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60話 後宮の女
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7日後、舞踏会が行われることになった。
王室主催のパーティーは、王妃が主催者として仕切るのが慣例だったけれども、サラには知識も教養も無いので、ゴードンの家、筆頭公爵家の人間が代理として動いた。
その代わり、サラは連日マナーや、立ち居振る舞いなどの所作を叩きこまれていた。朝から裾の長い豪華なドレスを着せられて、実践練習の日々。
今朝も、テルマさんが服に合わせて、ヘアセットをして、アクセサリーを選んでいく。
「今度の舞踏会は、サラ様の存在と、ルカ王子のお披露目が目的ですよ。」
と、テルマさんが説明してくれた。
「ご正妃様と王子の存在を示すことで、後宮の解散とサラ様とルカ王子の立場を確立する事が出来ます♪」
ルンルン♪と歌でも歌いだしそうなほどに、テルマは浮かれていた。
サラは、気を引き締め治す。
ルカが父親と一緒に生活するためには、自分の立場を妃として確固たるものにしなければならないんだ。できるだけのことはしよう。
その時、トントンと、ドアを叩く音がした。
「お時間でございます。」
講師の女性が、扉の前で待っていた。サラは、スッと立ち上がる。
今日は朝から、裾の長いパーティードレスを着て、お城の大階段を優雅に歩く練習だった。
王族の部屋が並ぶ、最上階から大階段へと、移動していく。
「お妃様。視線はもう少し前!おなかの中心から前に進む様にですわ!」
大階段へたどり着く前から、歩き方の指導が入る。
「は、はい!」
「そうです。優雅にテンポよく!そうです!肩の力は抜いてください。」
なんとか、言われた通りにしてみるものの、サラの表情はオドオドとしていた。その表情を見て、先生がため息をつく。その溜息のせいで、サラはますます、引きつった顔になった。
やっと、大階段の上までたどり着く。
大階段の下から、黄色い声が響いてガヤガヤと騒がしかった。
3人の美しい女性と、その侍女達だった。
「昨日、陛下にお会いしたんですって?」
「えぇ、廊下で偶然にもお会いできましたの。少しの間でしたが、お話も出来て幸せでしたわ。」
「まぁ羨ましいわ!私も廊下で待ち伏せしてしまおうかしら♪」
「舞踏会では、陛下に踊って下さるように父にお願いしましたの。」
「まぁ!エルドール侯爵令嬢ったら、ズルイわ!」
「今や、エルドール侯爵家の勢いは、とどまるところをを知らず。あの筆頭公爵家をも撃ち落とす勢いだとか。」
そこまで聞いて、テルマさんが声を張り上げた。
「聞き捨てなりませんね!」
ハッとして全員がこちらを向く。
大階段の上から、テルマはサラの前に歩み出て言った。
「筆頭公爵家である、ハントリー公爵家を蔑む発言は控えてください!」
3人ともテルマを見て、その後ろに私が居るのを見て、睨みつけられた。
エルドール侯爵令嬢が、言う。
「ごきげんよう。テルマ・ノルマン伯爵令嬢。そちらに、いらっしゃるのは、戻ってらしたという女神様かしら?」
「ごきげんよう。エルドール侯爵令嬢。こちらは、女神様であり、次期王妃様ですわ。」
サラは、緊迫した雰囲気に2人を見守るしかできなかった。
「次期王妃様ですって?」
もう1人のご令嬢が声を上げた。
「確か、女神様はこのお城を出ていかれて、数年たちますわね。突然、王子をお連れになったとか?」
2人目の令嬢も言う。
「その王子は、本当に陛下のお子なのかしら?聞いた話では王子には教養も無く、医師も居ない厩のような小屋で出産されたとか?」
「あらやだ!それじゃ、馬と変わらないじゃない。」
テルマがキレた。
「黙りなさい!そのような発言は許されません!謝罪なさい!」
エルドール侯爵令嬢が笑う。
「ノルマン伯爵令嬢。私たちは心配しているのですわ。女神の力も無い、舞踏会1つ仕切れない、そのような女性よりも、私たちの方がよほど陛下のお役に立ちましょう?」
もう1人の令嬢も笑う。
「なんの後ろ盾も、器量も教養も無い女では、娼婦の方がマシでは?」
バシン!!
テルマは持っていた冊子を床に叩きつける。
「直ちにココから立ち去りなさい!!女神様を侮辱することは、我がノルマン伯爵家ひいては王族を軽蔑することと覚えておきなさい!」
3人は、少しだけマズイという顔をして立ち去った。
ぶつぶつと、事実を述べただけ、心配しただけ、などとほざいていた。
マナー講座の先生が、3人が居なくなったのを見て、言った。
「ノルマン伯爵令嬢。提案なのですが、お妃様の教育は人目につかない所で行いましょう。」
仕方ありませんが、そうですね。とテルマさんが頷く。
とはいっても、人と遭遇したのは初めてだった。
「テルマさんって、伯爵令嬢だったんですね。」
サラが驚いていると、マナー講座の先生が言う。
「ノルマン伯爵家は、王家の血筋なのですよ。前王の妹君がテルマ様のお母様である、ノルマン伯爵婦人なのです。王族となりますから、テルマ様の方が格上になるのです。」
ん?えーと。確か、ゴードン宰相のお父様も前王の弟君と言ってたから・・・。
「つまり、ゴードン宰相と、テルマさんは従兄妹?」
テルマさんは、冊子を床から拾い上げて答える。
「はい。サラ様の侍女にと話を持ってきたのは、ゴードン様です。」
王城で、権力を発揮できる女性で、後ろ盾となりながらも信頼のおける人間が、テルマさんだったということらしい。
「そんなことよりも!サラ様は次期王妃様なんです!陛下の隣で堂々となさってなくてはなりません!黙っていないで、何か言い返してください!!」
「え?そんなのムリムリムリ~~!私なんて、髪振り乱して食堂のお手伝いしかしたこと無いんですよ?むしろ、言ってることは、正しいなとか思って聞き入ってしまったくらいで・・・。」
テルマは、サラの様子を見て、やはり時期早々だったと焦る。
以前のサラ様の方が、立場をわきまえていない分、物おじせずに堂々としておられた。しかし、記憶を無くされて、街で生活されていたせいなのか、すっかり庶民になってしまっているのだ。
「とりあえず!ホールに向かいましょう。ダンス練習にします。」
テルマが案内を始める。
サラは、とてつもなく落ち込んでいた。
あの3人の令嬢に言われた言葉が、胸に刺さって抜けない。
本当にこのままここに居て良いのか。頑張ってどうにかなることなのか。
何もかもムリな気がした。
王室主催のパーティーは、王妃が主催者として仕切るのが慣例だったけれども、サラには知識も教養も無いので、ゴードンの家、筆頭公爵家の人間が代理として動いた。
その代わり、サラは連日マナーや、立ち居振る舞いなどの所作を叩きこまれていた。朝から裾の長い豪華なドレスを着せられて、実践練習の日々。
今朝も、テルマさんが服に合わせて、ヘアセットをして、アクセサリーを選んでいく。
「今度の舞踏会は、サラ様の存在と、ルカ王子のお披露目が目的ですよ。」
と、テルマさんが説明してくれた。
「ご正妃様と王子の存在を示すことで、後宮の解散とサラ様とルカ王子の立場を確立する事が出来ます♪」
ルンルン♪と歌でも歌いだしそうなほどに、テルマは浮かれていた。
サラは、気を引き締め治す。
ルカが父親と一緒に生活するためには、自分の立場を妃として確固たるものにしなければならないんだ。できるだけのことはしよう。
その時、トントンと、ドアを叩く音がした。
「お時間でございます。」
講師の女性が、扉の前で待っていた。サラは、スッと立ち上がる。
今日は朝から、裾の長いパーティードレスを着て、お城の大階段を優雅に歩く練習だった。
王族の部屋が並ぶ、最上階から大階段へと、移動していく。
「お妃様。視線はもう少し前!おなかの中心から前に進む様にですわ!」
大階段へたどり着く前から、歩き方の指導が入る。
「は、はい!」
「そうです。優雅にテンポよく!そうです!肩の力は抜いてください。」
なんとか、言われた通りにしてみるものの、サラの表情はオドオドとしていた。その表情を見て、先生がため息をつく。その溜息のせいで、サラはますます、引きつった顔になった。
やっと、大階段の上までたどり着く。
大階段の下から、黄色い声が響いてガヤガヤと騒がしかった。
3人の美しい女性と、その侍女達だった。
「昨日、陛下にお会いしたんですって?」
「えぇ、廊下で偶然にもお会いできましたの。少しの間でしたが、お話も出来て幸せでしたわ。」
「まぁ羨ましいわ!私も廊下で待ち伏せしてしまおうかしら♪」
「舞踏会では、陛下に踊って下さるように父にお願いしましたの。」
「まぁ!エルドール侯爵令嬢ったら、ズルイわ!」
「今や、エルドール侯爵家の勢いは、とどまるところをを知らず。あの筆頭公爵家をも撃ち落とす勢いだとか。」
そこまで聞いて、テルマさんが声を張り上げた。
「聞き捨てなりませんね!」
ハッとして全員がこちらを向く。
大階段の上から、テルマはサラの前に歩み出て言った。
「筆頭公爵家である、ハントリー公爵家を蔑む発言は控えてください!」
3人ともテルマを見て、その後ろに私が居るのを見て、睨みつけられた。
エルドール侯爵令嬢が、言う。
「ごきげんよう。テルマ・ノルマン伯爵令嬢。そちらに、いらっしゃるのは、戻ってらしたという女神様かしら?」
「ごきげんよう。エルドール侯爵令嬢。こちらは、女神様であり、次期王妃様ですわ。」
サラは、緊迫した雰囲気に2人を見守るしかできなかった。
「次期王妃様ですって?」
もう1人のご令嬢が声を上げた。
「確か、女神様はこのお城を出ていかれて、数年たちますわね。突然、王子をお連れになったとか?」
2人目の令嬢も言う。
「その王子は、本当に陛下のお子なのかしら?聞いた話では王子には教養も無く、医師も居ない厩のような小屋で出産されたとか?」
「あらやだ!それじゃ、馬と変わらないじゃない。」
テルマがキレた。
「黙りなさい!そのような発言は許されません!謝罪なさい!」
エルドール侯爵令嬢が笑う。
「ノルマン伯爵令嬢。私たちは心配しているのですわ。女神の力も無い、舞踏会1つ仕切れない、そのような女性よりも、私たちの方がよほど陛下のお役に立ちましょう?」
もう1人の令嬢も笑う。
「なんの後ろ盾も、器量も教養も無い女では、娼婦の方がマシでは?」
バシン!!
テルマは持っていた冊子を床に叩きつける。
「直ちにココから立ち去りなさい!!女神様を侮辱することは、我がノルマン伯爵家ひいては王族を軽蔑することと覚えておきなさい!」
3人は、少しだけマズイという顔をして立ち去った。
ぶつぶつと、事実を述べただけ、心配しただけ、などとほざいていた。
マナー講座の先生が、3人が居なくなったのを見て、言った。
「ノルマン伯爵令嬢。提案なのですが、お妃様の教育は人目につかない所で行いましょう。」
仕方ありませんが、そうですね。とテルマさんが頷く。
とはいっても、人と遭遇したのは初めてだった。
「テルマさんって、伯爵令嬢だったんですね。」
サラが驚いていると、マナー講座の先生が言う。
「ノルマン伯爵家は、王家の血筋なのですよ。前王の妹君がテルマ様のお母様である、ノルマン伯爵婦人なのです。王族となりますから、テルマ様の方が格上になるのです。」
ん?えーと。確か、ゴードン宰相のお父様も前王の弟君と言ってたから・・・。
「つまり、ゴードン宰相と、テルマさんは従兄妹?」
テルマさんは、冊子を床から拾い上げて答える。
「はい。サラ様の侍女にと話を持ってきたのは、ゴードン様です。」
王城で、権力を発揮できる女性で、後ろ盾となりながらも信頼のおける人間が、テルマさんだったということらしい。
「そんなことよりも!サラ様は次期王妃様なんです!陛下の隣で堂々となさってなくてはなりません!黙っていないで、何か言い返してください!!」
「え?そんなのムリムリムリ~~!私なんて、髪振り乱して食堂のお手伝いしかしたこと無いんですよ?むしろ、言ってることは、正しいなとか思って聞き入ってしまったくらいで・・・。」
テルマは、サラの様子を見て、やはり時期早々だったと焦る。
以前のサラ様の方が、立場をわきまえていない分、物おじせずに堂々としておられた。しかし、記憶を無くされて、街で生活されていたせいなのか、すっかり庶民になってしまっているのだ。
「とりあえず!ホールに向かいましょう。ダンス練習にします。」
テルマが案内を始める。
サラは、とてつもなく落ち込んでいた。
あの3人の令嬢に言われた言葉が、胸に刺さって抜けない。
本当にこのままここに居て良いのか。頑張ってどうにかなることなのか。
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