転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

第三章

28話 青い鎧の待ち人

　ヴァントリアは何度命を狙われても、何とか生き延びていた。

　でも俺は、俺は、どう生き残る。

　生き延びる術なんて知らない。

　俺はただ、ゴロゴロと自分の部屋の万年床で寝ていただけだ。何にも興味が持てなくて、全力になれなくて、何か出来るような人間でもなくて。

　死んでも死ななくてもどっちでもよかったような存在だった。ヴァントリアのように死を望まれるような存在でもなかった。死んだところで誰も気にしない程度の最底辺の人間だ。

　凄いな。牙が、息の風圧が。熱い風と一緒に奴の体内の温度を直接肌に塗り付けられるように感じる。その口でどれほどの人を……俺はその一人に、今、なって、しまうんだ。


　——嫌だ。嫌だ。



　嫌だよ。俺は。


　ヴァントリア。頼む、お前の生命力を今見せてくれ。前世の俺とか、夢で見て思い出したヴァントリアの記憶とか。

　前世の自分が禿万鳴貴で、今の自分がヴァントリアであって、理解しているのに、心が追いついていなかった。

　俺はヴァントリアだ。ヴァントリア・オルテイルだ。前世の自分として過ごすな。此処は禿万鳴貴の世界じゃない。

　美形で、うざくてずる賢くて、残酷だけど何処か気品があって、プライドが高くて、此の世界に嫌われ続けた男、ヴァントリア・オルテイルの世界だ。

　禿万鳴貴であった頃の——前世の記憶を思い出しただけの、冷静になったヴァントリア・オルテイルだ。

　だから、俺は生き残ることが出来る。悪運が異常に強くても、それを凌ぐほどの粘り強さを執着心をヴァントリア・オルテイルは持っているんだ。


　迫る狂気を感じ取ったのか、身体が勝手に反応する。

　瞬間的に自分の身体がマデウロボスの牙をすれすれで避けて地面へ転がり距離を離すように逃げ延びる。

　しかし、それでも奴の尻尾が避けた俺を捉えて振りかざされ——その時だった。腕が突然、強い力に引き寄せられて、自分がさっきまでいた地面に奴の尻尾が落とされる。

　叩き付けられた硬い地面は卵のように簡単にヒビを入れられてしまっている。あのまま彼処にいたら、俺は。

　——ゾッとする。そして同時に。

「大丈夫か！」

　腕を引くその力に、とんでもない安心感を覚えた。異常だと感じるくらいの、希望の光が見える、そんな時に感じる高揚が満身を包んだ気がした。


　——白馬の王子様を思わせる美しい金髪。透明度の高い澄んだ碧眼。青い鎧を身に付けた凛々しい姿。


　頼もしい後ろ姿から、花びらが舞うように爽やかに振り返る。

　か、彼は、彼は！



　WoRLD oF SHiSUToの主人公！　勇者〝ウォルズ・サハニア〟……！