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第四章
51話 真っ赤な兵士
しおりを挟む枷を外して自由になった身を守る為、後ろに迫る男から一目散に逃げるように走った。
むやみやたらに走り続けているが、ルーハンの城にはあらゆる仕掛けが施されており、からくり屋敷と呼ぶべきかそれ以上危険度が増し過ぎて呼ばないべきか。とにかく、ゲームではゲームオーバーばかりを与えられたものだ。
現実の世界では正に死の迷路だが、ヴァントリアの脱出系魔法はその仕掛けを見事に停止させると言うとんでもなく便利な代物だった。
流石は脱出、脱獄に長けた魔法だ。魚を焼くことしか出来ない王族ではないようだな。
にしても脱獄する為の魔法にだけ特化してるなんてまるで逃げるしか生き延びる術がないと言われているような気がする。いや、お前は弱っちいから逃げる力を磨きなさいと言われている気がする。
どちらにせよこの魔法はザコキャラにはお似合いで必須な魔法だろう。
それにしても……ゲームではモブとして登場したヒオゥネ・ハイオン。テイガイア・ゾブド博士の助手で、かなり優秀だと気に入られていた。
実験の時はいつも傍にいたし、博士がいる処にヒオゥネありと言っても過言ではない位呼ばれたらすぐ現れる。
彼はモブの割に非常に人気の高いキャラクターだった。
もちろんモブの割に見目が良いことも人気の一つだろうが、シストの世界ではあまり見られない人懐っこい爽やか青年であったことも人気の理由だろう。
博士の怠惰を厳しく注意する様や正しさを追求する考え方など、世界の中で最も一般常識を持っているだろう人物だった。
また、シストやルーハン、セルを始め敵キャラに対しても信頼を持たれる存在で、彼等を説得して主人公の手助けをするなど立ち回りもうまい。
表裏のない性格が人気を得ている理由だろう。しかし。
そのヒオゥネ・ハイオンと追いかけっこ状態にあるのも事実なのである。
あはは、待て待て~。あはは、こっちよ~。
——って、そんな雰囲気な訳あるか……!
何なんだ彼の狂気に満ちた無表情は! あの足の速さは! どうして彼にも仕掛けが発動しないんだ!
もはや本当にただの追いかけっこである。しかも俺の体力はもう既に限界だ。彼が追いついてこないのは多分態とだろう。此の不利な追いかけっこの現状を楽しんでいるのだ。
——何とか角に逃げのびて、ヒオゥネが違う方向へ向かっていくのを確認する。
ほっと胸を撫で下ろして、よし、このまま逃げようと周囲を警戒しながら進んでいく。
そんな時だ、ちょうど人気がないと判断して通り過ぎようとしていた扉が、ガチャリと音を立てて開いてくれちゃったのである。
「……だから、もう少しここで待っててくれ——」
扉から出てきたルーハンとご対面してしまった。
俺の姿を見た途端、ルーハンはギョッとする。
「えー。そんなこと言わないでよ。俺暇なんだよね、お前の迷宮探検させて」
部屋の奥からルーハンに掛けたであろう声が聞こえたとたん、バタンとルーハンは扉を締め切ってしまった。其の後扉が開こうとするのを全力で拒否しながら此方を向いてただ事じゃない形相で叫んだ。
「早く行け!」
「え、逃してくれるのか!」
「はあ!? んな訳ないじゃないか——」
「ありがとう!」
何だ、此奴いいじゃないか!
ポカンとルーハンは呆けてしまったが、取り敢えず先を急ごう。
「ゆ、誘拐したのは俺だぞ! お礼なんか言うな!」
背中にそんな声を掛けられたが現に逃がしてくれているしツンデレという奴だと思う。うん。
ゲームでルーハンの手から逃げるストーリーがあったから逃げ出すまでの経路は分かっている。ただ、先刻も言った通りトラップも多いし出口までが非常に遠いのだ。毎度のごとくゲームオーバーにされる回で一人で攻略できるかどうか不安だ。
まあ、脱出系魔法の得意なヴァントリアにはちょちょいのちょいだ。
仕掛けが働かない魔法があることもあるが、王族の証を持っていることで作動しないのかもしれない。確かウォルズの時はシストの王族の証は回収されていて所持していなかった。
しかし、ルーハンは何故此の青い王族の証を回収しなかったんだろう。
そうか。彼はオルテイル一族ではなく兄のウロボス一族の一員だ。オルテイルの王族の証等持っていても意味はないし、権力等には興味もなさそうだ。
それにしても、なんと言うか、こう言うのなんて言うんだ、デジャヴ?
ジノを助けに脱走した時のことを思い出すな。
ルーハンやヒオゥネには顔が知られているし、見回りに変装するのは難しそうだ。
——そう考えた時、赤い服の赤い仮面を被った全身隠している衣装を身に纏った兵士が通り掛かった。
来た! 俺はなんてラッキーボーイなんだろう!
いやぁ流石しぶといヴァントリア・オルテイル様だな。
よし、そうと来たら。さあ、お着替えしましょうねぇ。
此れが一般の兵士なら、ヴァントリアと同等、もしくはヴァントリア以下の力しか持っていないザコキャラだ。
——襲いかかった途端に地面に伏す羽目になったのは何故だろう。
赤い衣装の兵士に抱き起こされて、仮面の奥の瞳が見開かれるのを見て不思議に思う。
「此れは……」
何だ?
「うわっ、ちょ、おい下ろせ!」
——突然イルエラにされるみたいに肩に担がれて、当の兵士は先刻ルーハンに逃がして貰ったばかり扉の方へ進んでいく。
——待て待て待て待て!
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