上 下
16 / 20

最強転入生と勉強会②

しおりを挟む
「はいっス先生!」

「はいはいはい」

 いつもの生徒会室。
 しかし、その雰囲気は普段と違う。

 誰かが切り出す駄弁りはなく、代わりにペンが紙をこする摩擦音だけが響き続けている。
 あと、たまにうなり声。

「召喚陣の穴埋め問題なんっスけど」

「あー、これは設問の中に答えがある問題だ」

「答えが書いてあるんスか!?」

「よく見ると召喚陣の中に同じ文字列があるから、そこから歯抜けしてる文字を抜き出せばいい」

 風紀委員と生徒会合同の勉強会。
 昨日徹夜して傾向を分析したおかげで、今回の考査は九割出題されるであろう問題が予測できた。

 それを利用し作り上げた模擬問題。
 あとはこれの数をこなし、いかに攻略の糸口を掴むかだ。

「ご教示願う」

「はいはいはい」

 まずは得意分野を完璧にしたほうがいい。
 正答数を増やすべきだろう。

 サービス問題と得意そうな分野を重点的に繰り返す。序盤はそこからだ。

「文字が読めん」

「マジか」

「……いや、そういう事ではない。皇国外で生まれた魔術文字という問いがわからんのだ」

「じゃあそこは飛ばそう」

「良いのか?」

「一応全部やって、得意分野を探すぞ」

 この二人の傾向はわかりやすい。

 モモの場合、思考系の問題は得意だ。
 少し解答にコツがいるタイプの問題を苦手としている。得意分野の思考系も途中で気を抜き、肝心要の凡ミスが目立つ。

 イチジクは基本得意分野がない。
 そのかわり飲み込みが非常に早い。暗記系の問題は特に顕著で、一度覚えれば正答率はほぼ十割を維持している。

「あ、字を間違えてるぞイチジク」

 イチジクにとって一番の敵は誤字だな。


「おはようございまーす!」

「おう。勉強会始まってるぞ」

 遅れてきたバナーニャに問題を渡す。

「……あーヤバい、ヤバいです! 遠方の親戚が死んだような気がします! 法事に行かなきゃいけない気がします!」

「オイ」

「わー大変だ! 帰りますね!」

 バナーニャが魅せる抉るようなターン。
 この場から逃げようとしているが、そうはいかない。敷居を跨いだが最後だ。

「逃げられると思うなよ?」

「ひぃぃいいいっ!?」

 悲鳴を上げて走り出すバナーニャ。
 しかし彼女の速力パラメータE。遅い。

 走って追いかけるのも良いが、どうせなら絶望感を与えたい。逃げても無駄だという事を認識させてやろう。

「『転移』」

 転移先は、バナーニャの目の前だ。

「よう」

「ギャアアアア!!!」

 転移して目の前に立つと、耳をつんざくような大音量で叫ばれる。
 流石にこの近距離で叫ばれると耳が痛い。

 強さに差があるとそもそも逃がしてくれないのは、モンスターも人間も同じだ。逃げられないなら立ち向かうしかない。
 そういうとこだぞバナーニャ。

 固まった彼女を担ぎ、生徒会室に連行する。

「拉致! これは拉致だと思います!」

「成績向上のためだ。腹を括れ」

「だいたい女の子の体に気安く触らないでください!」

「成績向上のためだ。割り切れ」

 水揚げされた魚のようにもがく彼女。しかし一度高まったが最後、いくら抵抗しようと意味はない。
 なあに。俺だって昔は注射から逃げていた。

「ロリコンですぅー! ちょっと口に出せないイタズラされますー!!」

「それはやめろ」

「むぐぅぅうう!?」

 咄嗟に彼女の口を手で塞ぐ。

 ただでさえ密偵のせいで噂が伝わりやすい。
 だからそんな一発で評判を悪くする誤情報を流さないでくれ。

 それに年齢は一緒だろ。
 お前がほぼ合法なだけだ。

 生徒会室に再び放り込み、ドアを閉めて鍵をかける。空を飛べるので窓から脱出もできるが、残念ながら対策済みだ。

「イカサマ防止のために、この部屋は俺以外魔術を使えないように設定してある」

 いい加減、腹を括って勉強してもらおう。

「だいたいお前、三人の中で一番地頭が良いじゃないか」

 知識C-、魔術知識D。平均には届いていないが、恐らく勉強すればかなり伸びるタイプである。
 逆に勉強をしないのが不思議なタイプだ。

 やがて少しは諦めたようで、三列に並び替えられた生徒会室の長机の後ろ端に彼女は座った。ドアに近い場所を取ったのは、まだ逃げようと画策しているからだろうか。

「ちなみに、鍵を開けられるのも俺だけだ」

「悪魔がいます!」

「理由を言えば開けてやるから大丈夫だ」

 こんな強硬姿勢、なるべくは取りたくない。
 しかし実はバナーニャが来るより前、すでにイチジクが二度の逃走を試みている。

 運動系パラメータが地味に高いぶん、その度に捕まえるのも二人に比べて面倒臭い。

 なので実際、これはイチジク対策だ。

「バナーニャちゃん、大丈夫っスよ」

「怯える必要はない。所詮は慣れだ」

「モモちゃん……イチジクさん……」

 先にいた二人が、バナーニャを慰める。

 そう、今は全員で協力する時だ。
 確かに勉強は面倒だが、四人も集まれば少しは気も紛れるだろう。息抜きをしないわけではないのだし。

 二人は続けて、同時に口を開く。

「「地獄へようこそ (っス)」」

「やっぱり地獄じゃないですか!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

グレゴリオ

猥歌堂
ファンタジー
昔々遙か昔(笑)ゲームシナリオとして構想していた一編。 はっきり言って小説の体をなしていない。 まぁ、今さら書き直すだけの熱意もない。最低限の修正で(指示文とか消して)そのまま出します。 どうもアルファポリスはえろではない一品の方がお好みのよう。 当方の作にえろ無しはこれとあといくつかぐらい。 ストーリー紹介 ありきたり。リアル寄り青春ファンタジー? えろ無し。 どがちゃかのバカ騒ぎから、泣ける展開へ。出来てる?え? 何も持ってない俺だから。何一つ手の中に無い俺だから。 気合いと根性だけが俺の武器。 ……という話です。 夏真っ盛りだというのに! クリスマスの話ですよ。 まあ、暑気払いに。 オープニングから読み始めて下さい。ゲームシナリオですから。 そのあと三編に分岐します。そこからはお好みで。順次、掲載していきます。 バッドエンドパターンもありますが、併記するか、削除いたします。一応、トゥルーエンドのみを本筋として作劇いたしておきます。 御気に召すかどうか、はなはだ自信はございません。 いんちきゲームブック的にお楽しみいただけたら幸いです。

ちょっっっっっと早かった!〜婚約破棄されたらリアクションは慎重に!〜

オリハルコン陸
ファンタジー
王子から婚約破棄を告げられた令嬢。 ちょっっっっっと反応をミスってしまい……

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

処理中です...