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最強転入生と勉強会③
しおりを挟む風紀委員会を設立して三度目の爆発音。
最早、慣れた。
だが当然ながら見逃すわけにはいかない。特に今は、三人には成績を上げてもらわないと困る。
だから俺は一人廊下を疾走する。
「ヒャッハー! 室内花火大会だぜェー!!」
「燃えろや燃えろォー!!」
少しでも長く勉強の時間を確保してもらいたい。
その為にも、執務は一人で引き受ける。
「風紀委員だっ! その馬鹿げた爆発祭りを止めろ!」
「あァ!? 誰に口聞いてンだオラァ!!」
「ぶち転がすぞオラァ!!」
二人の不良が俺に殴りかかって来る。
ただでさえ勉強を面倒見ているのに、これ以上仕事を増やさないでくれ頼むから。
……速攻で片付けてやる。
* * * * * * * * * *
「飽きたー。飽きましたー」
手に持ったペンを投げ出して、バナーニャはだるそうな声を上げながら机にうなだれた。
「二人は真剣にやってるぞ」
「だってやる気が出ないのですもん」
「お前、真面目キャラじゃなかったのか」
正義感も強いし、何よりしっかり者だ。
だからこそ、彼女の勉強に対する消極的な反応にかなりの違和感を覚える。
対してモモとイチジクは、少しずつだが確実に正答数を上昇させている。
「だから言ってるじゃないですか。勉強は……よくわからないけど苦手なのです」
そう、彼女の勉強に対する感覚は所謂苦手意識に過ぎない。
本当に苦手なわけではないのだ。
実際に二人と比べると、最初の成績は大幅に上なのだ。しかし勉強自体をおろそかにしている為、明らかに伸び悩んでいる。
しかもこう騒がれると、他の二人に迷惑だ。
……困ったな。
「なあ、ちょっと外に出ないか?」
「え? いいのですか!?」
勉強をしなくて済むと思ったのだろう。
途端に瞳を輝かせ、笑顔で頷いてくる。
「二人ともいいか?」
「別に構わないっスけど」
「諸々の解除を怠るなよ」
「わかってるって。じゃあ行こうか」
「わーい息抜きー!」
全ての魔術を解除し、俺はバナーニャを連れて外に出た。
残り二人は黙々と問題を解いている。
生徒会室から出ると、バナーニャは思いきり背伸びをした。少し歩いて、彼女と初めて出会った人の気配が少ない場所へ向かった。
ちょっとだけ真剣な話をするためだ。
……さて、どうしたものか。
「っはぁー。やっと解放されました」
よほど嬉しかったのだろう。
表情がだいぶダレている。
「なあ、これまでの考査はどうやって切り抜けてきたんだ?」
「当然ノー勉です!」
「強気になるところか? それ」
まあ確かに、テスト前に無勉強というのはある意味肝が座っていてすごいとは思うが。
俺ですら少し復習しているのに。
「勉強が苦手になった理由とか、自分で知っていたりしないか?」
「うーん……」
……無いのか。さらに困ったな。
バナーニャは物事に取り組めば真剣になれるし、効率や進行速度なども計算に入れられる。何より度胸がある。
必要な素質は揃っている。
足りていないのは積み重ねだけだ。
おそらく彼女が本気になれば、知能C-なんて燻っているようなパラメータにはならないはずだ。
「正直、少し理由はわかっているのです」
意外な言葉を口にした。
だが、どこか言葉に詰まっているようでもある。
「私、たぶん本当は真面目キャラに向いていないんだと思うのです。ただ不良っていうのが嫌いなだけで」
突然の告白に動揺する。
元気が言葉から感じられない。
声を大にしているわけでは無いが、どうにも自棄になっているような気がする。いつもの彼女とまるで印象が違う。
「勉強とか全然手につかないし、学校だってサボりたい時があります」
「そうか……」
「……でも、モモちゃんやイチジクさんを見ていると、やっぱりこういう人になりたいって思っちゃうのです」
俺は少し悩んだ。
風紀委員計画を提出された時とはまた違う、目に見える人一人を背負っているが故の責任感だ。
だがもし、彼女のためになるのなら。
意を決して俺は口を開く。
「やってみればいいんじゃないか?」
「やってみるって、何をです」
「その……不良」
不良をやってみる、どうも不思議な言葉だ。
だがこれくらいしか思いつかない。
それはバナーニャも同じようだ。唖然とした表情で俺を見上げている。
「えー……」
こんな提案されたら、まあ反応に困るだろう。
だがそこはバナーニャ。何かを思いついたのか、顔を上げた。
「じゃあ……まずは勉強してみますかね」
「え?」
「勉強ですよ勉強! アップルさんが望んでいる奴です!」
気が変わったにしてはどうにも繋がらない。
彼女の心境に、この瞬間で何があった?
「できる限りで勉強して。考査に挑んでやります。それで本当に嫌になったら、ちょっとだけ不良っぽいことをやってみます」
……そういうことか。
きっと彼女は、自分の中の乖離に決着をつけようと考えたのだろう。真面目になりたい自分と、実際不真面目な自分。
無責任にあんな事を言うんじゃなかった。
コイツが馬鹿みたいに真っ直ぐだと、よく知っていたはずなのに。
「ただ変な虫に絡まれるのは嫌です」
「嫌と言っても、そういうのに絡まれやすいのが不良だろ」
「はい。なので……」
そこまで言って、彼女は後ろへ下がった。
と思っていたら、今度は頭上を飛び越えて目の前に仁王立ちした。
随分とアクロバティックな事をするな。
「もし本当に不良体験することになったら、虫除けになってもらいますからね!」
そうかそうか。
……真面目になってもらわないとな。
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