女神なんかじゃない

月野さと

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76話《最終話》ルカから見た両親 

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 結婚式での母は、美しくキラキラと輝いていた。
 頭上にはサファイヤの輝くティアラと、長いヴェール。白銀のウェディングドレスは、裾が何メートルかになる長いロングドレスで、ふんだんにレースが使われていた。
 階段を上がっていく姿は、本当に人ではない天使か女神様のように思えた。
 
 父上と母上が、見つめ合う。
 そんな姿を見て、なんだかドキドキした。
 父上の眼差しが、母上の微笑みが、2人は凄く凄く好きなんだと教えてくれる。

 そんなふうに2人が仲良くなったのは、そう、よく覚えている。父上が母上を助けに行って、帰って来た時からなんだ。

 あの朝、急に2人の雰囲気が変わって、母上に聞いたんだ。 

「母上。・・・父上が好き?」
 そう聞いたら、母上は、こぼれるように笑った。
「大好き。世界で一番好きだよ。」
 そう言われて驚く。
「え?母上は、僕が世界で1番でしょ?」
「ふふふ。そうだよルカ。あなたの父上が世界で一番好きで、あなたが生まれたの。だから、あなたは私の宝物なの。ルカも1番だよ。」
「えー?1番は1人じゃないの?1番は1つじゃないの?」
「じゃないのよ!」
 そう言って、父上の肩に頭を乗せる母に、父上がそっと顔を近づける。それに母上が気が付いて、2人は触れるだけのキスをした。本当にびっくりした。

 母が見せた、幸せそうな顔を、うっとりと、信頼しきった顔を、胸がくすぐったいような、そんな気持ちで見ていた。

 そんな母上を見て、自分が生まれた意味を知った。
 そんなに好きじゃなかった自分の髪の色も、目の色も、全部好きになれる気がした。

 なんでなんだろう?

 幸せそうな母上を見て、嬉しくて仕方なかった。母上を好きな父上が好きだと思った。
 無意識に、父上の服を握りしめる。そしたら、父上が言った。

「ルカ。おまえは、母上を守れる男になれ。」
 他のみんなは、立派な王様にと言うのに・・・父は違う事を言った。
「愛する人を守れる、強くて賢い男になれ。」

 幸せそうな母上を見て、そうしようと思った。 
 自分も、父上のようにカッコよくて強くて、大事な人を守れる、賢い王様になりたい。

 そして。
 そして、いつか、2人のような幸せな結婚をしたい。

 父上は生涯、側妃は置かずに正妃一人だった。一途に母上だけを愛していたし、王子が4人と、王女が2人の計6人の子供が生まれたので、側妃は必要無かったのもあったかもしれない。
 
 家族みんな仲良しで、和気あいあいとしていたから、他国ではあるらしい、兄妹間の争いも無かったんだ。


 数年後。 

 大人になってから解ったことがある。
 自分は、何かの為に生まれたわけじゃない。
 ただ愛されて生まれてきたことを。
 自分の存在は、2人が愛し合った証だという事。

 晩年、ポツリと母上が言った。
「ルカが居なかったら、強くなれなかった。あなたが居てくれたから、強くなれたの。あなたが居てくれるから、王妃になれた。」
 母は、立派な王妃だった。
 父が不在であっても、その立派な姿は誰もが認める女帝のようだった。
 ゴードンがよく言っていた。ここまで、成長されるとは思わなかったと。今後、2人のどちらかに何かあったとしても、この国は大丈夫だろうと。

 確かに、母上は、父上が居なくても生きていけそうだと思う程に、知識と権力で君臨しはじめた。

 だけど、知っているんだ。
 見ていればわかる。母上は一瞬だって、父上と離れていたくないこと。
 王妃の部屋があるのに、王妃になってからは母は1度も使わなかった。

 2人は、生涯、1つの部屋を一緒に使った。
 2人で1人かのように、いつも一緒に居て、 
 いつも寄り添っていた。



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