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枝分かれ恋愛編

おまけ・イディン編(拍手お礼小話)

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 世間は夏の休暇に入り、私と王子は王宮にお泊まりに来ている。
 ある日の昼下がり、ぽっかりと空いた時間に、私は一人で裏庭に散歩に来ていた。

 木陰に座り込んで本を読んでいると、いきなり目の前に飛び降りてきた小さな黒い影。それは一匹の黒猫。
 驚いたけど、見覚えのある濃いグレーの瞳……むむっ。もう間違わないからね。
「イディンさんでしょう、こんにちは」
 話しかけると黒猫はお座りをし、片手を上げてあいさつしてきた。やっぱりな。

「あのですね。私、イマイチ実感がなかったんですけど、王子様の乳母って結構えらいんですってね。だから、イディンさんが何か、ごっ強引なことをしたら、これからはビシッと対処しますからね、ビシッ! と」
 きりっとした表情を心がけ、言い渡す。

 黒猫は肩をすくめた。はぁそうですか、って感じ。
 もう、真面目に聞いてるのっ?

「今、私の目の前で、人間に戻ったりしたらダメですよ。命令です! まあ、服もないことだし、戻れないでしょうけど」
 余裕に見えるように、流し眼をくれてやる。

 するとイディンさんは、黒猫の姿のままでゆっくり近づいて来ると、
「なーぅ」
と鳴いた。くそぉ、可愛い声してるじゃないの。

 さらにイディンさんは、私の膝に上がり込んできた。
「あっ、こらっ」
 下ろそうとすると、私の指をかぷりと甘噛み。この間の仕返し!?

 彼はすぐに口を離すと、膝の上で身体をパタンと倒す。
 そして……顔を隠すように前足をクロスし、後ろ足はピーンと伸ばしてのびをして、くるりと丸くなったのだ。

「かっ……可愛……くぅっ! 私をネコ派と知っての狼藉か!」
 手のやり場もなくおののいていると、黒猫はちらりと目を開け、どうだ、と言わんばかりに前足の隙間からこちらを見た。

「……やっぱりイディンさんには勝てない……」
 私は観念して、黒猫のあご下だの小さな額だの背中だのを撫でくりまわし、肉球をぷにぷにし、濡れた鼻をちょんちょんしたのだった。

 この逢瀬は、私が王宮に来るたびに重ねられている。

◇  ◇  ◇

イディン「ふふふ……最初からこうしていれば良かったものを。ピュウ(猫)の生態を研究しつくした甲斐があった」
エンディ「(星心術師って、基本、研究バカだよな)」
イディン「こうやって徐々に警戒を解き……最終的にはベッドに入れてもらってニャンニャンされ!」
エンディ「(「され」るんだ……どうなりたいんだ結局)」
イディン「あわよくば…ふふふ、またコーメから噛んでもらう!」
エンディ「(Mか。Mだったのかお前)」

【イディン編おしまい】
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