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第一章
6話 残酷な白
しおりを挟む実はこう見えて脱出ゲームは得意なんだ。よし、まず道具達を集めよう。
数十分後。
――ない。なぜない! こう言う時は紐だとか鉄の棒だとか出て来る筈だろう!?
不思議だ、不思議すぎるぞ。流石脱獄防止に徹底した監獄43層。
でも諦める訳にはいかない。ジノはこれから、俺がしてきたことよりもっと酷いことをされるかもしれないんだ。
それに、何かが引っかかっている。
て言うか、ここ寒いなぁ。
魔法で火をつけ、ほーっとあったまっていて、ハッとする。
――――魔法使えるんだった!
格子も氷でできている、溶けるか試してみると簡単に溶けていった。溶けた場所から逃走して、どちらに行けばいいかもわからないまま廊下を駆けていく。
脱獄防止に徹底している為、監獄で魔法は使えない筈だった。
なぜ魔法が使えるかは分からないが、このままこっそりジノの元へ向かおう。手始めに、ペンダントを取ろうとしたあの見張りの男の身ぐるみを剥いだ。
.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+
格子の中の状態を見て、くそっと唇の端を噛む。
手を出した相手が元王族なだけあって最下層近くに落とされてしまった。
しかし脱獄すればさらに厄介なことになる。じっとしていた方が賢明だろう。
それにしても流石44層だ。他の囚人とごった煮になっている檻に入れられた。43層は快適な方だったな。
「オイ新人、43層から来たんだって? どうだよここ。素敵だろお」
「歓迎するぜ、ようこそ44層ゾチへええええええ!」
突然叫び声に近い声を上げて、殴りかかってくるそいつを避け、倒れる身体の腹に蹴りを入れる。――すると、壁に滅り込んだ身体は歪な形に曲がり口から泡を吹いて動かなくなった。
「ひっ……」
一緒になって殴り掛かろうとしていた男が小さな悲鳴を上げる。威嚇するように睨んでやると、そいつはそろそろと人混みの中へ引っ込んで行った。
注目を集めてしまったようだが、そいつ等は僕を避けて道を開けた。
人間も亜人もザコばかりだ。ヴァントリアだって王族共だって簡単に殺せるだけの力はある。
だが奴等は誰も抗うことができない、主従契約と言う束縛法を持っている。手を出そうとすれば自分の心臓を鷲掴みにされているような苦しみが数時間と続くのだ。しかも、その発動の引き金や期間は相手が好きに決められる。ヴァントリアは中でも最悪だった。たった一言喋っただけで2日間その苦しみを与えられた。
しかも、その様子を楽しそうに眺めているのだ。2日間。
王族と言えど、あいつは高い権力を持っている訳ではない。
元は父親であるゼクシィル・オルテイルが前王シルワール・オルテイルと仲が良く権力もあったようだが、ゼクシィルがシルワールの妻、シストの母親を殺害。そしてシルワールがゼクシィルを殺害し、その息子であるヴァントリアには罰を与え、さらに地位も権力も奪った。
しかし王族の権利は奪わないなんて、生易しい王だ。
その王もシストに殺され、今はシストが支配者な訳だが…王だとか権力だとか、殺害だとか、本当に奴等は暇人なんだなとしか思えない。
ヴァントリアが2日間眺めていたのは同じ理由だ。ただ単に本当に暇なのだ。王族でありながらその権力が低いあいつは仕事もないし身の回りのことは召使がするし、何もすることがない。
……ただの暇潰しに、僕達で遊んでいたに過ぎない。
こんな所に落とされたのも、それもこれも全部あいつのせいだ。
今度会った時は絶対に――と言っても、奴が落ちてこない限り、会うことはないだろうが。
「ジノ。ジノと言うガキはいるか」
なんだ。
またあいつが何かしたのか。
あいつが。ヴァントリアが。
あいつ、変だった。
急に。手当てをするし、看病しだすし。額を重ねられた時は正気か? と思ったが、今までじっくり見たことがなかった顔も、見たこともない穏やかな表情も。ただ。
とても、美しかった。
「……僕がジノ、です」
ヴァントリアは糞野郎だ、と、あいつのことを頭の中では否定していても、名乗りを上げてしまって。見廻りの男に付いていってしまう。
もしかしたら、もしかしたら。ひょっとしたら、ヴァントリアが、何か、したのかもしれない。と。
.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+
連れて来られた場所は、相変わらずの真っ白な世界。
ドーム型の天井から無数の光が降り注ぐ。光が差す場所に。一つの椅子が存在した。
真っ白な部屋に真っ白な椅子。そして、真っ白な拘束具。
そこは実験場だった。
実験をされ続けて来た自分の頭には絶望が入り混ざる。ここで与えられたおぞましい感覚が何度も何度も脳裏を犯し、満身をいたぶり、絶叫し逃走をはかるが。
注射針を打たれ、力が入らなくなっていく。意識が朦朧とする中、捕まり、その拘束具へと向かっていき――――
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