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番外編_ルカ編2
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最後の自由を楽しんだ、一日の終わり。
ルカ王子は、清々しい顔をしていた。
その表情に、辛さとかは無かった。
「ずっと、ずっとね、本当は、行きたい場所があるんだ。だけど、行けない。」
ルカは、夕焼けを見ながら遠い過去を思い出していた。
ダイアナは、口を開きかけて、やっぱりやめた。
ルカ王子は、遠い目をしていて、ダイアナが側にいるのを忘れているような気がした。
「もう、殆ど覚えていないけど、断片的に、思い出すんだ。」
ルカは目を閉じる。そして続けた。
「青い空。透き通る青い海。真っ白い砂浜。それから、楽しそうな人たちの声。旅の楽師たちの音楽。みんなが、代わる代わる抱きしめて、笑いかけてくれる。」
目を閉じたまま、ルカは微笑む。
「夕焼けを背に、母上と手を繋いで歩く海辺の街。」
ルカは目を、うっすらと開いた。そして言う。
「それしか・・・覚えていない。」
夕日の中、吐露していく彼を見守る。はじめて聞く、彼の心に、耳を傾ける。いつも明るくて、強くて、優しい兄のような人が、はじめて見せた、せつなそうな表情だった。
「それしか、覚えていないのに、無性に、懐かしくて、恋しく思う時があるんだ。」
ダイアナは、ふと思った。
ルカ王子は、第一王子で、もうすぐ皇太子になり、いずれは王になる身だ。おそらく、出会う人間の全てから、期待や思惑のある目で見られてるのだろう。常に人に監視され、常に気を配り、人の思惑を考察し、常に気を張っていなければならないんだ。
そこから、時々は抜け出したいと思うのは、至極当然のことだったんだ。
そして、何より。
何よりも、彼は・・・。
「それは、ルカ王子の産まれた故郷ですか?」
ダイアナの言葉に、ルカは振り向いて微笑む。
「うん。この国に来る前の、幼かった頃の記憶だと思う。」
「ルカ王子は、神の世界に帰りたいのですか?」
「・・・・ん?・・・え?」
ダイアナの言葉に、ルカは戸惑う。
「ルカ王子が産まれた、神の世界は、それは綺麗だし楽園だったんだと思います!でも、神の世界に帰るなんて、お父様にお願いしても、難しいですよね。」
「・・・??・・・えーと、ダイアナ?」
ルカは、必死に、ダイアナの思考回路を探った。いや、ちょっと、何言ってるのかな?と困惑した。そして、なんとなく察した。
「もしかして君・・・女神だった母上が、天上界である神の世界で、俺を産んだと信じている??」
ルカの言葉に、ダイアナは目をパチクリさせる。
「??違うんですか?」
ぶはっ!!と、ルカは笑った。
ケタケタと笑いが止まらないらしくて、ベンチから転げ落ちそうなほどに笑う。
「え?なんで笑うんですか?違うの?だってだって、ばあやも言ってたし、お母様もそう言ってたわ。他のみんなだって!!」
ダイアナが恥ずかしそうに、弁明すると、ルカはヒーヒー笑いながら言う。
「いや、そうだね。そうだった。でも、でもさ、ダイアナ。ぷぷ!それじゃぁ、俺が、半分人間じゃないみたいじゃないか。君は、俺をどう思っていたの。」
ダイアナは、何が本当なのか、分からなくなった。
彼から溢れる神々しさは、まるで他の人とは比べ物にならないし、人間ではないようにさえ思えた。彼の悪戯は、“天使の悪戯”のようにしか思えなかった。ルカから香る爽やかな香りは、他の男の子とは、そもそもが違うからだと思っていた。半分人間じゃなくても、天使でも何でもいい。そのくらい、ダイアナは恋に落ちていた。
“俺を、どう思っていたの”
彼のその言葉だけが、ぐるぐると頭をまわりはじめる。
「私は、ルカ王子が好き。」
ダイアナの突然の告白に、ルカは目を見開いて、確かめるように彼女を見た。
「私は、ルカ王子が大好き。神様でも人間じゃなくても、何者でもいい!」
そう叫んで、ダイアナはルカに抱きついた。
なんだかよく分からないけれど、ルカ王子が大好きなことに変わりが無かった。この2年間、会えなくて本当に寂しかった。皇太子になると聞いて、お祝いしてあげたいけど、やっぱり寂しかった。
「他の誰かを、婚約者にしたら嫌です。私が、ルカ王子のお嫁さんになる!」
ずっと一緒に居たい。ルカに抱きついたまま、ダイアナは叫んだ。
「ダイアナ・・・」
ルカは、なだめるようにダイアナの頭を撫でた。
ルカ王子は、清々しい顔をしていた。
その表情に、辛さとかは無かった。
「ずっと、ずっとね、本当は、行きたい場所があるんだ。だけど、行けない。」
ルカは、夕焼けを見ながら遠い過去を思い出していた。
ダイアナは、口を開きかけて、やっぱりやめた。
ルカ王子は、遠い目をしていて、ダイアナが側にいるのを忘れているような気がした。
「もう、殆ど覚えていないけど、断片的に、思い出すんだ。」
ルカは目を閉じる。そして続けた。
「青い空。透き通る青い海。真っ白い砂浜。それから、楽しそうな人たちの声。旅の楽師たちの音楽。みんなが、代わる代わる抱きしめて、笑いかけてくれる。」
目を閉じたまま、ルカは微笑む。
「夕焼けを背に、母上と手を繋いで歩く海辺の街。」
ルカは目を、うっすらと開いた。そして言う。
「それしか・・・覚えていない。」
夕日の中、吐露していく彼を見守る。はじめて聞く、彼の心に、耳を傾ける。いつも明るくて、強くて、優しい兄のような人が、はじめて見せた、せつなそうな表情だった。
「それしか、覚えていないのに、無性に、懐かしくて、恋しく思う時があるんだ。」
ダイアナは、ふと思った。
ルカ王子は、第一王子で、もうすぐ皇太子になり、いずれは王になる身だ。おそらく、出会う人間の全てから、期待や思惑のある目で見られてるのだろう。常に人に監視され、常に気を配り、人の思惑を考察し、常に気を張っていなければならないんだ。
そこから、時々は抜け出したいと思うのは、至極当然のことだったんだ。
そして、何より。
何よりも、彼は・・・。
「それは、ルカ王子の産まれた故郷ですか?」
ダイアナの言葉に、ルカは振り向いて微笑む。
「うん。この国に来る前の、幼かった頃の記憶だと思う。」
「ルカ王子は、神の世界に帰りたいのですか?」
「・・・・ん?・・・え?」
ダイアナの言葉に、ルカは戸惑う。
「ルカ王子が産まれた、神の世界は、それは綺麗だし楽園だったんだと思います!でも、神の世界に帰るなんて、お父様にお願いしても、難しいですよね。」
「・・・??・・・えーと、ダイアナ?」
ルカは、必死に、ダイアナの思考回路を探った。いや、ちょっと、何言ってるのかな?と困惑した。そして、なんとなく察した。
「もしかして君・・・女神だった母上が、天上界である神の世界で、俺を産んだと信じている??」
ルカの言葉に、ダイアナは目をパチクリさせる。
「??違うんですか?」
ぶはっ!!と、ルカは笑った。
ケタケタと笑いが止まらないらしくて、ベンチから転げ落ちそうなほどに笑う。
「え?なんで笑うんですか?違うの?だってだって、ばあやも言ってたし、お母様もそう言ってたわ。他のみんなだって!!」
ダイアナが恥ずかしそうに、弁明すると、ルカはヒーヒー笑いながら言う。
「いや、そうだね。そうだった。でも、でもさ、ダイアナ。ぷぷ!それじゃぁ、俺が、半分人間じゃないみたいじゃないか。君は、俺をどう思っていたの。」
ダイアナは、何が本当なのか、分からなくなった。
彼から溢れる神々しさは、まるで他の人とは比べ物にならないし、人間ではないようにさえ思えた。彼の悪戯は、“天使の悪戯”のようにしか思えなかった。ルカから香る爽やかな香りは、他の男の子とは、そもそもが違うからだと思っていた。半分人間じゃなくても、天使でも何でもいい。そのくらい、ダイアナは恋に落ちていた。
“俺を、どう思っていたの”
彼のその言葉だけが、ぐるぐると頭をまわりはじめる。
「私は、ルカ王子が好き。」
ダイアナの突然の告白に、ルカは目を見開いて、確かめるように彼女を見た。
「私は、ルカ王子が大好き。神様でも人間じゃなくても、何者でもいい!」
そう叫んで、ダイアナはルカに抱きついた。
なんだかよく分からないけれど、ルカ王子が大好きなことに変わりが無かった。この2年間、会えなくて本当に寂しかった。皇太子になると聞いて、お祝いしてあげたいけど、やっぱり寂しかった。
「他の誰かを、婚約者にしたら嫌です。私が、ルカ王子のお嫁さんになる!」
ずっと一緒に居たい。ルカに抱きついたまま、ダイアナは叫んだ。
「ダイアナ・・・」
ルカは、なだめるようにダイアナの頭を撫でた。
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