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第五章 前編
58話 邂逅
しおりを挟む身の内側から煮えたぎる様な熱い感覚がほとばしる。
ぶるぶると異常に震える自分の身体を抑え込むなんて高慢はしない。背筋を彗星のように駆け抜ける歓喜に打ちひしがれ、本能のままに身を委ねていた。
「…………り、……そう。——お、俺のっ、理想! まさか、あんなに美しい者が存在するなんて……! これはもはや運命じゃないか! 俺達は……愛し合う運命! 」
「——セル様!」
ぞろぞろと背後から兵士がやって来て自分の姿を見て呆気にとられて立ち尽くす。
びくびくと震える自分の身体を引きずりながら、網膜に焼き付いた彼の美しい姿を未だ懸命に納めようと釣り糸で吊られるようにその姿から目を離せない。
「理想……りそう。理想リソウ理想……オれの、」
美しい色の髪が風に乗って、やがてふとこちらに振り返る。視線が、バチリと火花を散らすように絡み合い、美しい瞳がしっかりと自分の姿を映している様を見て、ブルリと満身に高揚が駆け抜けて行く。
「ああ、あああ、あああああああああああああああああああ————…………………」
ああ、なんて、綺麗なんだろう。
「理ソオオおおおおおおおぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオおおおおおおおおうぅぅううウウッ!!!!!」
.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+
それは。
本軸のエレベーターを突き抜け、全階層を揺さぶるくらいの声量だった。
大地を震わせる凄まじい叫喚にかつてない規模の渇求を感じた人々は打ち震え、あまりの異常な欲の入り混ざりは天空の第1層である王宮にまで届き、執務を熟していたシストの手も止まった。
もちろん、彼のデザイアを一身に受けてしまった相手の耳にも。異常な事態であることが伝わった。
その異常を向けられいる相手が自分であることなんて、気づきもしなかったけど。
「何だ?」
「——ば、万! 俺の後ろに隠れるんだ!」
「え、ちょ、」
ウォルズは自分の背に隠すように前に出て、前にいるだろう人物の目から隠そうとする。
「——ッふ……ざけないでくれよ
……汚い色がしゃしゃり出るなよッ!!!!!!!!」
キイイインと鼓膜が痛み、思わず皆して耳を塞ぐ。——とたん、ウォルズの身体が見えない力に薙ぎ倒されるように横に逸れてエレベーターの壁に激突した。
閉じようとする扉も不自然に止まり、直ぐに全開になる。
エレベーターの周りを囲んでいた大勢の兵士もあらゆる方向に吹っ飛ばされていく。まるで掃除されているみたいにどんどん端へ追いやられる彼らを見ながら、ゴクリと唾を飲み込んだ。
——一体何が起きて。
「うっ」
「ぐあッ——」
「ジノっ!? イルエラっ!?」
ウォルズだけではなくジノとイルエラまで引っ張られるように飛ばされてしまう。エレベーターの外に出てしまい、兵士に捕らえられてしまうんじゃないかと心配したが他の兵士も全て周りから消えていて、やがて額に冷や汗が流れた。
目の前の光景に何処か既視感を覚えてから。向こうの木の下から姿を現した相手に思わず息を呑む。
「……セ、セル」
セル・ウロボス。
ルーハン・メリットスの兄、ウロボスの最高支配者。
セル・ウロボスじゃないか!
そうだ、彼ならこの不自然な状況が説明出来る。これはセルの片目の能力の一つで、あらゆるものを操る力——操作——と呼ばれる力だ。
セルは眼帯が特徴的なキャラクターで、オッドアイと呼ばれる類の瞳をしている。彼の瞳はハイブリッドの力と類似しているが人間という設定だ。
考察ではハイブリッドの必殺技となる黄金の瞳はセルの力も実験に使われたからではないかと推測されていた。セルの瞳は黄金、銀色、七色、猫目の輝く青色、の四色に変化する。
その内でも第一の力と呼ばれる黄金の瞳はジノやイルエラ含む一部のハイブリッドが使えるし、第二の力である銀の瞳はルーハンも他のハイブリッドも使える。
第三の力の七色の瞳と第四の力である輝く青色の瞳はセルにしか使えない力だ。
考察組の考察は正しいとみていいだろう。
赤色が好きで、自分の支配層の街並みや人々、食べ物までも赤色で染め尽くし、自分の青い髪を嫌って鏡を一切置かせない。
赤い衣に身を隠さずに会っていいのは弟であるルーハンのみで、地下都市の頂点であるシストにも切り掛かるほど他の色は嫌悪している。もはや憎悪の類だ。
ルーハンに似た青く癖のある髪を風に靡かせながら、ゆっくりと、しかし強い足取りで迷うことなくこちらへ向かってくるセルの迫力に思わず後ずさる。
ルーハンは薄い、何方かというと水色に近い青だったが、セルは海のように深い青色の髪だ。
ただ、眼帯に隠れた瞳の力を知っているからこその恐怖と、彼から溢れるプレッシャーがさらに汗の量を増加させる。ただ、普段赤い眼帯をつけている筈の目にはそれは付いておらず、銀色の瞳が露わになっている。彼の瞳の通常状態は第二の銀色の瞳を発動したままの状態であると本にも書かれていた。
その瞳が自分に向けられていることを確認した途端、自身の死を覚悟して思わず握った拳がブルブルと震え始める。
セルはこちらを鋭い目つきで睨みつけたまま、直ぐそこでピタリと足を止めた。数分経っても不動の彼に思わず声を掛ける。
「あ、あの」
「……なんてことだ」
「え?」
ぐんっと顔が近付いて、咄嗟に後ろへ逃げれば、もともと狭いエレベーターの中だ、壁に追いやられ、ダンッと横に手を突かれ囲われて逃げられなくなってしまう。
「あ、あああ、あ」
ボタボタとセルの唇の端から透明の液体が滝の様に流れ始め、口の中に溜まってしまったのかゴポゴポと泡まで立ち始める。
ぜ、絶食でもしてたんだろうか。俺は美味しいものなんか持ってないですよ。いや、もしかしたらヴァントリアがグルメで菓子を食べまくっていたから恨まれているとか……。
「ふあっ!?」
俯きながら考えているとガッと両頬を掴まれ、上を向かされバッチリと瞳を合わされてしまう。
うわっ、近くで見るとめっちゃ美形!
そう言えば俺、WoRLD oF SHiSUToを初めてプレイした頃の一番好きなキャラってセルだったんだよなぁ。ずば抜けて戦闘能力が高くて、しかも無敵だと言われていた彼はとてもカッコよく目に映っていたもんだ。
けど、実物もかっこいい。……涎垂れてるけど。
先刻だってジノやイルエラ、ウォルズ迄吹き飛ばされてしまったが、今思えばなんていう力なんだろう。
興奮でゾクゾクと寒気が走る。
——ただ、皆も心配だし、そろそろ離れて欲しいんだけど……。
ぐ、と胸を押すと、掴まれていた両頬を離され、ガッと腰を掴まれてしまう。
「あああ見れば見るほど美しい! なんて綺麗なんだ! こんな、こんな美しい人が存在しているなんて! 求め続けてよかった、神は本当にいるんだ、凄いよ! 俺って愛されてる!」
「は、……は?」
「愛してるッ!!!!」
「……………は、」
「俺はお前と愛し合う運命なんだッ!!!!」
――――ん、え、は、うえ、
「はああああああ————ッ!?!!?」
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