女神なんかじゃない

月野さと

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71話 ブリテンのラタ族4

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 ヒューガは、サラにお茶を差し出す。
「飲め。殺す気は無い。喉が渇いただろう?」

 サラは、首を振る。お茶を飲むような気分ではない。
「お願い、聞いて。本当に私では、何も力になれない!女神の力は、もう無いのよ。」
 怒った顔をして、ヒューガがサラの腕を掴む。
「それは、お前を抱いてから解る事だ。」
 ヒューガは、青い瓶の液体を口に含ませて、サラの口を塞ぐ。
「んん!!」
 口の中に、冷たい液体が入ってくる。
 ドサッと、ベッドに倒れこみながら抵抗すると、再び瓶の液体を口移しに飲ませてくる。
 ゴクリ・・・。息が出来なくなり、サラは何度も飲み込んでしまう。喉が焼けるような感覚で、一気に体が熱くなっていく。
「げほっ!・・・な・・・なにこれ?」
 咽ている間に、再び口に含んだ液体を、口移しで飲まされる。
「んぐっ・・・やめ・・・!」 
 ゴクン、ゴクンと飲んでしまう。 
「心配するな。ただの酒だ。」
「はぁ・・・はぁっ・・・お願い、ヒューガ、聞いて。」
 体がどんどん熱くなる。そのお酒はアルコール35度の強いものだった。お酒に慣れていないサラは、眩暈がしてくる。
 手を伸ばすと、手をギュッと握られる。
「?!」
 驚いて、彼を見る。
「・・・悪いと思ってる。」
 そのまま、組み敷かれて、少し辛そうな顔で、ヒューガは私を見下ろす。
「こんな事をしたくない!でも、俺たちが生きていく為には、こうするしかない!少しでも、痛い想いをしないようにしてやるから。抵抗するな。」
 そう言うと、彼は優しく胸を口に含んで舌で転がした。 
「・・・!!あっ、やめ、やめて・・・。」
 頭がぼうっとしてきて、体に、うまく力が入らない。
 ヒューガは恋人にするかのように、サラを愛撫した。痛くないように、と本気でそうしてくれようとしているのが解る。とはいえ、サラも必死で抗った。

 どの位、時間が経過しただろうか。
 何度も何度もお酒を飲まされながら、サラは汗だくで気が遠のいてきていた。

 ドンドンドンドン!!!
 勢いよく、扉の叩く音が響く。
「ヒューガ!!大変だ!!ウォステリアが攻めて来た!」
 ヒューガが、慌てて扉を開けると、3人が入り込んで来る。
「今、連絡があって、ウォステリアに近い所に居たジプシーたちが、ウォステリアの軍に取り押さえられた!女神を探しているらしい!やつらは、片っ端から集落を襲ってくる気だ!」
「その女を連れて、仲間たちと、もっと遠くに逃げよう。」

 ラタ族の3人の後ろから、1人の男が現れる。
「こらこら、待て待て!早まるなよ。」 
 ヒューガの家に入って来た3人の後ろから、大男が現れた。
 ドカドカと大きな足音を響かせて、部屋の中に入って来る。

「よぉ。ヒューガ。ウォステリアの女神を連れてきたんだって?」
 雪男のように大きな男が、部屋の中に入って来ると、サラを見つけた。ベッドの上でグッタリとしているサラを見ると、目を細めて真剣な顔になる。
「トゥーラン族の!セルゲイさんじゃないですか!」
 ヒューガは、大男を迎え入れる。
 大男は、部屋の中に入ると、肩や服に付いた雪を払い落とした。

 ラタ族の3人は、こそこそと話し出す。
「セルゲイ?って、確かトゥーラン族長じゃないか?」
「トゥーラン族は、ブリテンじゃ1番古い民族だよ。」

 セルゲイは、3人にはめもくれずに、ヒューガに近寄る。
「ヒューガ。おまえ、何て事をしてくれたんだ。その女をすぐさま解放しろ。ウォステリアを相手に、勝てるわけがない。下手したら、ブリテンがこの惑星から消えるぞ。」
「セルゲイさん。解ってるよ。だけど、もう・・・俺たちは、このままだと全滅なんだ。どっちにしたって同じなんだ。ラタ族は消える。俺だけでも、女神の力を手に入れられれば・・・魔獣を倒せるかもしれない!」

 セルゲイは、チラリとサラを見る。
「・・・残念だ。ヒューガ。お前は、もう少し見識のある人間だと思っていたぞ。」
 そう言うと、ジャキン!と、剣をヒューガに向ける。
「ラタ族は、今、俺の手で滅びる。お前たちの首を持って行って、ウォステリア王には自国に帰ってもらう。」

 瞬間に、ラタ族の3人が武器を出して構える。
「おまえ!!ヒューガに何をする!!」 
 そう声を上げた15歳位の男の子が、ビュン!!と、風を切る音の後に倒れた。セルゲイの一太刀で、即死だった。

 サラは上半身を起こして、その光景を見ていた。

 殺される。この子たちは、みんな、殺される。 
 そう思った瞬間に、体が動いた。

 ヒューガの前に立っていた。
 両手を広げて、ヒューガを庇うように、セルゲイの前に立ちはだかる。

「この子たちを、殺しては・・・ダメ。」
 そう言ったものの、フラフラと体が揺れる。
 そんなフラフラのサラを見て、セルゲイは言った。
「助けてやろうってのに、何故、そんなやつらを庇う?」
 フラッとして、ヒューガにぶつかる。ヒューガはサラの体を支えた。サラは必至に空気を吸い込んで言う。
「・・・まだ、子供だわ。彼らは、まだ、子供なのよ。」
 セルゲイを見上げる。彼はおそらく20~30歳という所か。多少は話が通じそうだった。
「助けて、あげたい。魔獣の恐怖から、なんとか助けてあげて・・・。」

 セルゲイは、ガハガハと笑いだす。そして言った。

「お姫様。いいか?こいつらは、ウォステリアが攻めてきたのを聞いて、魔獣の巣まで行って、魔獣をおびき出してきやがった。一角獣に乗れば、そうは追いつかれないからな。魔獣をおびき出して、どうしたと思う?ウォステリア軍が居る所まで誘導させて戦わせてんだぞ!」

 ・・・え?

 ラタ族の子が言う。
「あれで、魔獣は怒って暴れまわるはずだ!ウォステリアのやつらが、魔獣と戦ってる間に逃げるんだ!うまくいけば、魔獣がやつらを始末してくれる。」
「な・・・なんてことを!」
 サラは、ラタ族の子を睨みつける。
 ラタ族の、もう一人の男の子が言う。
「今までだって、そうしてきたんだ!ガルーダのやつらも、魔獣を暴れさせて追い出してやったんだ!」
 ・・・もはや、怒りと飽きれで、爆発しそうだった。
「そんなことをして!自分たちにも犠牲が出たんじゃないの?!」
 サラの言葉に、全員が黙る。
「もっとよく考えなさい!この先、どうやって生きていくの?だいたい、魔力を手に入れて、あなたたちは魔術を扱えるの?!そもそも、私には女神の力がもう無い!!調べも甘いのよ!!」
 頭がぐらぐらするけれど、吐きそうだけれど、言わずにはいられない。
「私を犯したいならそうすればいい!それで、強い魔力を得られるわけでもなく、ウォステリアに滅ぼされるだけだよ!!ウォステリアは、魔獣と戦って負けた事なんて1度も無い!!」
 怒鳴りつけて、みんなを見渡して、気が付く。

 あぁ、彼らはまだ20歳以下の10代なんだ。
 教養も無い、食べ物だってままならない。こんな土地で・・・。この子たちは、無知なんだ。誰も教えてくれなかった。手を差し伸べる人も無く、家族を魔獣に食べられて、今まで命からがら生き伸びてきたんだ。

 無知は、人類の敵だ。

「助けてあげるから・・」
 頭がグラグラして、気持ち悪い・・・。
「話し合いましょう?ラタ族が、どうしたらいいのか、一緒に考えてあげるから。」

 そこまで言って、サラは倒れた。


 薄れゆく意識の中で、魔術師団のみんなを思い出す。
 みんな・・・どうか無事で居て。

 誰1人、負傷者が出ていない事を祈った。


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