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第四章

48話 根底の隠しモノ

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 服の上からでも大きくなっているのが分かる其れに、やっと状況の整理が付いた。

 この男、小動物の可愛さに欲情する特殊な男だったかっ!

「お、オイ、ま、待って……」

 足りないと言わんばかりにズボンの中に手を入れられて、初めて触った他人の感覚に脳が麻痺する。

 頰が熱くなって、肺から息が押し出され、全身からこれ以上はダメだと悲鳴を上げられる。

「る、るーは、……だ、ダメだって、此れ、だって此れはヤバイって」

 首筋に強く吸い付かれたとたん、どろりと自分の鼻から何かが吹き出した。

 このタイミングで、其れはないだろう。

 ——とたん、ルーハンの顔が視界を埋め尽くして鼻の下に濡れた感触が広がる。

 血液を必死に吸い上げようとするルーハンの餓えた表情を見てゾッとした。

 足りないと瞳が語っている。もっと、渇く、欲しい、もっと欲しい、と。

 首筋で大きく口を開けた彼の牙を見て、ひっと声を上げた時だった。

 彼はピタリと動きを止めて、突然顔を覆って唸り出したのだ。

 そうしてくたりと身体を預けてきて、よく分からないが彼の落ち着いた様子にどっと疲れを感じたのと同時に安心感を覚えた。

「……お前は、僕と同じなのかもしれない。分かるよ、お前の気持ちが。」

 と頬を撫でられて、「何の話だ」と尋ねる。

 ルーハンはくすくすと笑い出す。先刻迄の行動を振り返って其の笑いを繰り出されると狂気の沙汰なのだが。

「普通なら恐れて醜い顔をするのに、お前は強い瞳で睨んでくるんだね。でもその顔を歪ませるのが楽しいんだ。」

 首筋にちくりと痛みが走る。一瞬歯を立てられたかと考えたが、ルーハンの顔がすぐに目の前へ移動してきた事で、どうやらやめたらしいと考えた。

「……怖いとは思わなかったのかな。血を飲む迄。如何してキスした時に先刻の顔を見せなかったんだい」
「だから、何の話をしてるんだ……」

 ルーハンはくすりと陽気に笑う。

「お前は先刻の俺の方がいいと言ってくれたけど。俺は此方の方がいい。お前を特別だと考えたとたん理性が飛んでしまった。久し振りだったよこんなに強い欲望を感じるのは。お前もまんざらじゃないのかなって思ったんだけど。先刻の顔を見て分かったよ。怖くて動けなかった、そうだろう?」

 何だその無理してる表情は。口調は。

 突然どうしたって言うんだ。

「俺は誰かを苦しめて快感を得てきたのに。お前じゃ少しも興奮しない。そんなのダメだろう。そんなの俺じゃない。俺と同じ……? そうかもしれない。でもそれじゃダメなんだよ、同情なんか求めてお前に理解を求めるなんて。お前を拷問して俺が喜ぶと思ったかい、少しもダメだ。お前の困った顔もお前の分かってない顔も可愛くて興奮するけど。お前の嫌がる顔もお前の怖がる顔も、少しも興奮しないなんて、そんなの俺じゃないだろう」
「る、ルーハン? 無理してないか?」
「してるよ。身体は今すぐ其の白い首に歯を立てて血を飲んでしまいたいのに。お前を苦しめると分かったとたん脳は飲みたくないと考えてしまった。」
「飲めばいいだろ」
「怖いくせに。痛いのが、苦しいのが、お前は俺と同じ人種だ。痛みも苦しみも忘れる為に、他の誰かに与えて憂さ晴らししてたんだ。苛立つからだ、自分じゃない、俺はそっち側じゃない、俺は貶める側に立ちたい。無意識に身体がやるんだよ、奥に燻る感情を使って身体をコントロールし始める。お前は再び受けると言ったんだ。俺に拷問され続けるって、またあの日々に戻ると自分から飛び込んできたんだ。何故怖がらない。本当は戻りたくなんかないんじゃないのか」

 此奴の考えていることが分からない、此奴の望む答えが分からない。でも、俺は知ってるんだ。ジノの身体の傷痕を自分が残した、他にも誰かの身体に残ってる筈だ。心も身体もズタズタにしてきた。だから。

「俺なんかよりずっと苦しみ続けてきた奴がいる。だから、怖いと思っても其れを受け入れる覚悟位持ってないとダメだって思うんだ」

 ルーハンはじっと此方を見つめた儘動かなくなる。

「其れはもしかして俺のこ——」
「——ルーハン様ッ!!」

 ——何かを言おうとしたルーハンに呼び声が掛かる。慌てた様子で兵士が敬礼も忘れて叫んだ。

「——報告致しますッ!! ウロボス帝がお見えになりましたッ!!」
「な、何……!? 兄さんが——何で、」

 ルーハンはハッとして此方に振り返る。だらだらと汗をかいてじっと此方を眺める様は、ただ事ではないと告げていた。

「やあ~入るよ。ルーハン。元気にしてたかな我が弟よ~」

 胡散臭い陽気な声が聞こえて、扉の開く音がする。とたん、掛け布団で覆い隠されて「静かにしてろよ」と耳打ちされた。

 其の後に告げられた言葉の意味を考えて、結局訳がわからなくて結論に至っていない。



「兄さんにお前を見せるわけにはいかない」


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