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冒頭試し読み
SAVE・4 峡谷の砦(3) ~トゥルガン
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「さて、こっち側からぐるっと案内してやろう」
隊長自ら、この砦をざっと案内してくれることになった。
二階建ての砦は、吹き抜けのホールを真ん中にして北と南に細長く伸びた作りだ。さっきまでいた呪術師クドラトさんの部屋が、南翼二階。この階には、呪術に関する資料室やダラから得た資料の保管庫など、とにかく呪術に関するものが揃っている。その下の南翼一階は、食事や打ち合わせに使う部屋、厨房、それに住み込みの料理人さんの部屋とナフィーサさんの部屋。
ホールを挟んで反対側、北翼一階は洗濯室や浴室などの水回り系。浴室には小さな浴槽があって、薪で焚けるようになっており、そこからお湯を汲んで使う感じ。二階はザファル隊長の部屋と隊長室、武器庫、呪い石の保管庫がある。
ていうか、部隊のメンバーってこれで全部なんだ? 少なっ。ゲームで言ったら、パーティひとつ分じゃん。
「仕事が仕事だから、なかなかいい人材が見つからなくてなー。さて、お前の部屋をどこにするか。ダラが廃墟になる前は、この砦に一個小隊がまるまる駐屯してたから、部屋数だけは多いんだけどな」
北翼二階でザファルさんはそう言って、おお、と一つうなずくと私の頭を軽くポンと叩いた。
「そうだ、内鍵が壊れてない部屋をチヤが好きに選んで使え。決まったら言いに来い、それまでに寝具を用意させとくから」
なんつーアバウトな。
それにしても、大柄で鷹揚な雰囲気の隊長と、今はチビで片言の私……ひょいひょい担ぎ上げ(抱っこ?)もするし、なんだか上官と部下というより、端から見ると親子みたいに見えそう。そういや隊長、結婚とかしてるのかな?
そんなことを思いながら、いったん屋上に出て南翼に向かった。
隊長の後を小走りについていきながら、雄大な景色を眺める。陽が傾き、空の端が茜色に染まり始めていた。峡谷は暗くなるのも早いだろう、と腰の高さの壁越しにのぞき込むと、不思議なことに廃墟の都市はぼんやりと明るい。
「あかり……」
「ああ、あの塔、見えるか」
ザファルさんが壁に近寄り、指さす。谷の向こう側の岩棚にある、六角形の塔だ。そのあたりを中心に、明るさが広がっている。
「ここからは見えにくいが、表面に呪い文字がびっしり彫ってある。あの塔が太陽の光を記憶して、暗くなってもしばらくは峡谷を照らすんだ。『巨人のランタン』と呼ばれてる」
本当だ、手にぶら下げて持つランタンみたい……ちょっと、近くで見てみたいな。
そんなことを思いながら、私は壁を離れた。
南翼の階段を一階に降りる途中で、カーン、カーン、という高い鐘の音がした。あ、もしかして、玄関ホールにあった小さな鐘つき堂の鐘かな。
「夕食の合図だ。打ち合わせを兼ねて、だいたい全員で食う」
説明してくれる隊長と一緒に、南翼一階の食堂に行く。
八人掛けの木のテーブルと椅子がある食堂は、壁にダラの断面図らしき紙が貼られていた。端っこの席に座って待っていると、すぐにナフィーサさんが入ってきてニッと笑い手を振った。さらに少しして、黒いローブ姿のクドラトさんがしずしずと。
そして……
「はい、お待たせ……って、あれ!?」
明るい男性の声がした。
大きなお盆を持って入ってきたのは、三十代半ばくらいの真面目そうな男性だ。腕まくりして、エプロンをしている。
「ナフィーサ、女の子ってドストラーじゃないか! それならもっと、食べやすいもの用意したのに」
長い枯れ草色の髪を一つに結んだ彼は、ポンポンと言いながら盆をテーブルに置いた。盆にはどんぶりが四つ……
おおお! 汁麺だー!
どんぶりには白濁したスープが湯気を立て、黄味がかった太い麺が沈んでいる。上に載っている何かの肉は脂がまた絶妙な量で、そこへしゃきっとした生の香草がてんこ盛り。もう、匂いで分かる。これは美味しい、と。
「ちょっと待ってて、他に何か」
戻ろうとするその男性を、私は急いで呼び止めた。
「あ、だいじょぶですっ」
そして、テーブルに立ててあった箸を手に取り、持って見せた。
この国の人々はスプーンとフォーク、そして金属の長い箸を使う。手が動物そのもののタイプのドストラーには使えないので気にしてくれたんだろうけど、私は手の形が人間に近いので平気なのだ。子どもみたいな持ち方になるけどね。
男性は「お、指長いんだな」と目を見開いてから、大きな口でにっこり笑った。
「もし食べにくかったら言ってくれな。俺はトゥルガン、ここの料理番」
汁麺のにおいに混じって、ちょっとだけ獣のにおい。この人もイート・ドストラーらしい。
「ありがと、です。私、チヤ」
「チヤには、砦周辺の小妖魔を担当してもらう」
隊長が補足すると、ナフィーサさんが笑った。
「良かったですねー隊長、これで呪い石を粉々にしなくて済むし」
「うるせっ」
んん? 粉々? どういう意味だろ。
そうこうしているうちに、トゥルガンさんがもう一人分のどんぶりを持ってきて机に置き、自分も座った。おお、シェフも一緒に食べるんだ?
「トゥルガンは、崩壊前に俺と一緒にダラの守護隊で働いてたから、ダラに詳しいんだ。部隊の一員だよ」
隊長の説明に、なるほど、とうなずく。部隊は五人、と。
「さて、これで一応顔合わせは済んだな。んじゃ、食うか」
ザファル隊長はあっさりと言って、箸を手に取り食べ始めた。え、もういいの? と思いつつ、私も心の中で「いただきます」と手を合わせて食べ始める。
んんん美味しい! 何の肉だろう、少し癖はあるけどとろける! スープは肉の風味と塩とでこくがあって、でも香草とスパイスでさっぱりと飲めた。麺はもちもちしていて食べ応えがあり、スープによく絡む。
私は元々、麺類が大好き。日本にいた頃はうどん・そば・ラーメン・スパゲティ、もうとにかく麺類があれば幸せだった。夏なんか、毎日素麺でも平気だった。
しかし、こちらでは麺類は庶民の食べ物なのか、バルラスさんとこみたいなお屋敷ではほとんど食べられなかったんだよ! だから嬉しい!
「口に合うといいんだけど」
トゥルガンさんの言葉に、私は顔を緩ませながら答えた。
「おいしーにゃん!」
あっ、また猫語(?)出ちゃったよ恥ずかしい……!
ザファルさんとトゥルガンさんがニカッと笑い、ナフィーサさんが「やんっムシュク可愛い!」と言い、あっ、クドラトさんまで口元が緩んでるし!
あーもう、外見は何歳であれ、自覚年齢二十五の女の語尾が「にゃん」だなんて痛々しいだけじゃん!? 一生懸命やらないようにしてるんだけど、つい出ちゃう。照れ隠しに、麺をせっせとすすった。
……それにしても、大勢で食事をするなんて、いつ以来だろう……
熱々のスープが、胃を、そしてなんだか胸の奥まで温めてくれる。私はホッとため息をついた。
食事の後で食器を下げに行き、「洗う」と言ってみたけど、トゥルガンさんが
「ここはいいよ、それより部屋を決めておいで」
と言って燭台を渡してくれた。もう砦の中は薄暗くなっている。ドストラーは夜目が利くけど、明かりは一応あった方がいい。
一人で北翼の一階に行き、洗濯室・シャワー室の奥の部屋をいくつか覗いた。鍵がかかるか確かめて、そのうちの一室を自分の部屋に決める。部屋をこのあたりにすることはさっきから何となく考えていて――というのも、このあたりは呪い石の保管庫の真下あたりなのだ。
私の仕事は、呪い石を狙って谷から上がってくる小妖魔を退治することだとか。上がってくるのは、基本的には真夜中から明け方の時間帯だけみたいだけど、この辺に陣取っていれば、それ以外の時間にも気づけるかもしれないかなって。隊長が取り逃がしたトゥクヨンは、たまたま珍しく昼間上がってきちゃったそうだ。
まだ食堂にいたザファルさんに言いに行くと、そこへちょうどトゥルガンさんが寝具を持って来てくれた。
「チヤ、これ使って」
「今日のところはもう休め。お前まだ十歳を過ぎたばかりだろ、しっかり食ってしっかり寝ないとな」
ザファル隊長、やっぱり親みたいなことを言う。
そう、私は外見年齢はそれくらい。これでも少しは大人びたんだ、こっちに来たばかりの時に鏡を見たら、七歳とか八歳くらいに見えたもん。
『もっとお食べ』
『よくお眠り』
って、アルさんにも言われたっけ。
それにしても、何の手続きもしてないけどいいのか? 隊長が知ってるのって、私がチヤと名乗ったこと、未成年(年齢は見た目から判断)、ウルマンから来た(これも自己申告)、それだけじゃん。
「私、親いない。自分で何か書く、しますか? ええと、紙に書いて、よろしく?」
わかる単語で聞いてみると、隊長は笑った。
「ああ、部隊に所属する手続きな。俺が適当にやっておくわ」
それでいいのか? と驚いていると、隊長は付け加えた。
「この辺では、インギロージャで身内を失った奴が結構いる。だからヤジナでも、その辺は大ざっぱだな。特にうちみたいな特殊な部隊、入ってくれるだけでありがたいよ」
そして、また私の頭をポンと叩いた。
あっ……と、私は気づく。
もしかして、ここで働く人たちも、大事な人を失ってるんだろうか……
「浴室に湯があるから、さっぱりしてから寝るといい。ムシュクはかなりの綺麗好きなんだろ?」
トゥルガンさんの言葉が嬉しい。本物の猫はお風呂苦手だと思うけど、私は身体を舐めて綺麗にするよりお風呂がいい! もちろん! ムシュク・ドストラーも皆そうなんだろうな、やっぱり。
「鐘が鳴ったら、朝食だからな」
隊長が言い、私はうなずくと、二人に頭を下げた。
「おやすみなさい」
隊長自ら、この砦をざっと案内してくれることになった。
二階建ての砦は、吹き抜けのホールを真ん中にして北と南に細長く伸びた作りだ。さっきまでいた呪術師クドラトさんの部屋が、南翼二階。この階には、呪術に関する資料室やダラから得た資料の保管庫など、とにかく呪術に関するものが揃っている。その下の南翼一階は、食事や打ち合わせに使う部屋、厨房、それに住み込みの料理人さんの部屋とナフィーサさんの部屋。
ホールを挟んで反対側、北翼一階は洗濯室や浴室などの水回り系。浴室には小さな浴槽があって、薪で焚けるようになっており、そこからお湯を汲んで使う感じ。二階はザファル隊長の部屋と隊長室、武器庫、呪い石の保管庫がある。
ていうか、部隊のメンバーってこれで全部なんだ? 少なっ。ゲームで言ったら、パーティひとつ分じゃん。
「仕事が仕事だから、なかなかいい人材が見つからなくてなー。さて、お前の部屋をどこにするか。ダラが廃墟になる前は、この砦に一個小隊がまるまる駐屯してたから、部屋数だけは多いんだけどな」
北翼二階でザファルさんはそう言って、おお、と一つうなずくと私の頭を軽くポンと叩いた。
「そうだ、内鍵が壊れてない部屋をチヤが好きに選んで使え。決まったら言いに来い、それまでに寝具を用意させとくから」
なんつーアバウトな。
それにしても、大柄で鷹揚な雰囲気の隊長と、今はチビで片言の私……ひょいひょい担ぎ上げ(抱っこ?)もするし、なんだか上官と部下というより、端から見ると親子みたいに見えそう。そういや隊長、結婚とかしてるのかな?
そんなことを思いながら、いったん屋上に出て南翼に向かった。
隊長の後を小走りについていきながら、雄大な景色を眺める。陽が傾き、空の端が茜色に染まり始めていた。峡谷は暗くなるのも早いだろう、と腰の高さの壁越しにのぞき込むと、不思議なことに廃墟の都市はぼんやりと明るい。
「あかり……」
「ああ、あの塔、見えるか」
ザファルさんが壁に近寄り、指さす。谷の向こう側の岩棚にある、六角形の塔だ。そのあたりを中心に、明るさが広がっている。
「ここからは見えにくいが、表面に呪い文字がびっしり彫ってある。あの塔が太陽の光を記憶して、暗くなってもしばらくは峡谷を照らすんだ。『巨人のランタン』と呼ばれてる」
本当だ、手にぶら下げて持つランタンみたい……ちょっと、近くで見てみたいな。
そんなことを思いながら、私は壁を離れた。
南翼の階段を一階に降りる途中で、カーン、カーン、という高い鐘の音がした。あ、もしかして、玄関ホールにあった小さな鐘つき堂の鐘かな。
「夕食の合図だ。打ち合わせを兼ねて、だいたい全員で食う」
説明してくれる隊長と一緒に、南翼一階の食堂に行く。
八人掛けの木のテーブルと椅子がある食堂は、壁にダラの断面図らしき紙が貼られていた。端っこの席に座って待っていると、すぐにナフィーサさんが入ってきてニッと笑い手を振った。さらに少しして、黒いローブ姿のクドラトさんがしずしずと。
そして……
「はい、お待たせ……って、あれ!?」
明るい男性の声がした。
大きなお盆を持って入ってきたのは、三十代半ばくらいの真面目そうな男性だ。腕まくりして、エプロンをしている。
「ナフィーサ、女の子ってドストラーじゃないか! それならもっと、食べやすいもの用意したのに」
長い枯れ草色の髪を一つに結んだ彼は、ポンポンと言いながら盆をテーブルに置いた。盆にはどんぶりが四つ……
おおお! 汁麺だー!
どんぶりには白濁したスープが湯気を立て、黄味がかった太い麺が沈んでいる。上に載っている何かの肉は脂がまた絶妙な量で、そこへしゃきっとした生の香草がてんこ盛り。もう、匂いで分かる。これは美味しい、と。
「ちょっと待ってて、他に何か」
戻ろうとするその男性を、私は急いで呼び止めた。
「あ、だいじょぶですっ」
そして、テーブルに立ててあった箸を手に取り、持って見せた。
この国の人々はスプーンとフォーク、そして金属の長い箸を使う。手が動物そのもののタイプのドストラーには使えないので気にしてくれたんだろうけど、私は手の形が人間に近いので平気なのだ。子どもみたいな持ち方になるけどね。
男性は「お、指長いんだな」と目を見開いてから、大きな口でにっこり笑った。
「もし食べにくかったら言ってくれな。俺はトゥルガン、ここの料理番」
汁麺のにおいに混じって、ちょっとだけ獣のにおい。この人もイート・ドストラーらしい。
「ありがと、です。私、チヤ」
「チヤには、砦周辺の小妖魔を担当してもらう」
隊長が補足すると、ナフィーサさんが笑った。
「良かったですねー隊長、これで呪い石を粉々にしなくて済むし」
「うるせっ」
んん? 粉々? どういう意味だろ。
そうこうしているうちに、トゥルガンさんがもう一人分のどんぶりを持ってきて机に置き、自分も座った。おお、シェフも一緒に食べるんだ?
「トゥルガンは、崩壊前に俺と一緒にダラの守護隊で働いてたから、ダラに詳しいんだ。部隊の一員だよ」
隊長の説明に、なるほど、とうなずく。部隊は五人、と。
「さて、これで一応顔合わせは済んだな。んじゃ、食うか」
ザファル隊長はあっさりと言って、箸を手に取り食べ始めた。え、もういいの? と思いつつ、私も心の中で「いただきます」と手を合わせて食べ始める。
んんん美味しい! 何の肉だろう、少し癖はあるけどとろける! スープは肉の風味と塩とでこくがあって、でも香草とスパイスでさっぱりと飲めた。麺はもちもちしていて食べ応えがあり、スープによく絡む。
私は元々、麺類が大好き。日本にいた頃はうどん・そば・ラーメン・スパゲティ、もうとにかく麺類があれば幸せだった。夏なんか、毎日素麺でも平気だった。
しかし、こちらでは麺類は庶民の食べ物なのか、バルラスさんとこみたいなお屋敷ではほとんど食べられなかったんだよ! だから嬉しい!
「口に合うといいんだけど」
トゥルガンさんの言葉に、私は顔を緩ませながら答えた。
「おいしーにゃん!」
あっ、また猫語(?)出ちゃったよ恥ずかしい……!
ザファルさんとトゥルガンさんがニカッと笑い、ナフィーサさんが「やんっムシュク可愛い!」と言い、あっ、クドラトさんまで口元が緩んでるし!
あーもう、外見は何歳であれ、自覚年齢二十五の女の語尾が「にゃん」だなんて痛々しいだけじゃん!? 一生懸命やらないようにしてるんだけど、つい出ちゃう。照れ隠しに、麺をせっせとすすった。
……それにしても、大勢で食事をするなんて、いつ以来だろう……
熱々のスープが、胃を、そしてなんだか胸の奥まで温めてくれる。私はホッとため息をついた。
食事の後で食器を下げに行き、「洗う」と言ってみたけど、トゥルガンさんが
「ここはいいよ、それより部屋を決めておいで」
と言って燭台を渡してくれた。もう砦の中は薄暗くなっている。ドストラーは夜目が利くけど、明かりは一応あった方がいい。
一人で北翼の一階に行き、洗濯室・シャワー室の奥の部屋をいくつか覗いた。鍵がかかるか確かめて、そのうちの一室を自分の部屋に決める。部屋をこのあたりにすることはさっきから何となく考えていて――というのも、このあたりは呪い石の保管庫の真下あたりなのだ。
私の仕事は、呪い石を狙って谷から上がってくる小妖魔を退治することだとか。上がってくるのは、基本的には真夜中から明け方の時間帯だけみたいだけど、この辺に陣取っていれば、それ以外の時間にも気づけるかもしれないかなって。隊長が取り逃がしたトゥクヨンは、たまたま珍しく昼間上がってきちゃったそうだ。
まだ食堂にいたザファルさんに言いに行くと、そこへちょうどトゥルガンさんが寝具を持って来てくれた。
「チヤ、これ使って」
「今日のところはもう休め。お前まだ十歳を過ぎたばかりだろ、しっかり食ってしっかり寝ないとな」
ザファル隊長、やっぱり親みたいなことを言う。
そう、私は外見年齢はそれくらい。これでも少しは大人びたんだ、こっちに来たばかりの時に鏡を見たら、七歳とか八歳くらいに見えたもん。
『もっとお食べ』
『よくお眠り』
って、アルさんにも言われたっけ。
それにしても、何の手続きもしてないけどいいのか? 隊長が知ってるのって、私がチヤと名乗ったこと、未成年(年齢は見た目から判断)、ウルマンから来た(これも自己申告)、それだけじゃん。
「私、親いない。自分で何か書く、しますか? ええと、紙に書いて、よろしく?」
わかる単語で聞いてみると、隊長は笑った。
「ああ、部隊に所属する手続きな。俺が適当にやっておくわ」
それでいいのか? と驚いていると、隊長は付け加えた。
「この辺では、インギロージャで身内を失った奴が結構いる。だからヤジナでも、その辺は大ざっぱだな。特にうちみたいな特殊な部隊、入ってくれるだけでありがたいよ」
そして、また私の頭をポンと叩いた。
あっ……と、私は気づく。
もしかして、ここで働く人たちも、大事な人を失ってるんだろうか……
「浴室に湯があるから、さっぱりしてから寝るといい。ムシュクはかなりの綺麗好きなんだろ?」
トゥルガンさんの言葉が嬉しい。本物の猫はお風呂苦手だと思うけど、私は身体を舐めて綺麗にするよりお風呂がいい! もちろん! ムシュク・ドストラーも皆そうなんだろうな、やっぱり。
「鐘が鳴ったら、朝食だからな」
隊長が言い、私はうなずくと、二人に頭を下げた。
「おやすみなさい」
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