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第一章
8話 まずは胃袋から
しおりを挟む手伝いを、と連れてこられたのは彼の自室。
茶を入れろ片付けろと召使いのごとくこき使われ、その後使用目的のわからない薬品の調合をさせられる。
なんというか、召使いくらいいないのか。王族なら普通……いや、どう見ても彼のなりじゃ王族ではないな。
「できました」
完成した薬品を見て、既視感を覚えた。
これ、ゲームで見たことがある。
ハイブリッドと呼ばれるジノのような強靭な亜人をコントロールするための薬。赤い色は血のようだと考えていたが、実はそれが他の亜人たちの血だということが判明している上、人間の血液も少なからず含まれている。
そして何より、この怪しい男!
博士と呼ばれていた黒幕の一員、テイガイア・ゾブド博士だ!
見た目の印象が違い過ぎて気付かなかった。
……彼はサングラスを外すと、滅茶滅茶美形の肉食ナルシストになり、誰彼構わず口説きまくるとんでもないキャラ設定の持ち主なのだ。
今の胡散臭い姿では研究一本の悪者だが、サングラスを取るとまるで人が変わっていい人になる。と言っても、口説いているのだからいい人のフリをしているに過ぎない。
ゲームで博士は彼の最高傑作であるハイブリッドを探していた。
ジノを実験していた男もこいつで間違いない。
「これはなんなのですか」
誰しもが疑問を抱く質問でやんわりと聞き出す。
「ある亜人をコントロールする為の薬品だよ」
ニヤリと言う効果音がお似合いなくらい、博士の口角が歪む。
ジノが彼に囚われているのは間違いないだろう。
「へ、へえ。あ、お茶を入れますね!」
――前世では自分の料理下手で数々の人を安らかに眠らせた。
博士に茶を飲ませた後気絶したらジノを探しに行こう。そうしよう。
さっきまで淹れていたのは元から作り置きされていたお茶だ。俺の自信作、ヴァントリアブレンド茶を味わうといい。
博士にぶくぶくと沸騰し続けるお茶を差し出すと、彼は迷いなくグビグビと飲む。全て飲み尽くすと、ぱあっと顔を輝かせて言った。
「うまい! 天にものぼる味だ!」
「え」
「君は茶を淹れるのが上手いなぁ!」
「本当ですか……!」
ハッ、よ、喜んでしまった。こんなこと言われたの初めて過ぎて、さらに褒め上手と言うか、そんな大げさに褒められたら喜ぶしかないと言うか。
よしよしと頭を撫でられて、あれ、あれれ、と戸惑う。そもそもこの男、美味いと言って倒れてくれてないじゃないか。
いや、まだ諦めないぞ。
薬草調合で出たカスで泥団子みたいなモノを作り、トイレだと告げ、廊下に出て。見廻りをひっ捕まえて食わせたところ末長く眠りについた。さらに口から吐き出された得体の知れないものがビチビチと蠢いていたことで、よし、と博士に再び調合した泥団子イン得体の知れないモノを差し入れとしてあげる。
「美味しそうだ」と目を輝かせて抵抗もなくすんなり食べる博士。
アンタの目はどうなっている。でも嬉しい。
しかし、次の瞬間、博士の身体がぐらりと揺れた。
反射的にその身体を受け止めると、ぐったりとして動かない。
流石に気絶したな。
あの得体の知れないビチビチが働いてくれたようだ、フハハ。
今まさにヴァントリアの悪の顔が上手に使いこなせていることだろう。
ニヤニヤフハハと笑っていると、突然、博士の腕が蛇のようにぐるんと巻き付いて……。
顔をゆっくりあげる彼の動作は、恐怖映像に出せば第1位の枠を貰えるだろう。
だが。
「結婚して」
晒された顔の、サングラスの奥は、見たこともないくらい蕩けるような瞳だった。
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