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勇者任命即反逆

1.旅立ちは爆発だ

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 オレは何か知らん間にこの世界へ召喚された。召喚された場所はいかにもって感じの床へ魔法陣が書いてある地下室だった。その後、水浴びと着替えと食事を済ませられた後に、一週間ほど異世界被渡航者管理局と云う施設にて適正試験を受ける事になった。ここはゲームの世界なのか、それとも、ドッキリ系なのか。そんな疑問を持っていたのだが、適性試験を受けた際に、係員の人から魔法の使い方を教えてもらって、それで適当に使ってみたら、炎も、氷も、風も、雷も、パーティークラッカーも、こけし人形も、手の中から出す事が出来たので、本当の異世界らしいと思うしか無かった。

 ちなみに、オレが魔法でこけし人形を召喚した時には、白いローブ姿の係員である若い女の人がめっちゃ驚いて、

「すごい、貴方の勇者能力はチート級ですよ!!!」

 と、ほめちぎってくれたのだが、普通、チートって、世界最強とか、そういう能力を指すのでは? こけし人形を出してチート認定を受けると経歴詐称で訴えられるのでは? だが、その係員さんの話によると、

「だって、要するに、貴方はレベル1な訳でしょう。初期パラメーターですでに召喚魔法まで使えるなんて、もしレベルが上がったらどうなるのか考えるだけでもドキドキしますよ!!!」

 と、云う事らしい。何だろう、この、幼児がクレヨンで落書きしたら親から天才だとほめられた程度のノリの軽さは……、と、オレはこけしの頭をなでつつ思ったものだ。

 まあ、要するに、オレは特に訓練を受けなくても軽率に攻撃魔法や召喚魔法が使えるらしい。そして、異様にいろんなものを呼び出せる。ただし、元いた世界に存在しないものは呼び出せない。だから、ドラゴンとか天使とかは無理だ。あと、金銀財宝はダメらしい。金塊を呼ぼうとしたら即座にミイラ化してぶっ倒れた。係員のお姉さんが云う事には、

「あなたのチート魔法はかなり特殊です。派手さはありませんが、確実にこの世界の法則を変えてしまえるような、けた外れの自由さを感じます。その能力、どうか上手に育ててください」

 そう云われてもなあ。ともあれ、適性試験の後に約一ヶ月の慌《あわただ》しい事前訓練が終わった後、オレは正式な勇者として認定され、ライセンスを発行された。その後、西洋風のお城の事務室みたいな部屋にて、黒いローブを着た係員のお兄さんに勇者の使命とかなんとかを吹き込まれ、旅の装備とクソ少ない金貨とかを渡された上で、王様と謁見している。まー、オッサンゲーマーが想像する典型的な勇者の旅立ちって奴だ。途中経過は生々しいが現実の話だから仕方が無い。

 さて、ここは王宮だ。謁見の間だ。風景としては、ナポレオンとか、そういう皇帝とかが使ってそうなロココな感じだ。ロココとかよく知らんけど、黄金のふわっとした飾りとか、赤いじゅうたんとか、そういうのがなんとなくロココって感じだ。その部屋の奥にある玉座へ座っているのが、だいぶ丸い体形をしていて、贅沢《ぜいたく》な赤いローブを着て黄金の王冠をかぶった金髪のオッサンだ。まあ、王さまだわな。そいつが、

「勇者よ、魔王を倒してまいれ!!!」

 って、云うから、オレは、この時が来る事を予想して、あらかじめ練りに練っておいた返答を全力で叫んだ。

「じゃあとりあえず部下として兵隊を八千人ください!!!」

 すると、王さまは沈黙。その後、オレは、さらに、

「あと、兵隊八千人を養《やしな》えるだけの補給物資を継続的に提供してください!!!」

 と、叫んだ。ついでに、

「なお、兵隊八千人の中には幕僚《ばくりょう》と士官および下士官の教育過程を修了した者を含む事とする。また、輜重隊《しちょうたい》(軍需品を運ぶ部隊)の人員は別枠とする。以上!!!!」

 すると、王さまは乾いた笑いを上げた後、

「それがないから勇者に頼ってんの分かって!!!!!」

 と、超なみだを流しつつ叫んできた。限界女子みたいな反応止めて。まあ、どうせそんなこったろうと思ってましたよ。てか、どのみち、一個師団程度で魔王軍が倒せるとは思えん。オレは大きくため息を付くと、魔法でタバコっぽい物を召喚して魔法で着火して吸い始める。すると、王さまが、

「ここ禁煙だから!!!! 分かって!!!!」

 と、キレてきた。そういうところだけはマトモなのか。だが、オレは、タバコっぽい物を見せると、

「これ、何の葉で出来ているか分かります? カボチャの葉っぱです。つまり、これは体に悪いタバコじゃないです」

 と云ったんで、王さま、ポカーンとして、

「なんでカボチャ??? マジイミフなんですけど」

 って云ってきた。だから、オレは、カボチャの煙をふかしつつ、

「じゃあ、お兄さん……、カボチャの謎を解くために、オレがここへ勇者として召喚されてくる前に住んどった国の話、しよか?」

 と、シブく云ってやった。すると、王さま、

「いや、そういうオジサンの話は長くなってウザいんで止めて」

 と、云われました。オレは、

「おんしゃ、ギャルかよ!!!! 話さんと話し進まんがじゃ!!! とりあえず聞け!!!! カボチャの話を!!!!」

 と、キレましたよね。すると、王さまは白けた顔になって、

「あーーーキレる大人サイテーーーー」

 とか云って、ふてくされてサイドテーブルのマンゴーパフェを食べはじめた。
 なんだよコイツ。オレもそれ食いてえよ。

 まあ、それはともかく、オレはカボチャの煙をふかしつつ語り部になる。

「昔、オレん国は戦争しちょった。じゃけん、兵隊さんに食わすもんがないから、カボチャばっかり作ってのう。そんで、みんな、カボチャ食うのうんざりしとったし、他には食うものは無いし、居るのは砂漠みたいな所じゃけえ、娯楽もない。んで、困った兵隊さんが作ったんが、このカボチャのタバコよ。クッソまずい。こんなもんで気晴らしせんといかんくらいに食料も物資も無かった。この時点で戦争に勝てる気せんわな。戦う前から負けとる」

 そう云って、オレはカボチャのタバコをポイ捨てしてふみにじる。

「王さま、あんた、背中がしょぼくれちょるのう。魔王を倒すのにたった八千人の兵隊を用意できんってどういうこった。戦争やるのに一番大切なのは何じゃ? 食いもんじゃ!!!!! このパフェ野郎!!!! たった八千人の飯も食わせられんで、なにが王さまじゃ!!! なにが討伐じゃ!!! あほんだら!!!!」

 オレは光魔法を使って玉座を爆発させた。王様はケツを焼かれてひっくり返る。その後、オレは壊れた玉座へ近寄り、その残骸《ざんがい》を蹴り飛ばし、王様へ凄む。

「魔王の軍勢は少なくとも十個軍団、つまり、二十万の魔物を率いておるっちゅうことやないか。しかも、魔王の領内には農耕も工業も商業活動もインフラも全部整ってるって話だ。それに引き換え、この国はなんじゃ。異世界からの傭兵《ようへい》を勇者なんぞと呼びおって、一人一人をちぎって捨てるみたいにおだてて戦地へ送り込んでおるとは、末期戦もええ所やないか。お前らさっさと魔王軍へ降伏せい。そうした方がのうのうと生き延びて平和をむさぼれるかもしれんぞ。平和はありがたいもんじゃのう。勇者なんか居らんほうが平和を買うには都合が良い」

 俺は呆然としている感じの家臣サマたちへ背を向ける。

「じゃあな。せっかく異世界へ勇者として遊びに来たんじゃ。この王国が魔王軍に攻め込まれるまでは観光気分でのんびり生活させてもらいましょ」

 こうして、勇者オレは堂々と旅立ちの城から出発したのだった。ゲームで例えるなら、たぶんレベル1くらいだが、使える呪文の欄《らん》がバグっていて???とか×△〇みたいな文字が並んでいるだろう。つまり、正体不明だ。まあ、異世界生活を楽しみつつ、どんなチート魔法が使えるのかぼちぼち探っていきましょうかね。
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