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第一章

3話 ④

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「今日はひさびさの授業だね、オロク」
「キリクゥ、貴方の相手はしないよ」
「え~……」
 オロクが別の生徒と組むのを見て、少し苛立ちを覚える。先生が合図を出し、戦闘が始まった。相手は弱い弱い。あくびも出てしまった。
 そんな時、僕と同じく暇そうにしているオロクが目に入って、火の魔法を発動させる。組んだ生徒はその威力を見て慌てた様子で避ける。オロクへ向けて撃ったから少し本気を出しちゃったけど、一般生徒じゃどうにもできないだろうね。
 オロクは自分への攻撃だと気が付いたらしい、しかし何もせずに避ける。
 みんなが同じようにぎりぎりで交わしていくのを眺めていた。校舎は壊れるだろうけどアルマタクトの力で無限に再生するから大丈夫だろう。
 そう考えていた時だった――自分の放った魔法の向こう側に目立つ髪色が見え、「あっ」と声を出す。生徒の一人が「あ、危ない――っ!!」と叫んだ。
「ヴォン、ヴァートくん……!」
 自分もなぜか駆け出そうとしていた。しかし、ヴォンヴァートくんは魔法を一瞥するとそれを無視するように平然と歩きだす。
「ばかな!」「何してるんだアイツ!」「先生止めて!」
 そんな声が聞こえてくる。
「ヴォンヴァートくん……!」
 自分の魔法を打ち消そうと、魔法を発動しようとした時だった。ヴォンヴァートくんのすぐ傍で、巨大な火の玉が一瞬にして消滅する。誰もが口を大きく開け放っていた。彼はそのままこちらを見もせずに、職員棟へと消えていった。
 あれも吸血鬼の力? 闇魔術組織の力なのか? 君は一体何者なんだ、ヴォンヴァートくん。
 オロクを見てみると、自分も含めみんなが口を開け放つ中、ひとりだけにこやかな笑みを浮かべていた。そうしてから、先生と話し、ヴォンヴァートくんの向かった方へ歩き出す。先生にはおそらく「様子を見てきます」とでも伝えたのだろう。
 ああ、オロクがヴォンヴァートくんに興味を抱いてしまった……。
 オロクとは取り合いたくなかったんだけどな。

 ◇◇◇

 職員棟の向こう側にあったのは門で、その向こう側は町だった。確かアルマタウンと言う町だったが……。
 冷静になってきたし帰ろうかな……。
「いくらなんでも喧嘩したかったからって、邪魔されてイラつくなんて……。アイちゃんには悪いことしたかも。帰ったら謝ろう」
「喧嘩、そんなにしたかったの?」
「ひえっ!?」
 真後ろから声がして振り向くと、すぐ傍に見覚えのある顔があった。
「お、オロク? デン・セン・デン・デン……」
「オロク・セン・デン・ポル。オロクでいいよ」
「じゃあ、オロク。どうしたんだこんなところで。SSクラスは実技の授業してたんじゃ……」
「やっぱり見えてたの? さっきの魔法」
「見えてたけど、俺にはどうすることも出来ないし、魔法効かないしいいかなって」
「魔法が効かない?」
「お、おう」
 オロクはと息が掛かる距離まで詰めてくる。一歩下がってもその距離をすぐに縮められた。暗闇のような黒い瞳が間近にあって、妙に緊張する。こいつ、瞬きを全くしない。
 って言うかこの距離……誰かが背中にぶつかってきたら……考えるのはよそう。
「魔法が効かないなんて、すごい才能だよ」
「でも魔法も使えないんだよ」
「じゃあどうやって戦うの?」
「そんなの拳に決まってらぁ!」
 距離を取ってから拳を見せれば、その手を掴まれ、下げられ、また距離を詰められる。
「へえ。拳で……本当に喧嘩が好きなんだね」
「まあ……それが生きがいだったし」
「だから邪魔されて怒ったの?」
「まあ……」
「じゃあ謝る必要はないね」
「え?」
「君の生きがいを奪った相手が悪いんだから」
「いいのかな、それで」
「いいさ。相手が悪かったと気が付くまで、君は謝らなくていい」
「……お前、何考えてるか分からないやつだったけどいいやつだな」
「そうかな? 俺はいいやつでも悪いやつでもないよ」
 なんかよく分かんないやつだけど、悩みはふっ飛んだぞ。
「ありがとな、オロク」
 笑いかけると、相手も微笑む。
 その時だった。きゃいきゃいと背後から声が聞こえてきて、そう言えば、職員棟の裏は小等部の校舎があったよう……な。
「――え」
 どんっと腰のあたりに何かがぶつかって……目の前の黒い瞳が触れそうになるまで近づく。
 瞳は触れ合わなかったものの。
 唇に、湿った感触が触れてくる。
 ――目を零れんばかりに見開いたら、相手の瞳も僅かに開く。
「んんんんんんんん!?」
「わーちゅーした!」「先生この人達キスしたよ!」「キース! キース!」
 からかうような子供達の声が聞こえだし、やっと状況が飲み込めてくる。
「ぶっ……うわあああああ! キモイイイイイイ!!」
 口を離し後退しようとした途端、相手は腰を掴んできてさらに距離を詰めてくる。
「いや、お前が全面的に悪いからな!! なんでまた距離を詰めるんだよ! また事故るだろ!?」
「そうかな? 事故にはならないでしょ」
「え? ……んっ」
 オロクの顔が近づいてきたと思ったら、唇の上にまた生々しい感触が乗ってくる。
「んんんんんんん!?」
 コイツ何してんのおおおおおお!?
 ちゅ、ちゅ、と何度も何度も角度を変えて唇を吸い上げられて、こいつは正気じゃないと身震いする。身震いどころかがたがた体が震えだしたんだけど。だってこいつ、目ぇ開けたまんますんだもん相変わらず瞬き全然しないし!!
「ぷあっ、やめ、ふざけん、ん……んぅ」
 ちゅ、ちゅぅ、と嫌な音が休む間もなく鳴り続ける。誰か助けてくれえええええええええ!!
 オロクと目を合わせていられずに目をぎゅっと瞑ると、べりっと誰かに肩を引っ張られ、剝がされた。
「オロク? これは一体どう言うことかな?」
「やあキリクゥ。もう授業終わったの?」
「シロくん!」
 俺を庇うように立ったキリクゥの背に飛びつく。
「もう大丈夫だよヴォンヴァートくん。僕が来たからには、誰一人として君に手を出させないからね」
「ありがとうシロくん!」
 あああ、きもっちわる!!
 口を拭っていれば、ぱちっとオロクと目と目が合った。にこっと微笑まれる。何考えてるか分かんねええええ。って言うか何? こいついつの間に好感度上がったの?
 空中画面を表示してプロフィールを確認する。
 ん? え?

オロク・セン・デン・ポル
 誕生日8/3 年齢16歳 趣味??? 魔法??? 寮???
親密度 2%
好感度 0%

 好感度どころか親密度もそんなに上がってないじゃん!

 え、何これ、どう言うこと?
 キスされたのに好感度ゼロ? いや逆に好感度ゼロでキスしてくんのこの世界のキャラクター。うわそれやだわ―。
「からかってただけだよ、気にしないで」
「ふ、ふざけんじゃねえ! 俺の初チュー返せ!」
 前世でもしたことなかったのに!
「返してほしいの? いいよ」
 距離を縮めようとしてくるオロクにビクつけば、キリクゥが「オロク?」と笑顔で呼びかけて制止する。笑顔だけど、どす黒いオーラを背負ってらっしゃる。
「お、俺口洗って帰ってもいいですか?」
「送るよ」
「ありがとうシロくん」
「これ以上誰かに手を出してほしくないしね」
「そ、そうか」
 それはそれで複雑……。
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