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第一章

2話 ②

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 サイフェンが額の汗を拭いながら、ふぅと息を吐いて言った。
「荷ほどきは大体済んだかな……。そろそろキッチンに向かおうか」
 入学式は昼13時に終わっているので時間はまだある。ただ寮母さんも19時には帰ってしまうのでその間にキッチンを使わなければならない。ちなみに今は16時だ。頑張ったなサイフェン偉い偉い。
「材料の買い出しに行くか……」
 めんどくせえけど……。料理すんのもめんどくせえけど……。
 確か学園の敷地の中に町があった筈。魔法学園へ通う生徒の家族が住む町だ。生徒の入学が決まると希望した人だけ引っ越しできる。マップを眺めてその町をタップすればそんな説明が表示される。出かける準備でもしようとベッドから起き上がると、サイフェンが「大丈夫だよ」とスマホを取り出した。
「キッチンに材料を運ぶように連絡しておいたから」
「お前寮母さんにそんな酷いことを……」
「ち、違うよ! うちの召使いにお願いしたんだ……!」
 うちの召使い?
「え、お金持ち……?」
「そ、そう言うのじゃないけど……」
 なぜかもじもじしだす。
「どうして隠してるんだ?」
「だって……お金目当てで近づいてくる人が多いんだってみんなに注意されたから……」
 ここで言うみんなが家族なのか召使いなのか分からないが……。
「大変だな」
「ヴォンヴァートくんは初めて僕に贈り物をしてくれたんだよ!」
 目をキラキラと輝かせて傍に寄ってくる。
 なんか贈ったっけ? と首を傾げれば、「ガトーショコラをくれたじゃないか!」と少し頬を膨らませながら言ってくる。
「あれはせんや……アキヅキ先生が贈ったものだろ? それにお前も貰ってただろ?」
「直接渡してくれたのは君が初めてだよ!」
 ああ、こいつ隠れ美形だから隠れファンの女子からいろんなもの貰ってんだろうな。
「贈り物は危険だって言われてたけど、君がくれたものは危険じゃなかったし、おいしかったし……」
「いやだからそれはせん……先生が」
「わ、分かってるけど、たぶん君がああしてくれなかったら今までと同じで捨てちゃってたと思うんだ!」
 捨ててたのかぁ……。
「だ、だから、君が同室だって知った時は運命だって思ったし、お友達になりたいって……」
 サイフェンはどんどん距離を詰めてきて、両手を握られる。
「お、おい……」
「君となら、君とだったらもっと仲良くなれるって思――」
 なんか耳元でピコンピコン言い出して、通知アイコンみたいなのが右端に現れる。でも今触れないんだよな……。
「ヴォンヴァートくん……」
「お、おい、近いぞ」
 引き気味に言えば、サイフェンはハッとして「ご、ごめんなさい、僕……!」と離れていく。両手も離してくれたので通知アイコンをタップすれば――……

 《おめでとうございます! サイフェン・ブロイズとの親密度が10%になりました!》
 《おめでとうございます! サイフェン・ブロイズとの好感度が10%になりました!》
 《おめでとうございます! サイフェン・ブロイズとの親密度が20%になりました!》
 《おめでとうございます! サイフェン・ブロイズとの好感度が20%になりました!》
 《おめでとうございます! サイフェン・ブロイズとの親密度が30%になりました!》
 《おめでとうございます! サイフェン・ブロイズとの好感度が30%になりました!》

 ――何これコワッ!?

 親密度と好感度って何が違うんだぁ? でもサイフェンの場合上がり方は一緒ってことか。通知オフにしとこ。
「材料準備してくれたって連絡来てたよ」
「じゃあ行くか。何作るんだ?」
「ガトーショコラ!」
 被ってるって……後が怖い。

 ◇◇◇

「おいひいぃ~」
「そうか?」
 サイフェンが蕩けるような声を出して溶けていく。
 料理は面倒くさいが、前世では両親の帰りが遅い勢だった為料理はそれなりに出来る。サイフェンの用意したレシピがいいんだろうな。
 寮のキッチンでガトーショコラを完成させ、今は袋に詰めている最中である。
 すると、匂いに釣られてやってきたのか二人組が食堂に入ってきた。
「いい匂い~! 今日の飯はデザート付きかな? あれ?」
「あ? ヴォンヴァートにサイフェン?」
 その二人組がこちらに気が付く。
「えっと……レア、レアりんと、コッコー?」
「誰だよそれ……」
「自己紹介しただろクソが」
 レアりん口悪。
 誰だっけ……と空中画面を確認する。濃い青髪青目の奴は《ジュレア・ダイズ》、見た目がチャラい灰色の髪のキャラは《コゴ・バリタカ》らしい。
「合ってんじゃん」
「「合ってねえよ!!」」
 それよりこいつらフツーに台所入ってきやがった。
「ど、どうして二人が……?」
 サイフェンがボウルで顔を隠しながら尋ねる。いや、ボウルの後ろに隠れているのか?
「部屋の窓開けたらいい匂いがしてさ~、食堂かもってジュレアと来たんだよね」
「へえ」
「エプロン似合ってんね、リリアちゃん!」
「あああん?」
「うおっ凄い顔。イケメンが台無しだよ」
 コゴのセリフに残り二人が首を傾げる。
「リリアちゃん?」
「リリアってなんだ?」
「二人とも聞いてなかったの? 先生が言ってたじゃん、ヴォンヴァート・リリア・インシュベルンって! だからリリアちゃ――」
「テメエ黙れ!!」
 口の中に残り物のガトーショコラを押し込めば、相手はポケッとした後、ぽああああと浄化されるような光を出し(目の錯覚)、「もう一個!」とねだってきた。
「余ったのなら食べていいぞ。ちょうどどう処分するか悩んでたし」
 寮母さんにあげようとは思ってたけど、全部押し付けるのはちょっとな。
「これリリアちゃんが作ったの? 天才かようんま!」
「おいクソ野郎、こんなに作ってどうする気だ……?」
「明日みんなに配んだよ」
「ガトーショコラなら今日チヨが配っただろ!!」
 あれ、こいつもしかして……。
 まだ表示されている画面にちらりと目をやると、そこには――……

ジュレア・ダイズ
 誕生日2/16 年齢16歳 趣味鍛錬 魔法雷魔法 寮コゴと同室
 チヨ・アキヅキに好意を持つ。
親密度 0%
好感度 0%

 やはりそうであったか。
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