25 / 293
第三章
22話 待ち焦がれる町
しおりを挟む人口3万人の町で俺達たった三人を見つけだすのは困難だろう。ただ、このみすぼらしい見廻りの格好と囚人服二人を常人と見るかは別として。
まず服をどうにかしようと、見覚えのある店があったので、取り敢えずイルエラとジノを連れてそっと入ってみる。
「らっしゃい。うちは何でも揃ってるよ」
聞いたことのある声で聞いたことのあるセリフを言ったそのおっちゃんは、勇者・ウォルズの装備を見繕っていた店の店長だ。ついでに回復薬や薬草などの、必要最低限のアイテムも買える。
ウォルズの装備のデザインは正に勇者と言う感じで、強さと優しさが醸し出された、あまりギラギラしていない驕っていない衣装だ。
シンプルだが格好良く、種類も様々でこれもゲームの人気の1つ。
もう1つは、ウォルズの仲間として傍に同行する美少女の衣装も変更出来るのが良かった。
清楚なものから露出の高いものまで揃っており、何より可愛い見た目に可愛い声で人気が高いキャラだった気がする。
「後ろの二人の服を見繕って貰いたいんだ」
「ん? それはいいが、アンタはいいのかい?」
「ああ。俺は要らなくなったローブとかでいい」
確か、廃棄物から見つかったフード付きのローブが硬貨0で置いてあった筈だ。
「ああ、それならちょうどいいのがあるぜ。」
おっちゃんが裏へ行って取ってきたのは、ゲームの中で見たあのローブだ。
ジノとイルエラが採寸をしている間に、町を探検することにした。もちろん見廻りの服はローブで、顔はフードで何とか隠している。
何かない限り不自然とは思われないだろう。
「お母さんあの人変な格好!」
「そうねー」
あれ!? 逆に目立ってないか?
それに母親は定番のセリフを言ってくれないのか。……でもまあ、この状態じゃあな。
くるりと周囲を見回すと、路地裏や地面には枷をつけた子供達がいる。皆、俺に劣らず見窄らしい格好だ。
ストーリーでは主人公であるウォルズが彼等を助けて上の階を目指す。だからヴァントリアである悪者で弱小モブな俺では助けることが出来ない。ここは、見て見ぬ振りをするしかない。
「ヴァントリア。服は明日までには完成するらしい。また改めて取りに来てくれって店主が……ヴァントリア?」
「え、ああ。そうか」
「何見てたんだ?」
店から出て来てそう言ったジノが、不思議そうに小首を傾げる。その眉間には皺を寄せているが。
イルエラも出て来て、どうした、と聞いてくる。
奴隷がこれだけいると言うことは奴隷商人も人攫いも、他にもヤバイ奴らが沢山いるのだろう。そもそも43層は奴隷を囚人と呼び閉じ込めている設定もあった。
だが囚人でいた方がマシな暮らしは出来そうだな。檻の中とは言えベッドもトイレもあるのだから。路地裏で捨てられた人形のようにピクリとも動かなくなるよりは幾分かマシだと思う。ただ、檻の中で死なないとは言えないし。実験台にされるかもしれないリスクだって付いてくる。おすすめはしない。
彼等と比べてジノやイルエラの身体は頑丈に出来ていて、飲まず食わずでも3日くらいは元気でいられる。
兵士と比べてもズバ抜けて戦闘能力が高い。だが高いが故に裏組織と言う部類の者達によく狙われていた。
ハイブリッドは恐れられる存在でもあるが石油ばりの値打ち物なのだ。
ジノとイルエラがハイブリッドであることを知られる訳にはいかない。目立たないことこそがよっぽど無難な選択だ。
裏組織の方々はド偉い方々とよろしい仲であると、ゲームのストーリーで知ってしまっている。捕まれば最悪の事態になると簡単に予測できた。
シスト様に目を付けられたヴァントリアである俺が出ていったところで、どうにもならない。
元王族だし、ザコだし、いい取引材料だと人攫いや奴隷商人に狙われることになるだろう。
兵士達も絶賛捜索中だろうし。
ほとぼりが冷めれば捜索は中止になる筈だ。ヴァントリアはゲームじゃ脱獄常習犯だったからな。何度檻に入れられても、脱獄して、ウォルズをいじめに行くストーカーだ。
ちら、と路地裏の子供達を見る。ボロ布を巻いただけの身体には、無数の傷跡が窺える。その傷は生々ししくて、痛々しい。傷のない筈の自分にも痛みを訴えかけてくる。
俺がどう動こうと、あの子達を助ける所か危険に晒すだけだ。今は耐えなければ。
「今……?」
「ヴァントリア?」
今っていつだ、ウォルズがここに来る保証なんてないのに。だって、ウォルズが外の世界から侵入しているなら、シストが放っておかない筈だ、なのに、ヴァントリアを優先している時点で、彼はそもそも地下都市へ侵入すらしていないんじゃないのか。
「——ッ」
「ヴァントリア!」
走り出そうとした途端、イルエラに腕を掴まれてしまう。
「い、イルエラ」
「……私も助けてやりたいが、今は耐えろ」
「でも……っ」
イルエラに訴えようと振り返って、息を呑む。彼もまた、耐えるように目を伏せていた。ジノを見ると、いつも以上に顔が険しい。
……決して悪い町ではない。人々には笑顔が溢れ、子供達は道を走って鬼ごっこをする。しかしその地面と路地に隠れた存在が、良い町とは形容し難くしている。
本当にこの世界に勇者は現れるのだろうか。
22
お気に入りに追加
1,928
あなたにおすすめの小説
R18の乙女ゲーに男として転生したら攻略者たちに好かれてしまいました
やの有麻
BL
モブとして生まれた八乙女薫風。高校1年生。
実は前世の記憶がある。それは自分が女で、25の時に嫌がらせで階段から落とされ死亡。そして今に至る。
ここはR18指定の乙女ゲーム『愛は突然に~華やかな学園で愛を育む~』の世界に転生してしまった。
男だし、モブキャラだし、・・・関係ないよね?
それなのに次々と求愛されるのは何故!?
もう一度言います。
私は男です!前世は女だったが今は男です!
独身貴族を希望!静かに平和に暮らしたいので全力で拒否します!
でも拒否しても付きまとわれるのは何故・・・?
※知識もなく自分勝手に書いた物ですので何も考えずに読んで頂けると幸いです。
※高校に入るとR18部分が多くなります。基本、攻めは肉食で強行手段が多いです。ですが相手によってラブ甘?
人それぞれですが感じ方が違うため、無理矢理、レイプだと感じる人もいるかもしれません。苦手な方は回れ右してください!
※閑話休題は全て他視点のお話です。読んでも読まなくても話は繋がりますが、読むとより話が楽しめる内容を記載しております。
エロは☆、過激は注)、題名に付けます。
2017.12.7現在、HOTランク10位になりました。有難うございます。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
【完結】ハードな甘とろ調教でイチャラブ洗脳されたいから悪役貴族にはなりたくないが勇者と戦おうと思う
R-13
BL
甘S令息×流され貴族が織りなす
結構ハードなラブコメディ&痛快逆転劇
2度目の人生、異世界転生。
そこは生前自分が読んでいた物語の世界。
しかし自分の配役は悪役令息で?
それでもめげずに真面目に生きて35歳。
せっかく民に慕われる立派な伯爵になったのに。
気付けば自分が侯爵家三男を監禁して洗脳していると思われかねない状況に!
このままじゃ物語通りになってしまう!
早くこいつを家に帰さないと!
しかし彼は帰るどころか屋敷に居着いてしまって。
「シャルル様は僕に虐められることだけ考えてたら良いんだよ?」
帰るどころか毎晩毎晩誘惑してくる三男。
エロ耐性が無さ過ぎて断るどころかどハマりする伯爵。
逆に毎日甘々に調教されてどんどん大好き洗脳されていく。
このままじゃ真面目に生きているのに、悪役貴族として討伐される運命が待っているが、大好きな三男は渡せないから仕方なく勇者と戦おうと思う。
これはそんな流され系主人公が運命と戦う物語。
「アルフィ、ずっとここに居てくれ」
「うん!そんなこと言ってくれると凄く嬉しいけど、出来たら2人きりで言って欲しかったし酒の勢いで言われるのも癪だしそもそも急だし昨日までと言ってること真逆だしそもそもなんでちょっと泣きそうなのかわかんないし手握ってなくても逃げないしてかもう泣いてるし怖いんだけど大丈夫?」
媚薬、緊縛、露出、催眠、時間停止などなど。
徐々に怪しげな薬や、秘密な魔道具、エロいことに特化した魔法なども出てきます。基本的に激しく痛みを伴うプレイはなく、快楽系の甘やかし調教や、羞恥系のプレイがメインです。
全8章128話、11月27日に完結します。
なおエロ描写がある話には♡を付けています。
※ややハードな内容のプレイもございます。誤って見てしまった方は、すぐに1〜2杯の牛乳または水、あるいは生卵を飲んで、かかりつけ医にご相談する前に落ち着いて下さい。
感想やご指摘、叱咤激励、有給休暇等貰えると嬉しいです!ノシ
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
転生したらBLゲーの負け犬ライバルでしたが現代社会に疲れ果てた陰キャオタクの俺はこの際男相手でもいいからとにかくチヤホヤされたいっ!
スイセイ
BL
夜勤バイト明けに倒れ込んだベッドの上で、スマホ片手に過労死した俺こと煤ヶ谷鍮太郎は、気がつけばきらびやかな七人の騎士サマたちが居並ぶ広間で立ちすくんでいた。
どうやらここは、死ぬ直前にコラボ報酬目当てでダウンロードしたBL恋愛ソーシャルゲーム『宝石の騎士と七つの耀燈(ランプ)』の世界のようだ。俺の立ち位置はどうやら主人公に対する悪役ライバル、しかも不人気ゆえ途中でフェードアウトするキャラらしい。
だが、俺は知ってしまった。最初のチュートリアルバトルにて、イケメンに守られチヤホヤされて、優しい言葉をかけてもらえる喜びを。
こんなやさしい世界を目の前にして、前世みたいに隅っこで丸まってるだけのダンゴムシとして生きてくなんてできっこない。過去の陰縁焼き捨てて、コンプラ無視のキラキラ王子を傍らに、同じく転生者の廃課金主人公とバチバチしつつ、俺は俺だけが全力でチヤホヤされる世界を目指す!
※頭の悪いギャグ・ソシャゲあるあると・メタネタ多めです。
※逆ハー要素もありますがカップリングは固定です。
※R18は最後にあります。
※愛され→嫌われ→愛されの要素がちょっとだけ入ります。
※表紙の背景は祭屋暦様よりお借りしております。
https://www.pixiv.net/artworks/54224680
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?
み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました!
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
甥っ子と異世界に召喚された俺、元の世界へ戻るために奮闘してたら何故か王子に捕らわれました?
秋野 なずな
BL
ある日突然、甥っ子の蒼葉と異世界に召喚されてしまった冬斗。
蒼葉は精霊の愛し子であり、精霊を回復できる力があると告げられその力でこの国を助けて欲しいと頼まれる。しかし同時に役目を終えても元の世界には帰すことが出来ないと言われてしまう。
絶対に帰れる方法はあるはずだと協力を断り、せめて蒼葉だけでも元の世界に帰すための方法を探して孤軍奮闘するも、誰が敵で誰が味方かも分からない見知らぬ地で、1人の限界を感じていたときその手は差し出された
「僕と手を組まない?」
その手をとったことがすべての始まり。
気づいた頃にはもう、その手を離すことが出来なくなっていた。
王子×大学生
―――――――――
※男性も妊娠できる世界となっています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる