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最強転入生と勉強会②
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「はいっス先生!」
「はいはいはい」
いつもの生徒会室。
しかし、その雰囲気は普段と違う。
誰かが切り出す駄弁りはなく、代わりにペンが紙をこする摩擦音だけが響き続けている。
あと、たまにうなり声。
「召喚陣の穴埋め問題なんっスけど」
「あー、これは設問の中に答えがある問題だ」
「答えが書いてあるんスか!?」
「よく見ると召喚陣の中に同じ文字列があるから、そこから歯抜けしてる文字を抜き出せばいい」
風紀委員と生徒会合同の勉強会。
昨日徹夜して傾向を分析したおかげで、今回の考査は九割出題されるであろう問題が予測できた。
それを利用し作り上げた模擬問題。
あとはこれの数をこなし、いかに攻略の糸口を掴むかだ。
「ご教示願う」
「はいはいはい」
まずは得意分野を完璧にしたほうがいい。
正答数を増やすべきだろう。
サービス問題と得意そうな分野を重点的に繰り返す。序盤はそこからだ。
「文字が読めん」
「マジか」
「……いや、そういう事ではない。皇国外で生まれた魔術文字という問いがわからんのだ」
「じゃあそこは飛ばそう」
「良いのか?」
「一応全部やって、得意分野を探すぞ」
この二人の傾向はわかりやすい。
モモの場合、思考系の問題は得意だ。
少し解答にコツがいるタイプの問題を苦手としている。得意分野の思考系も途中で気を抜き、肝心要の凡ミスが目立つ。
イチジクは基本得意分野がない。
そのかわり飲み込みが非常に早い。暗記系の問題は特に顕著で、一度覚えれば正答率はほぼ十割を維持している。
「あ、字を間違えてるぞイチジク」
イチジクにとって一番の敵は誤字だな。
「おはようございまーす!」
「おう。勉強会始まってるぞ」
遅れてきたバナーニャに問題を渡す。
「……あーヤバい、ヤバいです! 遠方の親戚が死んだような気がします! 法事に行かなきゃいけない気がします!」
「オイ」
「わー大変だ! 帰りますね!」
バナーニャが魅せる抉るようなターン。
この場から逃げようとしているが、そうはいかない。敷居を跨いだが最後だ。
「逃げられると思うなよ?」
「ひぃぃいいいっ!?」
悲鳴を上げて走り出すバナーニャ。
しかし彼女の速力パラメータE。遅い。
走って追いかけるのも良いが、どうせなら絶望感を与えたい。逃げても無駄だという事を認識させてやろう。
「『転移』」
転移先は、バナーニャの目の前だ。
「よう」
「ギャアアアア!!!」
転移して目の前に立つと、耳をつんざくような大音量で叫ばれる。
流石にこの近距離で叫ばれると耳が痛い。
強さに差があるとそもそも逃がしてくれないのは、モンスターも人間も同じだ。逃げられないなら立ち向かうしかない。
そういうとこだぞバナーニャ。
固まった彼女を担ぎ、生徒会室に連行する。
「拉致! これは拉致だと思います!」
「成績向上のためだ。腹を括れ」
「だいたい女の子の体に気安く触らないでください!」
「成績向上のためだ。割り切れ」
水揚げされた魚のようにもがく彼女。しかし一度高まったが最後、いくら抵抗しようと意味はない。
なあに。俺だって昔は注射から逃げていた。
「ロリコンですぅー! ちょっと口に出せないイタズラされますー!!」
「それはやめろ」
「むぐぅぅうう!?」
咄嗟に彼女の口を手で塞ぐ。
ただでさえ密偵のせいで噂が伝わりやすい。
だからそんな一発で評判を悪くする誤情報を流さないでくれ。
それに年齢は一緒だろ。
お前がほぼ合法なだけだ。
生徒会室に再び放り込み、ドアを閉めて鍵をかける。空を飛べるので窓から脱出もできるが、残念ながら対策済みだ。
「イカサマ防止のために、この部屋は俺以外魔術を使えないように設定してある」
いい加減、腹を括って勉強してもらおう。
「だいたいお前、三人の中で一番地頭が良いじゃないか」
知識C-、魔術知識D。平均には届いていないが、恐らく勉強すればかなり伸びるタイプである。
逆に勉強をしないのが不思議なタイプだ。
やがて少しは諦めたようで、三列に並び替えられた生徒会室の長机の後ろ端に彼女は座った。ドアに近い場所を取ったのは、まだ逃げようと画策しているからだろうか。
「ちなみに、鍵を開けられるのも俺だけだ」
「悪魔がいます!」
「理由を言えば開けてやるから大丈夫だ」
こんな強硬姿勢、なるべくは取りたくない。
しかし実はバナーニャが来るより前、すでにイチジクが二度の逃走を試みている。
運動系パラメータが地味に高いぶん、その度に捕まえるのも二人に比べて面倒臭い。
なので実際、これはイチジク対策だ。
「バナーニャちゃん、大丈夫っスよ」
「怯える必要はない。所詮は慣れだ」
「モモちゃん……イチジクさん……」
先にいた二人が、バナーニャを慰める。
そう、今は全員で協力する時だ。
確かに勉強は面倒だが、四人も集まれば少しは気も紛れるだろう。息抜きをしないわけではないのだし。
二人は続けて、同時に口を開く。
「「地獄へようこそ (っス)」」
「やっぱり地獄じゃないですか!」
「はいはいはい」
いつもの生徒会室。
しかし、その雰囲気は普段と違う。
誰かが切り出す駄弁りはなく、代わりにペンが紙をこする摩擦音だけが響き続けている。
あと、たまにうなり声。
「召喚陣の穴埋め問題なんっスけど」
「あー、これは設問の中に答えがある問題だ」
「答えが書いてあるんスか!?」
「よく見ると召喚陣の中に同じ文字列があるから、そこから歯抜けしてる文字を抜き出せばいい」
風紀委員と生徒会合同の勉強会。
昨日徹夜して傾向を分析したおかげで、今回の考査は九割出題されるであろう問題が予測できた。
それを利用し作り上げた模擬問題。
あとはこれの数をこなし、いかに攻略の糸口を掴むかだ。
「ご教示願う」
「はいはいはい」
まずは得意分野を完璧にしたほうがいい。
正答数を増やすべきだろう。
サービス問題と得意そうな分野を重点的に繰り返す。序盤はそこからだ。
「文字が読めん」
「マジか」
「……いや、そういう事ではない。皇国外で生まれた魔術文字という問いがわからんのだ」
「じゃあそこは飛ばそう」
「良いのか?」
「一応全部やって、得意分野を探すぞ」
この二人の傾向はわかりやすい。
モモの場合、思考系の問題は得意だ。
少し解答にコツがいるタイプの問題を苦手としている。得意分野の思考系も途中で気を抜き、肝心要の凡ミスが目立つ。
イチジクは基本得意分野がない。
そのかわり飲み込みが非常に早い。暗記系の問題は特に顕著で、一度覚えれば正答率はほぼ十割を維持している。
「あ、字を間違えてるぞイチジク」
イチジクにとって一番の敵は誤字だな。
「おはようございまーす!」
「おう。勉強会始まってるぞ」
遅れてきたバナーニャに問題を渡す。
「……あーヤバい、ヤバいです! 遠方の親戚が死んだような気がします! 法事に行かなきゃいけない気がします!」
「オイ」
「わー大変だ! 帰りますね!」
バナーニャが魅せる抉るようなターン。
この場から逃げようとしているが、そうはいかない。敷居を跨いだが最後だ。
「逃げられると思うなよ?」
「ひぃぃいいいっ!?」
悲鳴を上げて走り出すバナーニャ。
しかし彼女の速力パラメータE。遅い。
走って追いかけるのも良いが、どうせなら絶望感を与えたい。逃げても無駄だという事を認識させてやろう。
「『転移』」
転移先は、バナーニャの目の前だ。
「よう」
「ギャアアアア!!!」
転移して目の前に立つと、耳をつんざくような大音量で叫ばれる。
流石にこの近距離で叫ばれると耳が痛い。
強さに差があるとそもそも逃がしてくれないのは、モンスターも人間も同じだ。逃げられないなら立ち向かうしかない。
そういうとこだぞバナーニャ。
固まった彼女を担ぎ、生徒会室に連行する。
「拉致! これは拉致だと思います!」
「成績向上のためだ。腹を括れ」
「だいたい女の子の体に気安く触らないでください!」
「成績向上のためだ。割り切れ」
水揚げされた魚のようにもがく彼女。しかし一度高まったが最後、いくら抵抗しようと意味はない。
なあに。俺だって昔は注射から逃げていた。
「ロリコンですぅー! ちょっと口に出せないイタズラされますー!!」
「それはやめろ」
「むぐぅぅうう!?」
咄嗟に彼女の口を手で塞ぐ。
ただでさえ密偵のせいで噂が伝わりやすい。
だからそんな一発で評判を悪くする誤情報を流さないでくれ。
それに年齢は一緒だろ。
お前がほぼ合法なだけだ。
生徒会室に再び放り込み、ドアを閉めて鍵をかける。空を飛べるので窓から脱出もできるが、残念ながら対策済みだ。
「イカサマ防止のために、この部屋は俺以外魔術を使えないように設定してある」
いい加減、腹を括って勉強してもらおう。
「だいたいお前、三人の中で一番地頭が良いじゃないか」
知識C-、魔術知識D。平均には届いていないが、恐らく勉強すればかなり伸びるタイプである。
逆に勉強をしないのが不思議なタイプだ。
やがて少しは諦めたようで、三列に並び替えられた生徒会室の長机の後ろ端に彼女は座った。ドアに近い場所を取ったのは、まだ逃げようと画策しているからだろうか。
「ちなみに、鍵を開けられるのも俺だけだ」
「悪魔がいます!」
「理由を言えば開けてやるから大丈夫だ」
こんな強硬姿勢、なるべくは取りたくない。
しかし実はバナーニャが来るより前、すでにイチジクが二度の逃走を試みている。
運動系パラメータが地味に高いぶん、その度に捕まえるのも二人に比べて面倒臭い。
なので実際、これはイチジク対策だ。
「バナーニャちゃん、大丈夫っスよ」
「怯える必要はない。所詮は慣れだ」
「モモちゃん……イチジクさん……」
先にいた二人が、バナーニャを慰める。
そう、今は全員で協力する時だ。
確かに勉強は面倒だが、四人も集まれば少しは気も紛れるだろう。息抜きをしないわけではないのだし。
二人は続けて、同時に口を開く。
「「地獄へようこそ (っス)」」
「やっぱり地獄じゃないですか!」
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