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第一章

4話 ⑤

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 まあいい感じに俺にだけ攻撃仕掛けてこないわこいつら。そりゃ疑われるわ。
 せんやの後ろの敵が、せんやへ魔法を放とうとする。
「せんや!!」
 反射的に走り出し、庇うように立てば、魔法は目の前で消え去った。
「無事か!」
 振り返れば、ぽうっとした瞳で見つめられる――やめろ!!
 とにかくこいつらどうにかしないと誤解は解けそうにないな。
「チッ魔法が使えねえ」
「どうして」
「アイツの力らしい」
 二人に睨まれる。
 いやまた敵扱い。
 イライラしてきたな。
 俺を無視してせんやに殴り掛かってくる敵を見て、さらにカチンとくる。
「テメエら……俺から逃げてんじゃねえええええええええ!!」
 男の腹に蹴りを入れ、頭を鷲掴みにし、周囲を囲む敵に投げつけ薙ぎ倒す。敵達がどよめく。
「こらこら暴れるなリリア」
 背後から突然声がして、撫でるように頭に手を置かれる。その手を払いのけて顔面目掛けて拳を放つ。ぎりぎりで避けられて、それを予測して反対側の手を動かせば、相手の頬に拳が入り込んだ。
 ウォーゼンはよろめき、殴られた頬を押さえる。
「リリア……」
「気やすく触んじゃねえ」
「お前を敵にすると厄介だな。……今回は引いてやる。でも、次は必ず連れて帰る」
 冷たい瞳に見つめられ、体が動かなくなる。相手の手が伸ばされ、頬を撫でられた。
「…………」
 ウォーゼンは踵を返し、庭園の林の中へと消えていく。残った敵は俺達に襲い掛かり、俺は魔法の使えないこいつらを庇いながら戦った。
 久しぶりの喧嘩楽しい!
「敵はボコボコにされて、返り血でまみれてるのに嬉しそうな笑顔……悪魔か……」
「聞こえてんぞせんやぁ!」
「ひっごめんなさい……!」
「――アイン!」
 ザイドの声が聞こえ、そちらの方向を見ると、アインがザイドに抱えられていた。どうやら敵がアインに攻撃したらしい。さらに追い打ちをかけるように大勢で囲み、ザイドとアインに攻撃を仕掛けようとする。
 だからどうして俺から逃げる?
 もう怒りは沸点に到達していて、そいつらを全員回し蹴りで薙ぎ倒すと全員が地面に倒れ、ピクリとも動かなくなる。敵は怯み、撤退していく。
「…………」
 振り返ると、ザイドに睨まれたので、睨み返しておく。
「……上に報告してやる。お前は敵のスパイだ!」
「待ってくれザイド! ヴォンヴァートくん言ってたんだ、今までの自分を改めて、新しい自分を正しくするって」
 ん?
「だ、だからきっと、今はもう敵じゃないんだよ」
「過去とか関係ねえんだよ! こいつは敵組織の一員で……! ――いで!!」
 ボカッと音がする。せんやがザイドの頭を叩いたらしい。教師には頭が上がらないのか、ザイドは睨み上げるのをやめ、顔を背けた。
「ヴォンヴァートくんは闇魔術組織の実験で生まれた生命体だ」
「「!!」」
「生まれた頃からずっと実験されていて、組織を裏切ったシーシェン先生と一緒に学園で保護された」
「「……っ」」
 いやこっち見んな。
 さっきから敵じゃないって言ってただろ。
「……チッ」
 と、ザイドが頭を掻きながら舌打ちする。それしか出来ないのかお前は。
「悪かったよ……」
「え?」
「誤解して」
「…………」
 舌打ちはしたが素直に謝ってくるザイドにポカンとしていれば、せんやが耳打ちしてくる。
「ザイドってそんなに悪い奴じゃないよ」
「まあ、それは分かってるけど……」
 俺のこと嫌ってるみたいだったから。
 ザイドをじっと眺めていれば、ザイドは気まずそうに目を逸らす。
「よし、仲直りの喧嘩しようぜ!」
「何でそうなる……」
「いいから!」
 喧嘩、喧嘩しようぜ! 今度こそ!
「仕方ねえな……」
 ザイドが構えてから、殴り掛かる。
「それ!」
「ぶへっ」
「あ……」
 ザイドは一発で昏倒した。
 ……よええ。
 期待外れだ。もう喧嘩はシーシェンだけに挑むと決めた。
「ヴォンヴァートくんは、どうして喧嘩なんて好きなんだ?」
 座ったままのアインが見上げてくる。じっと見つめられて、目を逸らさないでいると、アインの方が目を逸らした。
「ずっと考えてた、どうしてお前が怒ったのか。でも全然分からないんだ」
 答えずにいると、せんやが前に出て言った。
「誰だって好きなものを悪いもののように言われたら怒るでしょ?」
「好き? 喧嘩が?」
「生きがいらしいよ」
「生きがい……」
「でもどうして生きがいなの? って言うか喧嘩が好きなの?」
「そんなの楽しいからに決まってんだろ! こう、殴ったり、殴られたりすると、生きてるって感じがするだろ!?」
「いや分かんないけど……」
 なぜ分からない。
 前世の俺を理解してくれる人はいないのかもしれないな。
「でも別に悪いことではないんでしょ。好きなもんは好きでいいんだよね」
「……………………。そうだな」
「うん」
「ってそれ俺の受け売りだろ」
「バレた?」
 そんな恥ずかしいこと言ってたか? もうせんやの言葉ってことにしとけば良かったな。
「ヴォンヴァートくん」
「ん?」
「ごめんなさい。もう、喧嘩のことを悪く言ったりしないから、だから……!」
「だから?」
 アインの頬が赤く染まっていく。
「お、俺と友達になってください!!」
 アインはぷるぷると震えている。
 か。
「アイちゃん!」
 かわいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!
 抱きしめて擦り寄れば、せんやが「ずるい」と喚く。
 「俺も、俺も」とうざかったので、アイちゃんのこともせんやのことも抱きしめる。
「れ、レン。大胆……」
「黙れ」
「れん?」
「あだ名みたいなもん」
「あだ名か、仲良しみたいでいいな! 俺も呼びたいな!」
「いいぞ、なんとでも呼んでくれ」
「じゃあリリアで!」
「なっ……」
 超嬉しそうな笑顔で言われてしまった。今更リリアはやめてなんて言えない……。
「そうだな、リリアでいいだろ」
「え……」
 ザイドがむくりと起き上がりながら言う。
「この野郎!」
「ちょ――待て! それは……!!」
 アインとせんやを抱きしめたまま、ザイドの上へダイブする。
 ザイドは潰れた声を出し、呆れかえっていた。アインとせんやから手を離し、その頭を抱きしめる。
「ちょ、おい――!!」
「まあいいよ、リリアで! お前らだけ特別な!」
 ガルルルルと聞こえてきそうな……なんかザイドって近所の家で飼われてた犬みたい。よしよしと頭を撫で繰り回していると、ザイドは顔を真っ赤にして暴れまわった。
「じゃあ俺はこの人達を警備員に引き渡してくるから」
「ああ、気を付けろよ」
「大丈夫、シーシェン先生と合流する予定だから。君達はシェルターで待機。分かった?」
「「はい」」
「じゃあなせんや」
 手を振って別れる。
「……せめて返事はしろよ」
 文句が聞こえた気がしないでもないがまあ気にすることじゃない。
 俺達はシェルターへと向かった。
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