51 / 293
第四章
48話 根底の隠しモノ
しおりを挟む服の上からでも大きくなっているのが分かる其れに、やっと状況の整理が付いた。
この男、小動物の可愛さに欲情する特殊な男だったかっ!
「お、オイ、ま、待って……」
足りないと言わんばかりにズボンの中に手を入れられて、初めて触った他人の感覚に脳が麻痺する。
頰が熱くなって、肺から息が押し出され、全身からこれ以上はダメだと悲鳴を上げられる。
「る、るーは、……だ、ダメだって、此れ、だって此れはヤバイって」
首筋に強く吸い付かれたとたん、どろりと自分の鼻から何かが吹き出した。
このタイミングで、其れはないだろう。
——とたん、ルーハンの顔が視界を埋め尽くして鼻の下に濡れた感触が広がる。
血液を必死に吸い上げようとするルーハンの餓えた表情を見てゾッとした。
足りないと瞳が語っている。もっと、渇く、欲しい、もっと欲しい、と。
首筋で大きく口を開けた彼の牙を見て、ひっと声を上げた時だった。
彼はピタリと動きを止めて、突然顔を覆って唸り出したのだ。
そうしてくたりと身体を預けてきて、よく分からないが彼の落ち着いた様子にどっと疲れを感じたのと同時に安心感を覚えた。
「……お前は、僕と同じなのかもしれない。分かるよ、お前の気持ちが。」
と頬を撫でられて、「何の話だ」と尋ねる。
ルーハンはくすくすと笑い出す。先刻迄の行動を振り返って其の笑いを繰り出されると狂気の沙汰なのだが。
「普通なら恐れて醜い顔をするのに、お前は強い瞳で睨んでくるんだね。でもその顔を歪ませるのが楽しいんだ。」
首筋にちくりと痛みが走る。一瞬歯を立てられたかと考えたが、ルーハンの顔がすぐに目の前へ移動してきた事で、どうやらやめたらしいと考えた。
「……怖いとは思わなかったのかな。血を飲む迄。如何してキスした時に先刻の顔を見せなかったんだい」
「だから、何の話をしてるんだ……」
ルーハンはくすりと陽気に笑う。
「お前は先刻の俺の方がいいと言ってくれたけど。俺は此方の方がいい。お前を特別だと考えたとたん理性が飛んでしまった。久し振りだったよこんなに強い欲望を感じるのは。お前もまんざらじゃないのかなって思ったんだけど。先刻の顔を見て分かったよ。怖くて動けなかった、そうだろう?」
何だその無理してる表情は。口調は。
突然どうしたって言うんだ。
「俺は誰かを苦しめて快感を得てきたのに。お前じゃ少しも興奮しない。そんなのダメだろう。そんなの俺じゃない。俺と同じ……? そうかもしれない。でもそれじゃダメなんだよ、同情なんか求めてお前に理解を求めるなんて。お前を拷問して俺が喜ぶと思ったかい、少しもダメだ。お前の困った顔もお前の分かってない顔も可愛くて興奮するけど。お前の嫌がる顔もお前の怖がる顔も、少しも興奮しないなんて、そんなの俺じゃないだろう」
「る、ルーハン? 無理してないか?」
「してるよ。身体は今すぐ其の白い首に歯を立てて血を飲んでしまいたいのに。お前を苦しめると分かったとたん脳は飲みたくないと考えてしまった。」
「飲めばいいだろ」
「怖いくせに。痛いのが、苦しいのが、お前は俺と同じ人種だ。痛みも苦しみも忘れる為に、他の誰かに与えて憂さ晴らししてたんだ。苛立つからだ、自分じゃない、俺はそっち側じゃない、俺は貶める側に立ちたい。無意識に身体がやるんだよ、奥に燻る感情を使って身体をコントロールし始める。お前は再び受けると言ったんだ。俺に拷問され続けるって、またあの日々に戻ると自分から飛び込んできたんだ。何故怖がらない。本当は戻りたくなんかないんじゃないのか」
此奴の考えていることが分からない、此奴の望む答えが分からない。でも、俺は知ってるんだ。ジノの身体の傷痕を自分が残した、他にも誰かの身体に残ってる筈だ。心も身体もズタズタにしてきた。だから。
「俺なんかよりずっと苦しみ続けてきた奴がいる。だから、怖いと思っても其れを受け入れる覚悟位持ってないとダメだって思うんだ」
ルーハンはじっと此方を見つめた儘動かなくなる。
「其れはもしかして俺のこ——」
「——ルーハン様ッ!!」
——何かを言おうとしたルーハンに呼び声が掛かる。慌てた様子で兵士が敬礼も忘れて叫んだ。
「——報告致しますッ!! ウロボス帝がお見えになりましたッ!!」
「な、何……!? 兄さんが——何で、」
ルーハンはハッとして此方に振り返る。だらだらと汗をかいてじっと此方を眺める様は、ただ事ではないと告げていた。
「やあ~入るよ。ルーハン。元気にしてたかな我が弟よ~」
胡散臭い陽気な声が聞こえて、扉の開く音がする。とたん、掛け布団で覆い隠されて「静かにしてろよ」と耳打ちされた。
其の後に告げられた言葉の意味を考えて、結局訳がわからなくて結論に至っていない。
「兄さんにお前を見せるわけにはいかない」
20
お気に入りに追加
1,932
あなたにおすすめの小説
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
【完結】足手まといの俺が「史上最強パーティを離脱したい」と言い出したら、なぜか国の至宝と呼ばれる剣聖とその親友の大魔道士に囲い込まれる話
.mizutama.
BL
※完結しました!ありがとうございます!
「もう潮時だろう? いい加減に目を覚ませ! お前はあの二人に遊ばれているだけなんだ!」
勇敢な冒険者を目指すティト・アスティは、魔法学園の下男として働きながら、いつか難攻不落と言われる国内最大のダンジョン攻略の旅に出ることを夢見ていた。
そんなある日、魔法学園の最上級生で国の至宝とよばれる最強の魔剣士・ファビオが、その親友の魔導士・オルランドとともに、ダンジョン攻略のための旅に出るための仲間の選定を行うことになった。
皆が固唾を飲んで見守る中、どんなめぐりあわせかそこにたまたま居合わせただけのティトが、ファビオにパーティのメンバーとして指名されてしまった。
半ば強引にパーティに引き入れられ冒険の旅へ出る羽目になったティトだったが、行く先々での嘲笑や嫉妬、嫌がらせ、そして己の力のなさに絶望し、ついにはファビオとオルランドにパーティ離脱を申し出る。
――だが、ファビオとオルランドの反応は、ティトの予想だにしなかったものだった……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
タイトルそのまま。ありがちな設定と展開。タイプの違う美形攻め二人×鈍感庶民受け
溺愛系を目指しています!
※注1 一対一嗜好の方には激しくオススメできない内容です!!
※注2 作者は基本的に総受け・総愛されを好む人間です。固定カプにこだわりがある方には不向きです。
作者の歪んだ嗜好そのままに書かれる物語です。ご理解の上、閲覧ください。
複数攻め・総受けが好きな人のために書きました! 同じ嗜好の人を求めています!!
クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。
とうふ
BL
題名そのままです。
クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。
転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話
鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。
この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。
俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。
我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。
そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる