64 / 293
第五章 前編
61話 第七層ドルフェマ
しおりを挟む第7層ドルフェマ——地下都市の最上級階の者達のみに利用が許された会議室が存在する。
また、それぞれの執務室、地下都市最大の裁判所等の施設も整っており、権力のトップクラスの者達が集う。
会議室は一つではなく全部で8部屋あるが、その内の一室は最上級階の者でも自由に入ることが許されない——王に招待された者のみがその時のみ利用出来る最大級の会議室モルトナがある。
他には最上階級の者達の為の医務室もあるし、休憩室なんかもあるが、滅多に利用する者はいない。
何故なら、自分専門の医師を帯同しているし、そこで自分より権力の高い相手とばったり出会って気を使うなど、彼らのプライドが許さなかったからだ。
ましてや王であるシストが側近を連れて歩いていることがある為、無礼を働いて目をつけられる——もしくは命を狙われるくらいなら、自分の部屋の方で過ごす方が最良の選択と言えた。
第7層ドルフェマの会議室モルトナで、ぼうっと地面を眺め続ける男がいた。
彼が異常であることは、今扉を開けて入ってきた男達にも一見すれば分かっただろう。
王である自分が入ってきたのに、その男は地面に顔面を押し付けながら、虚ろな瞳で微動だにしないのだから。
「ウロボス帝、セル・ウロボス。態々きてもらって申し訳ないね」
王——シストは爽やかな笑顔でそう言って自分の席へと向かう。彼の側近が先に向かって、彼が座る前に椅子を引く。
本来なら向かい合わせで座る筈の相手は未だ地面と睨めっこしている。
相手の側近はどうしたら良いのか分からないのか、それとも慣れているのか、彼の後方の壁に張り付いたまま動かない。姿勢良く主人を見守る姿はまるで銅像のようだ。
見守ってないでどうにかして欲しいのだが。
会議ではなく会食のため、次々に料理が運ばれてくるが、まだ相手は席に付かないどころか目すら合わせない。
「席に着いてもいいんだよ」
一回聞いただけなら優しい声音に聞こえるが、慣れてくるとシストが不機嫌であることが理解出来るようになるだろう。
セルもウロボスの長になってからずっと王の会議に参加してきたし、他の仕事に第7層へやって来た時も王に鉢合わせすることだってあった。毎度の如く斬り掛かっていたからか、シストは顔には出さないものの彼の前ではいつも不機嫌だ。
王である自分に対して突然斬り掛かってくるのだから当たり前といえば当たり前だが。
更に彼に追い打ちを掛けたのが、汚い色だと施設をめちゃくちゃにするわ怪我人死人は出すわで……セルが関わると散々な目に合う。地下都市に住む殆どが出来れば会いたくないと考えていることだろう。
「——今回は君の今後の仕事について話しておきたくてね。」
第7層に来る度工事を行うと、出入りできなくなり他の者の仕事に支障を来たす上、セルは暴れるだけで仕事をしようとしない。
だからこそ彼の支配層である、彼の望む環境に仕事を持ち帰ることを許しているが、其れにも限界がある。
どんなに特別待遇しようと、絶対に持ち出し禁止である仕事があり、それが手をつけられずに山ほど残っているからだ。
彼だけ特別待遇していることに異を唱える者も出て来たし。
何より彼は優秀だ。
この仕事は私とセルしか出来ない内容ばかりだ。つまり彼が手をつけない仕事は私が全てするしかない。正直言って彼の所為で寝ていない。
よく考えたらどうして私がこの男の仕事までやらなきゃならないんだ。
最上階級の中でも天才と謳われ史上最高の完璧人間だと名が知られた男、セル・ウロボス。
……どこが完璧なんだどこが。
たった一つの色じゃないだけで、動揺する人物になんてこいつ以外に会ったことがない。
社交的な付き合いで仕方なく誕生日にその色のプレゼントを用意してやった時だって汚いと目の前で八つ裂きにされた。
どう汚いのかと聞けば。
美しくない、濁ってるだろ、分からないわけないよね。嫌がらせかな。シスト様は意地悪だからね。困ったなぁ、俺が求めるのはもっと繊細で純粋な……純白な美しい色だよ。
——……なんて言うじゃないか。純白な赤などあってたまるか。
そもそも何でこいつ、赤のことを赤と呼ばないんだ。美しい色、等と称しているが皆赤が好きなんだと理解出来るレベルに狂ってるくせに。
「理想……」
セルがポツリと呟くと、ぐるぐると思考を巡らせていたシストが反応して顔を上げる。
相手に視線を向ければ、その表情は今にも蕩けそうな恍惚とした表情をしており、口からははしたなく涎が垂れている。
王の前で席にも付かず、心あらずで、涎も垂らす。
そしていつもなら斬り掛かる筈なのにモーションはない。施設を壊した気配もない。怪我人もまだ出ていない様子だ。
本当に一体何があったんだ。
20
お気に入りに追加
1,929
あなたにおすすめの小説
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される
秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】
哀れな魔力なし転生少年が可愛くて手中に収めたい、魔法階級社会の頂点に君臨する霊体最強魔法使い(ズレてるが良識持ち) VS 加虐本能を持つ魔法使いに飼われるのが怖いので、さっさと自立したい人間不信魔力なし転生少年
\ファイ!/
■作品傾向:両片思い&ハピエン確約のすれ違い(たまにイチャイチャ)
■性癖:異世界ファンタジー×身分差×魔法契約
力の差に怯えながらも、不器用ながらも優しい攻めに受けが絆されていく異世界BLです。
【詳しいあらすじ】
魔法至上主義の世界で、魔法が使えない転生少年オルディールに価値はない。
優秀な魔法使いである弟に売られかけたオルディールは逃げ出すも、そこは魔法の為に人の姿を捨てた者が徘徊する王国だった。
オルディールは偶然出会った最強魔法使いスヴィーレネスに救われるが、今度は彼に攫われた上に監禁されてしまう。
しかし彼は諦めておらず、スヴィーレネスの元で魔法を覚えて逃走することを決意していた。
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
聖女召喚!……って俺、男〜しかも兵士なんだけど?
バナナ男さん
BL
主人公の現在暮らす世界は化け物に蹂躙された地獄の様な世界であった。
嘘か誠かむかしむかしのお話、世界中を黒い雲が覆い赤い雨が降って生物を化け物に変えたのだとか。
そんな世界で兵士として暮らす大樹は突然見知らぬ場所に召喚され「 世界を救って下さい、聖女様 」と言われるが、俺男〜しかも兵士なんだけど??
異世界の王子様( 最初結構なクズ、後に溺愛、執着 )✕ 強化された平凡兵士( ノンケ、チート )
途中少々無理やり的な表現ありなので注意して下さいませm(。≧Д≦。)m
名前はどうか気にしないで下さい・・
僕のお兄様がヤンデレなんて聞いてない
ふわりんしず。
BL
『僕…攻略対象者の弟だ』
気付いた時には犯されていました。
あなたはこの世界を攻略
▷する
しない
hotランキング
8/17→63位!!!から48位獲得!!
8/18→41位!!→33位から28位!
8/19→26位
人気ランキング
8/17→157位!!!から141位獲得しました!
8/18→127位!!!から117位獲得
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる