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第一話 混乱

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 げほっ……ごほっ……

「お嬢様!」

 ……ん?

「い、今水を持って参ります!」

 侍女さん慌て過ぎ……って転びましたよ?いや、それよりも今の状況を冷静に整理しないと。

 私はリュミエール王国宰相家のシュトラール家の長女アルフィア、12歳です。両親とお兄様がいます。宰相家といっても影の護衛も出来るように育てられます。訓練は鬼畜以外の何者でもありません。ちなみに婚約者はいません。魔力のせいなどがあるらしく忌避されるらしいです……。分かりますけど……けど!酷いと思いませんか?いやいや、それよりも転生者だということが分かりました……。小説でよくあるパターンですよね……これ……。ま、チートはありませんし、転生者であるということをひけらかすつもりも全くありませんが。……え?理由ですか?面倒だということ……ただそれだけですね。色々厄介事にこれ以上首を突っ込むのは勘弁して頂きたいので……。あ……やっと思い出しました。昨日、夜会に行ってショックで倒れたんでした。成る程……だから頭が痛いんですね。昨日改めて思いましたが……あの馬鹿王子共は尊敬にも値しない程に愚かになりましたね。頭がお花畑にでもなっていそうな男爵令嬢に誑かされて私の友人に婚約破棄を突きつけた上に貶めるなんて有り得ません。王子としてだけではなく殿方としても有り得ません。そんな方を尊敬するわけないです。まあ、余程のことがない限りそんなことは口にしませんが。って……ん?あぁ……侍女さんが帰って来たんですね。

「お嬢様!お水です!」

 侍女のフィーネから水を受け取り、急いで飲みました。早くお礼も言いたいですからね。

「ありがとう。フィーネ。」
「はい!」

 私の侍女健気で可愛くないですか?この子が誰かに求婚されるなんてことがあった際には、その相手に『私を倒してから言え』と言いたくなるくらいです……。本当ですからね!

 外が騒がしいですね……?
  ドタドタバタンッ!

「「「フィア!」」」
「あ、お父様。お母様。お兄様。」
「体はどう?私達も勿論心配してたし、ティーナちゃんも心配してくれてたのよ?」

 ティーナとはあの婚約破棄された友人のことです。ティーナも辛いはずなのに私の心配もしてくれるなんて……!今度あの子の好きな物をサプライズプレゼントするしかありませんね。何を作るか考えておかないと。ってこれを考えるのは後ですよ、私!お母様が益々心配になさってしまいます!

「もう大丈夫ですからご安心下さい、お母様。」
「貴女は昔から我慢してしまう子だから心配しているのですよ……。」

 お母様に困った顔をされてしまった……そんなつもりなんて全くなかったのですが……。

「……それは、申し訳ありません。」
「カリーナは怒ってはないよ。だが、フィアも無理は禁物だ。お前は体が弱いんだ。昔よりは魔力も安定して改善はしているが……心配してしまうんだ。分かってくれ。」

 そう言いながら私の頭を撫でてくれました。体が丈夫ではないのは本当に申し訳ない限りです。

「僕なんて学園まで休んだんだから……治るまでフィアの側にいるからね。」

 ええぇぇぇ……嘘ですよね……誰か嘘って言って下さい……。お兄様がこんなことを言った時は私の部屋に居座る時ではありませんか……!

「お兄様は頭がいいからそんなに簡単に休めるのですね……。」
「フィアも全く人のこと言えないからね……。」

 え……嘘ですよね?私はただの普通の公爵令嬢なはずですよ?

「さ、フィア。安心して取り敢えず寝なさい。これから忙しくなりますからね。」
「はい、お母様。」
「母上。フィアと話したいことがあるので時間を下さい。」

 あら、お母様とお兄様の間で火花が散っていますね。怖すぎますよ……まあいつも通りですが……

「はあ……分かったわ……ほら、アインハルト様。ぼーっとしてないで、戻りますわよ。」
「え、え?あ、あぁ。」」

 お母様に振り回されるお父様が不憫で仕方ありません……。

   ◇

「フィア、早く話そうか。君たちは外に出ていてくれるかい。」
「「はい。畏まりました、オリヴァー様。」」

 そう言って侍女達は出て行った。

「それで、お話とはなんですか。」
「フィア。あんなことがあって君はどう思ったのかな……?」

 あんなこととは婚約破棄騒動のことでしょうか。

「例え従兄弟でも虫唾が走ります。あとは……王妃である叔母様が教育に関わらなかっただけでこんなに王族でも違いが出るとはと思いました……。」

 王女であるサーヴィ様はとても良い王族ですが……比べるまでもない程の違いですね。

「相変わらず口が良くないよ?よく社交界で隠し通せるな……と逆に感心してしまうよ。」
「人聞きが悪いです、お兄様。」
「ああ、いやごめんフィア。さて本題に戻ろうか……。フィアの仕事はもうなくなったけど、これからどうするつもり?」

 私の仕事はティーナの護衛でした。宰相家の娘である上にティーナの友人なので都合が良かったのでしょうね。そんな理由が私が護衛になる理由になるのでしょうか。私的にはすごく気に食わないのですが、ね……。まあその話は置いておいて……これからですか……。護衛という面倒な立場はもう嫌ですし……なにもしたくないのが正直なところです。ま、元々そう思っていたのですが。

「分かりませんが、王子の側近は回避したいので根回しはしたのですが……駄目でしたか?」
「え……いつの間に?僕の妹が怖いんだけど……。」
「お兄様は相変わらず酷いですね。……流石は氷の王子様ですね。」
「その呼び方だけは本当に勘弁してくれ……主に僕の心が傷つくから……。」

 あ、落ち込んでしまいました……。お兄様がこの呼び方を嫌いな原因は御令嬢達ですけどね。いや、あの時は本当に面白かったです。……ってそんな話が出来る状況ではなかったですね。

「お兄様はどうしたら良いと思いますか?」
「護衛の話だって最初は断ったのに無理矢理やらされたことだから、次何か言われたときに回避出来るように叔母様と綿密に計画を練っているらしい。母上がそのように言っていたんだよ……。」
「え?叔母様も協力しているのですか?王族になっているのに、ですか?」

 普通なら有り得ないことなのですが……そこまでする何かがあったのでしょうか……。

「あーそれは……だな……。実は……叔母様も婚約破棄の件に関しては相当怒っているそうで、元々フィアが無理矢理護衛をやらされた件で鬱憤が溜まっていたところに婚約破棄騒動だから、『いい気味よ!』とか言って楽しんで計画を立てているらしい。流石としか言い様が無いというか……叔母様らしいというか……」

 何てことをしているのですか……叔母様!これはやばいですよ!主に陛下が!

「今更どうしようも……?」
「ない」

 あ、陛下終わりましたね……。何故お母様も叔母様もそんなに気が強いのですか……姉妹だからってそこは似ないで頂きたかったです、と心の底から思いますよ……本当に。お父様も陛下も不憫です。惚れてしまったのが運の尽きです。
 パタパタパタ……

「オリヴァー様!フィア様!あ、あの……し、失礼……致します!」
「どうかしたんだい?」

 侍女長……?慌て過ぎですし、顔が真っ青ですよ?何があったんです?

「お、王妃様が……応接間でお待ちです!オリヴァー様とフィア様を……お呼びするように、と仰せになっておられますので……お急ぎ下さい!」
「は、はああ?」
「え、はい?」

 う、嘘でしょ……屋敷まで来るとか、そんなことあるものなんですか……?
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