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第一章
5話 ①
しおりを挟むみんなで布団を敷いてせんやの帰りを待っていた時だった。俺の隣を取り合ういつもの三人衆を無視し、アインかルッシーの隣で寝ようとする俺の元にイルフォントがやって来て言った。
「話がある」
たったそれだけ言って、顎をくいっと動かす。来いと言うことだろうが、俺を顎で使おうなんて生意気だ。分かってないふりをしてやったら。
「ついて来い」
とはっきり言われた。
そこでほいほいついていったらこれである。地下シェルターのそれぞれのクラスに割り当てられた大部屋の外の廊下を歩き、人気のない倉庫の前まで連れてこられる。チヨ・アキヅキに好意を持つ勢が仁王立ちして待っていた。
喧嘩かな? 喧嘩だな!
「なんでこいつ、呼び出されて嬉しそうなの……?」
「知るか」
ピンク髪のチビに聞かれ、イルフォントが答える。
えっと……こいつらの名前なんだっけか。イルフォントは分かるとして……。
「イルさんに、アップル、ダウさんに、ワルガキ!」
ちゃんと覚えてた、完璧だ!
「イルサ・エラルドだ! イルフォントと被ってんだろ……」
赤い髪の男子生徒が言う。
「おれはロディム・トップル。自己紹介したじゃん……」
ピンク髪のチビが言う。
「ダウザン・ヨーク。僕達に興味がなかったと言うことだろう?」
茶髪の男子生徒が言う。
「ワルバ・クラウン。ワルガキってなんだよ!」
金髪の生徒が言う。アイちゃんと比べるとくすんで見えるな。
「それで? 俺に何の用だ?」
何となく分かってるけど。
「お前は先生とどういう関係なんだ」
イルフォントが腕を組みながら睨み付けてくる。
「昔からの知り合い」
「そう言うことを聞いているんじゃない。さっきだって先生が飛び出していった時誰よりも早く飛び出していっただろう? 先生をどう思っているんだ」
「偶に危なっかしいやつかな……。守ってやらねえといけねえって思ってるよ」
「…………」
イルフォントは納得がいっていないのか訝し気な眼を向けてくる。
「イルフォント、そんなんじゃだめだ。単刀直入に聞こうぜ」
「先生のことが好きなの? 答えろ!」
「そうだとしたら僕達も同じだ。だが抜け駆けは許さないよ」
「どう考えたって抜け駆けだって! 早くやっちまおうぜぇ!」
「いや、全然好きではないんですけど」
それを聞いた彼らはギロッと顔を向ける。
「好きじゃないくせに出しゃばってるってもっとだめじゃん?」
「好きじゃないのに特別と思われてんのもダメだよなあ?」
ロディムとイルサが首や腕を回して関節を鳴らし、喧嘩を始める体勢を取る。って――喧嘩⁉
「なんで凄まれてるのに楽しそうなんだ、こいつは」
凄まれているだと? これが?
くっくっ、元不良の手本を見せてやるか。
「俺がせんやとどう言う関係だろうが、どう思っていようが、テメエらには関係ねえだろ」
「うっ……」
「いいや、俺達は全員先生に好意を抱いている。関係ないわけではない」
「ああ?」
イルフォントだけが負けじと凄んでくる。
こいつなかなかやるんじゃねえか!?
「さっきからどこか嬉しそうなんだよな……ひょっとしてそう言う性癖……」
「おい、イルさん! 勝手な解釈するな!!」
「勝手にイルさんって呼ぶな!! イルフォントと被ってるって言ってんだろ!?」
「いいんだよ、イルフォントのことは委員長って呼ぶから」
「良くねえ!!」
「何仲良さげに話してんのさ。こいつは敵でしょ」
敵って、おいおい。また敵扱いか? まあ敵の類いが違うが。
「話し合いから始めるって言ったやつ誰だあ? もういいだろ、こんなアホ相手にしてたら時間がもったいねえよ!」
「ああん?」
「ひえ!」
誰がアホだ誰が。
「イルサの言う通り単刀直入で言おう。これ以上、アキヅキ先生に近づかないでくれ」
「先生なんだから無理だろ」
「……まあ、身をもって思い知らせるのも悪くない」
お? きたきたきたきたああああああああああ!
イルフォントが振りかぶってきた拳を受け止め、腹に蹴りを喰らわせる。
「イルフォント!」
イルフォントは気を失って情けなく地面に倒れる。
「ほら、次来いよ。一斉にかかって来てもいいんだぜ?」
「クソおおおおおおお!!」
「おらああああああああ!」
恥ずかしげもなく残り全員で殴り掛かってくる。
フッと息を付き、それを右足の回し蹴りで薙ぎ倒した。全員散るように吹っ飛ばされ、壁に背を打ち気絶した。
「…………」
よわいな……。
そう思っていると、パチパチと拍手が背後から聞こえてくる。
「!」
「凄かったよ、ヴォンヴァートくん。一人で5人も相手しちゃうなんて」
紫の髪に白いメッシュ、冷たい真っ黒な瞳。
「お、オロク……」
拍手をしながら近づいてきたオロクは、地面に倒れているイルフォントのうえを「よっと」とまたいで、いつもの距離へと落ち着く。あんまり近くにいたくなくて後退するも、相変わらず相手の中で決められた距離が一定に保たれる。
「見てただけかよ」
5人に喧嘩挑まれてる生徒を見て放っておいたのか?
「君は喧嘩が生きがいなんだろ? 邪魔しない方がいいかと思って。でも……つまらなそうな顔だね」
「…………」
「相手が弱くて寂しい?」
「…………なんでお前には分かんだよ」
前もモヤモヤしてた時に話しかけてきたよな、こいつ。言って欲しい言葉を言ってくると言うか……。て言うか近い。離れて欲しいことは分かってくれないのか?
「そう言えば……」
こいつの好感度100%だったな。確か執着してるとか愛してるとか説明にあったけど、実感がわかないんだよな。
「喧嘩が終わったならSSクラスに用意された部屋に来ない? 大部屋じゃないからSSクラスの生徒はいないよ。ルームメイト……キリクゥはいるけど」
「寮も同室なのか?」
「うん」
「趣味は? 魔法は何使う?」
「うん?」
ぽかんと言う顔をされる。いや……プロフィールの???埋めたくて。なんて言えないよな。
「お前のことが知りたい」
「……俺も、君のことが知りたいって思ってたよ」
突然左手に冷たい感触が触れて、びくりとする。見てみれば、オロクの右手が指を絡めてくるのが見えた。
「…………」
「どうかした?」
「い、いや……」
振り払いたいけど、がっちり握り込まれてしまった。
「趣味は観察かな。魔法は闇魔法を使う。他には何が聞きたい?」
「え、えっと……」
ち、近い……。どんどん近づいてくる……。
「…………思いつかないならこっちから聞いてもいい?」
「…………っ」
ぐんっと距離が縮まり、後退すれば壁に背がぶつかる。
「好きな人はいる?」
「い、いや……」
「今まで誰かと付き合ったことは?」
「ないけど……」
「俺のことはどう思う?」
「えっと……」
「俺のことは好き?」
「好きではねえ……」
「じゃあ嫌い?」
「でもない……」
「じゃあ、どれだけ頑張れば好きになってくれる?」
「そ、そんなの分かるわけ……」
「答えてくれないなら、頑張るだけだよ」
吐息が触れて、びくりと体が震える。
黒い瞳がどんどん近づいてくる。何を考えているか分からない瞳が、どんどん。
その目を見ていたくなくて思わず目をぎゅっと瞑れば、吐息はさらに熱い距離に近づき、しっとりとした感触が撫でるように触れてきた。
擦り寄るように、擦り付けられるように、優しく優しく、触れているのか触れていないのか分からない感触が唇の上で蠢いていた。
突き放そうと目を開けば、相手の瞳に囚われたように動けなくなる。
「オロ……」
名前を呼ぼうとしたら自分から口が触れてしまい、羞恥心で顔が熱くなる。
フッとオロクは口元に笑みを浮かべる。そして、唇が伸ばされ、柔らかいものに啄ばまれるように吸い付かれた。
「……っ、…………」
甘い音を立てて離れてはくっついてくるその柔らかさは独特で。すこしだけくせになりそうで。
どうしよう。き。
きも。
「キモイいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
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