転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

第一章

7話 44層ゾチ

　見張りの少なすぎる最下級階をテケテケと歩いていた。

　WoRLD oF SHiSUToの世界は真っ白な世界が多い。

　町や貴族の建物になればまた違うが、監獄や天空の部屋、王宮などは白を基調としたデザインが多くある。

　その為、部屋中光り輝いて見えて目映い。

　見廻りや召使いも白い制服を着用しているが、兵士達も白い軍服を身に付けている。王であるシストも真っ白な服だし、髪と目と肌以外ならヴァントリアも全身真っ白だ。あと心も追加しておこう。

　ヴァントリアは赤髪紅眼の美形だが、鋭い目付きで常に不機嫌そうな印象だ。品はある。気丈に振る舞っているしゲームの中でも仕草はいちいち美しさを見せる。しかし苛立たせる声音と発言と、あの、如何にも主人公や他の人間が嫌いだという態度も、自分より劣っていると見下している感じの性格も好きになれない。

　敵キャラで非道だがかっこいいキャラクターと言うのには何か魅力があるものだが、このヴァントリアはただただ残酷でウザいだけのムカつく野郎なのだ。

　自分がそんな奴になろうとは思いもしなかったな。

　ヴァントリアはストーリーの中盤でジノに刺されて死んで、本軸のエレベーターから落とされ、45層ヅォルイへ落とされる。

　そうしてヅォルイの出番もヴァントリアの出番もなくなる訳だが。

　45層に唯一行ける方法は本軸のエレベーターを落ちること。でもゲームの世界では主人公が落ちるとゲームオーバーになってしまうのだ。まあ高さがあるし、下は石造りだから当たり前かもしれない。

　この44層ゾチでも監視の人が少ない理由は逃げ出しても逃げ道がないからだ。

　しかし主人公の勇者が最下級階に行きみんなを逃し、上の階を目指した動画をさんざん見た。だから自分では2、3回しかプレイしていないうえまだ最後まで攻略できていないが、ほぼ攻略していると言ってもいい。たぶん。

　逃げる方法はある！　俺にはここから脱出する方法が手に取るように分かるのだ。

　と。警戒心も疎かにジノを探していると。

　肩をぽん、と叩かれてぎゃっと叫ぶ。

　振り向くと、ニッコリと微笑む怪しい男が立っていた。

　長めの黒髪が苔のように顔にまとわり付いていて、まるで幽霊みたいだ。昔の自分を彷彿とさせる。

　ブラウンのサングラスを掛けているのだが、その奥に潜む瞳はまるで死人のように覇気がない。サングラスの影響なのか、瞳の色も淀んで見える。

「サボりは良くない」と怪しく微笑みながら言われて、ああ、そうか今は見廻りの服を。と思う。

　「すみません」と取り敢えず謝って、「ではこれで」とにこりと微笑んで。元王族なので知られていてはまずいとそそくさと逃げようとした。

　最下級階に顔を出したことはないので気付かれることはないだろうとは思ったが警戒はしておく。

　しかし。彼に腕を掴まれ、ひっと声をあげる。

「ちょっと手伝ってほしいことがある、サボっていたことが知られれば君も檻に入れられかねないかもねえ」

　それは脅しですよね。まあ、檻なら出られるけれど今入れられては面倒だろう。手伝いますとも。

「て、手伝います……」

「よろしい。では行こうか」

　相変わらずの気味の悪い笑みを浮かべると、彼は歩き出す。このまま逃げ出そうかとも思ったが、やっぱり面倒なことになりそうだと付いていくことにした。