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第一章
1話 ④
しおりを挟む誰だっけこいつ……。確かルッシー……ルッシー……空中画面を操作して名前を確認すれば、《ルシフェル・ギーウェン》と書かれていた。こいつも攻略キャラである。
ついさきほど教室の前の席で騒いでいた、追加設定でせんやにメロメロにされている一人だ。ってことはどこかにキスされたのか。
せんやは全員攻略する気でいるけど……ヒロインは先生だし攻略対象は生徒だからほとんど恋愛要素はなかったゲームだよな。いやだからこそこの世界に来て燃えているのかもしれない。
「大変だなルッシー」
「それは俺のことか?」
「当たり前だろ、ル・ッ・シー」
挑発するように言えば、ルッシーがどこから現れたのか、ガラの悪い不良達を後方に構えて俺のことを見据える。
「ザイド・スターク。お前が手を出したのは学園で一二を争う実力者だ」
え、あいつそんなに有名な不良だったの? 弱かったけど。それにしてもこの不良達、別のクラスの生徒のようだ。普通科からも特進科からも来ている。制服の色で分かるのだがちなみに俺達はAクラス。白と黄色を基調とした服である。
「そんなあいつに目を付けられたお前と、みんな戦ってみたいんだってさ」
こっちの世界に来てから初めての喧嘩か? わくわくしてきたぜ!
「ちょ、ちょっと待った!!」
そう言って俺の前に飛び出してきた金髪に目を細める。彼は庇うようにして俺の前に立ち、徐々に下がって来て俺の腕を取った。
「アイちゃん?」
「複数人で一人を相手にするなんてズルイだろ!」
本当に庇ってやがる……。
ピンク色の瞳がちらりとこちらを覗き込む。誰かさんの上目遣いより可愛いんじゃねえか?
「アイちゃん、心配してくれてるのか! 大丈夫だこんくらいの人数!」
後ろから抱き上げると、アインは「うわああっ」と手をばたつかせる。そのままアインを後ろによっこらせと下ろせば、背を向けた俺に複数人が襲い掛かってくる。きゃっとでも言いそうにアインが身を縮める。それを庇うようにして立ち、まず全員に回し蹴りをお見舞いしてやる――それだけで襲い掛かってきた不良はノックアウトされた様子だった。
まだ残っている不良が身じろぎ、ルシフェルに困惑の色を浮かべた視線を向けるが……ルシフェルは「残り半分の金はこいつをやってからだ」と不良達に警告した。なるほど不良の正体は金に釣られた生徒だったか。
襲い掛かってくる不良共をテキトーに相手して、ほいほいと投げていくと、全員立ち上がれなくなった頃に、ルシフェルは顔を真っ青にして震えていた。
こぶしを握り締め、キッと睨み付けてくる。
「どうして全員魔法を使わないんだ……バカなのか!」
ルシフェルは手のひらに魔法陣を浮かべるが、それは発動される前に光を失い消えていく。
「な、何で――魔法が発動できない!?」
「お前も不良達を見習って、魔法なんて使わずに殴り掛かってこいよ」
こぶしを鳴らしながら距離を詰めていくと、ルシフェルは一歩一歩下がってついに背を向けて言った。
「今回はここまでにしてやる!」
「どう見てもこっちのセリフだば~か!」
お決まりのセリフを吐いて去っていく背中にそう声を掛けてやれば、相手の背中が縮こまったのが見えた。
返り討ちにしてやったとはいえ、なんか喧嘩が強くなりすぎていてモヤモヤする。こう、自分ももっと血を流したかった。喧嘩が1番強いはやめとくべきだったかなぁ。
……クラスメイトには見られてるし、一応好感度を確認しておくか。
教室に残っている分の全員の好感度を確認すると、みんなゼロのままだった。マイナスにならなくて良かったがプラスになっても困るな。
そう思った時、アインの好感度に止まって、少し上がっていることに気が付いた。マックスや半分にまで到達はしていないものの、ゼロに近かった数値は100%中8%まで上がっている。
「か、庇ってくれてありがとう」
「別に庇ったわけじゃねえよ」
あ、3%下がった。
……そんなことを考えながら画面を見つめていたら、視界の右上に赤文字を発見した。
-1000Pt
え、何これ?
右下にヘルプボタンらしきものがあり、それをタッチすると、画面操作のヘルプがあったためそれを押す。すると、右上のPt表示は来世へのポイントと説明があり、ぎょっとする。
え、ちょっと待って、え?
冷や汗が流れ、急激に体温を失っていく感覚を覚える。
ヘルプ画面の目次に戻り、来世ポイントと記載されたそれをタップすると、こう説明があった。
来世で使用できるポイント。今世では使用できない。来世が始まる前に追加設定を買うことができる。戦って貯める前世ポイントとは違い、善行を積むことで貯められるので喧嘩には注意が必要。
え?
え……
えええええええええええ!?
聞いてないぞ神様! 数人の不良を返り討ちにしただけで――いや、金に釣られた一般生徒に暴行を加えただけで-1000Ptって! 待ってくれよ!
どう善行を積めって言うんだ、俺は喧嘩が大好きな不良だぞ! しかも魔法が使えないなら戦闘は必ず殴り合いになるわけで! そんな俺に-1000Ptから始めろって、ええええええええええ!?
嘘だろおおおおおおお!!
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