気がするけど、変色して……金属も錆びてるし……店主が今渡して来たんだから、古い訳ないよな……。

「少し二人になりたい。店を出よう」
「え……」

 手を引かれ、彼の導く儘について行こうとすると、「待て」とジノに止められる。

「僕はお前を信用した訳じゃねえ。ヴァンにまた妙な真似しようってんなら今のうちにやめておけ」
「……ウォルズ。お前は強いが、ジノと俺の二人で協力すれば少しはダメージを与えることが出来るだろう」
「無理だよ。君達じゃ弱すぎる。レベル20の差は埋められないよ」

 ——レベル20!?

 ジノとイルエラの初期レベルが50代だから……ウォルズは今レベル70位あるってことじゃないか!

 ランクは100を超えてるとは思ってたけど、200ももう近いんじゃ……。

「レベル……何の話だ」
「だから、君達と俺のレベルの違いの話だってば」

 ゾッとするほど、低い声がウォルズから放たれた。

 振り返り際にジノやイルエラに向けられた彼の目は、ゲームの中でも見たことがある、的を定めた時の凶暴な目だ。

 ウォルズ、急にどうしたんだ。……どこか焦っている様な。

「い、いいよここで。俺達会って間もないんだから、信頼がなくたって仕方がないよ。ウォルズだけじゃない、ジノだってイルエラだって、俺だって、たった数日しか一緒に過ごしてないんだ」


 何か話があるなら、ここで……。

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