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第三章
41話 これはもう癖としか言えない
しおりを挟む目が覚めるとそこは宿屋だった。ウォルズに紹介された宿屋ではないとイルエラに言われる。
「聞く話では北端にエレベーターがある筈だ。41層へ移動するぞ」
「酒場で色んな人に声掛けてたのは逃亡ルートを確保する為だったんですね」
そんなことしてたのか。いつの間に……。
ジノは気付いていたみたいだが、俺は気が付かなかった。ハイブリッド同士お互いの行動を気にしているらしい。
宿屋を出た後、フードを深く被って移動する。闇夜に身を隠すには向いている服だ。もし白い衣装を着ていたら身を隠すのは困難だったろう。買った服が勿体無い気もするが今回は諦めよう。
「そうだ、本軸は使わないのか」
「本軸のエレベーターには守護者がいるだろう。奴が常にシストへ情報を送っている。本軸のエレベーターの状況はシストには丸見えと言うことだ。」
知らないのか、と言った風に顔を曇らせて説明していただき恐縮です。
ゲームでも本軸のエレベーターしか使えない展開になり、居場所がバレて追われるって言うシーンが何度もあった。
——いや、設定は知ってたけど。すっかり抜け落ちていたと言うか。
もしかしたら此の貰った青い王族の証でひとっ飛びみたいなことないかなーって。
考えが見え見えらしい。イルエラは首を振る。
「その指輪は滅多な所では使わない方がいい。本軸は高エネルギーで動いているからな。お前の身体が心配だ。」
「俺の身体? 何で?」
「其の指輪は呪いを吸収し、呪いを放出していた。思い当たる節があるだろう」
考え込んで見るが。
「全然ねえな」
「ハァ、莫迦め……」
呪いを吸収、放出……か。
そう言えば、エレベーターを使った時に指輪から黒い模様が走った。エレベーターに乗った時、少量だが入ってきた霧を指輪が吸い込んだように見えたな。
「……もしそうだとしても、俺の身体には何も……」
「——いや、お前の身体を触った時——」
イルエラが言いかけた途端、ハッとする。
「ウォルズは如何した!?」
店内に残っていたヒュウヲウンと彼を思い出して、慌てると、「心配はいらない」とイルエラが頭を撫でてくる。
「奴は魔獣の長を倒したような奴だぞ」
「そ、そうだな。」
「夜のうちに41層へ行くぞ」
そう言うとイルエラは俺を横抱きにする。ちょっと待て。
「下ろせ」
「お前は遅い」
うぐぅ……た、確かに、ザコキャラだから……しかた、ないけどさぁ。もっとやんわりと言ってくれたりとかしてくれたりとかしてくれないか。
路地裏を移動していたからだろうか、再び女性が襲われているのを目撃する。
ヒュウヲウンの時のように悲鳴はあげていないが、涎を吐き目をひん剥いて白目になりかけている。表情が恐れで歪み、正に異常だった。
助けようと腕から飛び降りたが、イルエラに抱き止められる。
「お前は自分の状況が分かっていないのか」
「わ、分かってる。逃げなきゃいけないのは、でも前回はお前も一緒に——」
「お前は俺達を逃し45層の呪いを44層まで持ち込ませた。その罪は全てお前にかけられているんだ。」
「え……」
如何言うことだ。
……いや、その通りだ。
イルエラの檻の前にいたのは俺だ。シストが俺がイルエラを操って逃げたと考えない筈がないのだ。
しかし、今度こそ女性の悲鳴が聞こえて、後ろから覆い被さり首筋にかぶりつくそれを見て、ゾッとする。だらりと下がる女性の腕。
——助けなきゃ。
イルエラを突き放し、真っ先に女性の方へと走り出す。
「——莫迦!」
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