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第三章
23話 和解なんて今更だから
しおりを挟むジノとイルエラと宿を探すことにして、ほっつき歩いていて気が付いた。
あれ、俺とイルエラとジノって囚人だったよな。
……待て、俺達お金——そこまで考えて、考えるのをやめた。
いやいやいやダメだろ。
——仕方がない、貰い物だが最終手段はこの王族の指輪を売り捌いて……
ハッ! そう言えば碌に値段も聞かないで仕立てて貰おうとしてた! 先刻の店に戻ってキャンセルしなきゃ!
「戻るぞ二人とも!」
「はあッ、何?」
ジノとは違い、何も言わずに着いてくるイルエラを見て、ジノは面倒臭そうな顔をして着いてくる。お兄ちゃんは言うこと聞いてるわよ、ってやり取りを想定しているな。
服屋にて、囚人だったのでお金がありません! と言える筈もなく、お金が無かったと素直に言えば、服は既に作り始めていて。
「お金が払えないぃ? 困るよお客さん。オイオイ勘弁してくれよ……」
出た! お金が足りない時に言う台詞! オイオイ勘弁してくれよ! 実物来た!
「お客さん? 何ニヤニヤしてるんです……?」
「えっ、あっ、いえ! すみません! お金は何とか準備しますから!」
「何とかって——あっ、オイ!」
イルエラとジノの手を引っ張って店を後にし、3人で小遣い稼ぎをすることになった。
手始めに喫茶店でアルバイトを始めることにしたが————…………
「——わああああちょっと、何してるんですかぁぁぁぁ!」
「すまない。軽く掴んだだけなんだが」
イルエラが怪力で柱を割り。
「いえ、本当にいいんで、いいんで!」
「はあ? アンタがやれって言ったんだろ」
ジノが皿を洗おうとして割り。
「何を作り出してるんですか!」
「え、いや、これはこう言うものなのかと……」
俺が卵を割ると得体の知れないものが出た。
喫茶店や酒屋の類いはイルエラとジノは力の加減が難しい上、世間の常識が通じない為、俺は作ったもので死者を出す為出禁にされてしまった。
「他には……宅配とか?」
前世では大変そうだったがこの世界では獣人の少年が楽しそうに働いていたぞ。
イルエラは自分の手を見て呟いた。
「いや、私では品物を壊してしまう気がする」
それに対してジノが穏やかな顔で言う。
「気にしないでいいって、イルエラさん。ヴァントリアが一番壊しそうだから。転けたり飛んだり跳ねたり、ちょこまかちょこまかと」
ジノさん? イルエラさんのフォローと言うより俺の悪口……。飛んだり跳ねたりなんてしたっけ。
『——してください——困りま——』
何だ?
耳を済ますと女性と男性の話し声が聞こえてくる。女性の声は途切れ途切れ聞こえてくるのだが、内容までは分からない。痴話喧嘩か?
————『きゃああっ』
——悲鳴ッ!?
「ヴァントリア!」
走り出そうとしたとたん、イルエラに腕を掴まれてしまう。
何かこのシチュエーションが多い気がするな。
「離してくれ、今向こうの方で悲鳴が——」
「私も聞こえた。だが、そう言うことには首を突っ込まないと約束したばかりだろう」
「——そ、それは、その」
何か言おうとしたが何も出て来ず、口はパクパク開いた後閉じることしか出来なかった。
「どうしてお前はそうすぐに飛び込もうとするのだ。私達は兎も角お前では——」
その時だった。
————『離してッ! 誰か助けてッ!!』
イルエラの瞳が、一瞬黄金に輝いた。——とたん、身体がふわりと舞ってイルエラに横抱きにされていた。
「い、イルエラ……?」
イルエラを恐る恐る見上げると、彼の口角が僅かに上がったように見えた。
「……どうやらお前の莫迦がうつったようだ」
今はどの角度から見ようとも変わらずの無表情だが。
しかし。そんな俺達を見てジノが黙っておかない。
「——オイッ! まさか助けに行く気じゃないだろうなッ!? 僕はゴメンだぞ!」
「勝手にしろ。だがお前がこれからも私達と行動を共にすると言うのならば、ヴァントリアの莫迦に付き合ってやるしかないだろう」
「そ、そこの莫迦に付き合ってたら埒があかないだろ!」
「え、あの、ちょ。お二人さん? 人のこと莫迦莫迦って——」
「「莫迦は口を開くな」」
本当にお前達仲がいいな!
君達何処かで打ち合わせしてきただろ。
ジノは、ハァ、と溜息を吐いて肩を萎ませる。
「いいよ。そいつが莫迦なことは散々思い知らされたし」
そう言って、ぽそりと呟く。
『その莫迦に救われてるってこともあるのかな……』
んん? 何て言った?
尋ねるようにイルエラを見上げると、彼は静かに目を伏せた。分からなかったのか?
「私も同じだ」
イルエラがそう言うと、ジノはびっくりしたように彼を見つめた後、「ふぅん」と歩き出した。
「ジノ?」
「何? お前が助けに行くって言ったんだろ」
「ジノ……」
ジノは頭を掻いてそっぽを向く。
「俺、助けに行くとは言ってないと思うけど」
「はあッ!? そんなのどうだっていいんだよ、行くのか行かねえのか!」
「は、はい! 行きます!」
イルエラもジノの隣に並び歩き出して、ふと顔を見上げると。
今度こそしっかりと、彼の口角が上がっていることを確認することが出来た。
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