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第三章

29話 勇者ウォルズ

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 ウォルズ・サハニア。WoRLD oF SHiSUToの主人公。

 優しくて強くて弱い者を放って置けないド正直で真っ直ぐな、まさに主人公と呼べる王道のキャラクター。

 ゲームでは彼をプレイヤーにストーリーを進めていく。

 地上で暮らしていたウォルズが偶然迷い込んだ遺跡。出口が開かなくなり閉じ込められてしまう。

 其れからプレイが始まり、導かれるように辿り着いた広場で、祖父の形見である王族の証のブレスレットが反応して此の地下都市に落とされる。目覚めたら、其処は真っ白な世界だ。

 白い大木が象徴の白い庭園で兵士に見つかり、追われるウォルズ。

 次々と出てくる兵士を倒し、切り抜けてゴールに辿り着くとストーリーが流れる。

 ウォルズは待ち受けていたシストに圧倒的な力で捻じ伏せられる。しかし、王族の証である彼のブレスレットが本軸のエレベーターに反応して逃げ道が開けるのだ。

 ウォルズはエレベーターに転がり込んで、呆気にとられているシストから逃げ延びることが出来る。

 シストは何故外からの侵入者が王族の証を持っているんだと呟いて、奴を追え、奴を調べろと兵士達に命令して場面が変わる。

 ウォルズは意識を失い、此の42層ジェイジイジェルィに辿り着く。そしてヒュウヲウンに出会い、店でアイテムや装備を購入し、魔獣狩りにも参加する。

 シストやヴァントリアよりは劣っていると言う設定だが、彼も美形だ。

 其れにシストに並ぶ女性に人気のキャラクターで、ヴァントリアよりも美形だと皆が認めている。

 逆に何処がヴァントリアの下なのだと言われるくらいだ。もうほぼヴァントリアが貶されているだけだが仕方がない。ヴァントリアは嫌われ者だ。

 俺もそう思う。

 此の世界でも、前世でも最も好かれた者。ヴァントリアとは正反対の、強くて無茶苦茶で、優しさの塊。人気者のウォルズ。

 ヴァントリアは外から来たウォルズを一方的に嫌い、更にシストに気にいられている彼に嫉妬していると言う設定だった。

 彼も彼でヴァントリアが大嫌いで、彼に殺されそうになるストーリーが……ヴァントリアがいちいち突っかかって怒らせるのだが――とにかく山ほどあるのだ。

 住民も兵士も奴隷も彼の仲間も、平等に酷い目に合せているヴァントリアは彼の一番嫌いなタイプだ。

 しかし元々はヴァントリアと初めて出会った時、ウォルズと彼は仲良く会話をしていた。ヴァントリアも彼の人の良さに他の人には見せない珍しい笑顔を見せていたものだ。

 だが、その頃ヴァントリアが気に入っていた女の子がヒュウヲウン。ヴァントリアが襲っていたヒュウヲウンをウォルズが助けて、ウォルズに惚れたヒュウヲウンを見て、プライドがズタズタにされて、ウォルズを一方的に嫌う。更にウォルズが外から来たと知って更に恨みを強くし、シストが夢中になっている事を知り完全に殺す算段を立て始めるのだ。うむ。ヴァントリア、君はとんでもない奴だな。

 だが、今回は初対面の筈だし、もし会っていた後だったとしても、魔獣に襲われている相手がヴァントリアだと知れば彼は躊躇位しているだろう。

 そう。躊躇だ。

 きっと、その後は助けてしまう。どんなクズでも屹度彼なら助けてしまう。

 ウォルズはとてつもなく優しい人なんだ。

 ウォルズが振り返る。

 美しい金髪が風に靡いて、長い睫毛がゆっくりと開かれて奥の瞳が此方を覗く。

「良かった。悲鳴が聞こえた、か……ら……」

 ウォルズが振り返って声を掛けてきたとたん、彼は固まってしまう。最初はウォルズの姿に見惚れてしまっていたが、その異常さに戸惑った。

「そんな、何で、こんなところに」

 え……


「ヴァン、トリ、ア」


 何で、俺のことを知っているんだ。ウォルズ。お前とは初対面の筈、だろ……?

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