38 / 293
第三章
35話 後悔する転生者
しおりを挟むウォルズの鼻先が自分の鼻先に擦れて、熱い感触が唇に乗せられる。
「んんっ」
ぢゅううううっぢゅうっぢゅ、ぢううっと、激しく吸い上げられる。気持ち悪い。
——自分の唇の前にある自分の掌を見て、安堵する。
其の光景を眺めていて掌に感じる唇のふにゃふにゃした感触に、ごめんなさい、無理でした、と自分の情けなさに落胆した。
ウォルズの吐息を感じた途端、思わず抵抗してしまった。
未だに掌に唇を押し付けて吸い続けている様を見て、例え罪滅ぼしでももう二度とあんな考えには至らないだろうと思った。
ウォルズの長い睫毛が目の前で吸い上げられる度にビクビクと震えている。
べろべろと舌を高速で撫で付けてくるのを口内で想像してひっ、と声を上げると、ウォルズの恐ろしい碧眼が見開かれて。動きが止まった。
吸い付いていた唇が皮膚を食んでちゅぽんと外され。
「如何して唇を吸わせてくれないんだッ!! 恥ずかしがるのも大概にしなさいッ!」
「吸わせる訳ねえだろっ!? 逆ギレするな!」
いや、まあ一瞬躊躇ったけど。うん。
「と、兎に角俺は話をしたいだけなんだ、こう言うことは男とはしない!」
はっきり言ってやれば、ガアアアンと効果音がつきそうな位腹立つ顔をされた。
「そ、そんな、ヴァントリ、ア。腐っている人に対してそんな夢のないことを言ってはいけないだろ……!」
「知るか!」
嘆くように顔を掌で覆い隠ししくしく泣き始める。泣きたいのはこっちだ。
男にネッキングされてケツを揉まれて掌を弄ばれて脇までしゃぶられた。
ヴァントリアの一際強いプライドのせいか、今まで感じたことのない屈辱だ。
「俺はお前が俺と同じじゃないかと思ってだな」
「うん! 同じ気持ちだよ! 好き!」
「違うッ!? 俺が言いたいのは同じ転生者なんじゃないかとっ——」
とたん、変態に歪められていたウォルズの表情がピタリと止まる。
「て、転生? 何それ?」
と不思議そうに聞かれ、しまった、と思った。
——ウォルズのこの反応、此奴、転生者じゃ、ない……!?
しまった、そう思った時には遅かった。
さっと血の気が引き、思わず面を伏せる。動揺しているのか鼓動も速くなり冷や汗迄出てきた。
恐々と視線を彼に向けると。
「何? 何かな、何それおいしいの? なになに何かなぁてんせい、知らないなぁ」
——ニコニコしながら滝のような汗を流していた。
この野郎……。
「そう言うのはいいから事実を言え。」
安心して吹き出していた汗も引いていく。何故だろう、こいつには強気になってしまう。俺がヴァントリアで相手はウォルズだからか?
ウォルズはふっと笑い、柔らかな表情を見せる。女性ならハートを射止められていただろう表情に見惚れていると、彼の唇が静かに動き音を紡ぐ。
「……何の話かな?」
————しつこいッ……!!
「WoRLD oF SHiSUTo」
呟いたとたん、ウォルズの笑顔が固まった。
「……君、」
俯いていたがぶるぶると震え出し、バッと顔を上げて叫んだ。
「ヴァントリアじゃないのか!? 彼の可愛いヴァントリアちゃんじゃないのか! そんなの卑怯だ! つまり俺と同じ前世の記憶って奴がヴァントリアしてるってことか!? だって、それってつまり、あんまりだ————」
ウォルズの取り乱し方を見て、罪悪感でいっぱいになっていたら。ガッと肩を掴まれて真っ赤な顔がぐんと近付けられる。
「——萌えるッ!!!!!」
「は……」
「前世の記憶で自分の行いに非があると認めて、周囲に尽くしていくヴァントリア! いつしか嫌われ者から誰より愛される存在になる! ああ! 素晴らしい美しい可愛いエロい! いいね最高! よし応援するよ! 頑張ろうね!」
「いや待て、確かに今まで傷付けた相手には償いたいとは思ってるけど——愛されることは、出来ないと思うし……」
思ったことを素直に伝えると、ウォルズは少しは話を聞ける状態になったらしい。突然冷静になり、真剣な眼差しを向けられる。
「落ち込んでるヴァントリア可愛いめちゃくそ可愛い破壊力マジパネェくそかわ」
真剣な顔で鼻血を出すな。騙されただろ変態。
此奴はもう無理だ、と諦めかけた時、頭にふわりと何かが乗った。
「君はこの世界に愛されてるよ。そう言う風に作られてるんだ」
「え……?」
どう言う意味————……っ、そう尋ねようとした時だ。
「——俺の前世はね、WoRLD oF SHiSUToを作った会社の社長の息子さんなんだよね」
32
お気に入りに追加
1,929
あなたにおすすめの小説
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される
秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】
哀れな魔力なし転生少年が可愛くて手中に収めたい、魔法階級社会の頂点に君臨する霊体最強魔法使い(ズレてるが良識持ち) VS 加虐本能を持つ魔法使いに飼われるのが怖いので、さっさと自立したい人間不信魔力なし転生少年
\ファイ!/
■作品傾向:両片思い&ハピエン確約のすれ違い(たまにイチャイチャ)
■性癖:異世界ファンタジー×身分差×魔法契約
力の差に怯えながらも、不器用ながらも優しい攻めに受けが絆されていく異世界BLです。
【詳しいあらすじ】
魔法至上主義の世界で、魔法が使えない転生少年オルディールに価値はない。
優秀な魔法使いである弟に売られかけたオルディールは逃げ出すも、そこは魔法の為に人の姿を捨てた者が徘徊する王国だった。
オルディールは偶然出会った最強魔法使いスヴィーレネスに救われるが、今度は彼に攫われた上に監禁されてしまう。
しかし彼は諦めておらず、スヴィーレネスの元で魔法を覚えて逃走することを決意していた。
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
聖女召喚!……って俺、男〜しかも兵士なんだけど?
バナナ男さん
BL
主人公の現在暮らす世界は化け物に蹂躙された地獄の様な世界であった。
嘘か誠かむかしむかしのお話、世界中を黒い雲が覆い赤い雨が降って生物を化け物に変えたのだとか。
そんな世界で兵士として暮らす大樹は突然見知らぬ場所に召喚され「 世界を救って下さい、聖女様 」と言われるが、俺男〜しかも兵士なんだけど??
異世界の王子様( 最初結構なクズ、後に溺愛、執着 )✕ 強化された平凡兵士( ノンケ、チート )
途中少々無理やり的な表現ありなので注意して下さいませm(。≧Д≦。)m
名前はどうか気にしないで下さい・・
僕のお兄様がヤンデレなんて聞いてない
ふわりんしず。
BL
『僕…攻略対象者の弟だ』
気付いた時には犯されていました。
あなたはこの世界を攻略
▷する
しない
hotランキング
8/17→63位!!!から48位獲得!!
8/18→41位!!→33位から28位!
8/19→26位
人気ランキング
8/17→157位!!!から141位獲得しました!
8/18→127位!!!から117位獲得
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる