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第一章
3話 ⑥
しおりを挟む背後から突然声を掛けられて、体が硬直する。ふ、振り返ってはいけない。絶対に……。
「なんでお前がここに……? 授業終わったばかりだろ」
「なんでって。今日のこと謝ろうと思って。キリクゥも怒ってるみたいだし。5・6時間目が実技の授業だった時は早く終わるって知らない?」
「謝るくらいならするな!」
「謝らなくていいなら、……またしてもいいの?」
耳元に息を吹き込まれるように囁かれ、ぞっとする。
「いやに決まってんだろ!!」
席を立って逃げるようにその場を離れれば、オロクの顔を見そうになって目を逸らす。
「どうして目を合わせないの? もしかして、意識してる?」
「違うわ! こっち来んな!」
逃げても逃げても距離を縮めてくるオロクから顔を逸らしていると、サイフェン、コゴ、ジュレアの立ち姿が目に入る。あれ、あの辺すごくどす黒い何かが空気を澱ませているような……。
「でも最初の一回は君からしてきただろ?」
「あれは事故で!! って言うかこの距離を保とうとするお前が悪い!」
また誰かにぶつかられたらキスしちゃう距離だろうが!
「全部俺のせい? 君が小等部の生徒を避けなかったのがいけなかったんじゃない?」
「いやいやいや、こんな間近に顔があってどう避けろと?」
「今だって目を逸らしてるじゃないか。あの時目を逸らさなかった君が悪くない?」
そう言われるとそうな気がしてくる。
「じゃあお前とは二度と目を合わせねえ……」
「それでもいいよ」
その答えにほっとしていると、頬に冷たい感触が触れてくる。オロクの手だと分かって、逃れようと反対側へ顔を向けようとした時だった。奴の手は後頭部に移動する。オロクの瞳と真正面からガッチリと目が合った時だった。ぐいっと後頭部の手に引き寄せられ、周囲から息を呑む音と「「「「あああああああああああああ!!」」」」っと言う四種類の絶叫が聞こえてくる。
「ふ……んっ」
間近にある黒い瞳に、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなって抵抗も乏しくなる。
ちゅっと唇を吸われてから、離される。
「な、な……!! な!! 何すんだ!!」
「何ってキスだけど」
「どうしてするんだ!!」
「分からない?」
「分かるか!!」
「じゃあ、君のことが好きだからって言ったら?」
「嘘つけ!!」
好感度0%なの知ってるんだぞ!!
ごしごしと口を袖で拭っていたら、その手を掴まれる。目が合うと、また動けなくなって……思わず目をぎゅっと瞑る。
「ふふ。君は面白いね。じゃあさ、からかってるだけだって言ったら?」
「悪趣味すぎるだろ!!」
一部始終を見ていたせんやが駆けつけてきて、俺とオロクの距離を両手で押し開いてくれる。
「オロク……くん! だ、だめじゃないか嫌がってる相手に無理やりなんて……!」
「嫌がってた? 抵抗しないで目を瞑ってたからてっきりして欲しいのかと思ったんだけど」
「んなわけ……!」
「あ、そうだ。キリクゥには内緒にしててよ。怒ったら怖いし」
「言いつけるに決まってんだろ!」
「ヴォンヴァートくん」
「な、なんだよ」
「キス、たくさんしちゃってごめんね」
そう言って、オロクは踵を返し去っていく。
平然と、と言うか……にこやかに笑って。
「お、オロクうううううううううう!! ぜってえ許さねえからな! 謝るくらいならするなああああああああああ!!」
その後好感度15%以上勢には関係を問い詰められ、他の生徒からは妙な視線を寄越され……散々な目にあった。
HRが終わり放課後となり、せんやに呼び出された生徒指導室へ行く。
「で、あれはいったい何が起きてたのかな?」
「俺もそれを聞きたかったんだ!」
「聞きたかったんだ、じゃない!! どんどん君に攻略されていってるじゃないか! 本当に興味ないのっ?」
「攻略されてないんだよ、見てくれ、好感度ゼロだから!」
空中画面を表示して、オロクのプロフィールを表示して見せつける。
「これのどこが好感度ゼロだって言うんだ?」
「え?」
オロク・セン・デン・ポル
誕生日8/3 年齢16歳 趣味??? 魔法??? 寮???
ヴォンヴァート・リリア・インシュベルンに好意を持つ(好感度15%以上)。
ヴォンヴァート・リリア・インシュベルンに執着する(好感度55%以上)。
ヴォンヴァート・リリア・インシュベルンを愛している(好感度100%以上)。
親密度 2%
好感度 100%
愛 15%
「はあああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
「うるさい」
「いや、この間までゼロだったんだって。え、って言うか100%だとどうなるの?」
せんやの魅了で50%だったのに、100%って。
って言うか何この説明文こわ。
「ゲームではもう体の関係を持って愛し合ってる……みたいな」
「いやいやいや、先生と生徒だし恋愛要素はそんなに多くないゲームだったろ?」
「直接描写できないから、好感度でどこまでいってるか表示してたんだろ? アルマタクト界では常識」
「愛し合ってねえ……」
「確かに意味分かんないね。バグじゃない?」
「バグがあるかよこの世界で!」
どう言うことなんだあああ。オロク・セン・デン・ポル。お前が分からない……!
「これは? 愛って何?」
「分かんない。前世でもそんなメーターなかったし……」
「……オロクってどんな奴なんだよ」
「簡単に言えば闇魔術組織のスパイ」
「え」
「報告するべきなんだろうけど証拠もないし、改心する予定だから放っておいたと言うか。攻略すれば何とかなると思ってたから……」
ななななな、なんかいきなりぶっとんだ設定を教えられたんですけど。
「俺はどうすれば……」
「オロクの考えてることなんて分かんないし……できるだけ会わないようにするしかないと思う……」
「分かった。そうする」
「で? なんでこんなことになってんの?」
「知るか!! あいつが妙に距離が近くて、事故ってキスしたら、とつぜんむちゅむちゅちゅぱちゅぱしてきて」
「うううううオロクめ……俺の姫野くんに」
「なんて?」
よく聞こえなかった。
「何でもないよ」
え、なに。急な笑顔怖え。
「とにかく会わないようにすればいいんだな」
「あーでも……そろそろ学年別のトーナメント戦が始まるんだよね」
「え」
「会う機会は結構あるかも」
「会いたくねえ!!」
「しょうがないだろ、まあ気を付けて。君が吸血鬼だってことも知られないようにね」
「分かった」
話も終わったし帰ろうかとしていれば、ガッと腕を掴まれる。
「助けてあげたよね?」
「ん? ああ」
確かにこいつがオロクと俺を引き離してくれなかったらまたやられてたかも……。
「じゃあご褒美ちょーだい♡」
「は?」
「俺ともちゅーしよ……。んう……♡」
「じゃあな!!」
扉を開いて、即座に逃げた。
もうキスは勘弁。
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