女神なんかじゃない

月野さと

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40話 王との取引

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 ガルーダ王の居る部屋の前。
 クリスと数名の騎士達。アモン騎士団長と私は足を止めて、視線を交わす。
 準備は良い?と目で合図すると、アモン騎士団長が頷いた。

 部屋の前を警備していた騎士が、アモン騎士団長に敬礼する。

 ノックをして入室した。
 そこには、数名のガルーダの兵士達と王が、寛いでいた。

「よくいらっしゃいましたな。」
 ガルーダ王が、無表情のまま言う。

 アモン騎士団長と私は、一緒に入室する。ウォステリアの騎士たちは、サラを守るように広がりながら配置につく。
 サラは正面のソファに座って、王を真っすぐに見て、深呼吸する。
「お時間を頂き、ありがとうございます。先ほどお話させて頂いた、真珠と指輪の交換について、前向きにお話させて頂きたいのです。ただ、その前に、教えてほしいことがあります。」
 ガルーダ王は黙ったままだった。サラは続ける。
「あなたは、ウォステリア国と、今後も戦う気ですか?なぜ戦争を?」
 ガルーダ王は、笑いだす。
「何を言うかと思えば、女神様は本気で世界の平和をお望みか!」
 その笑い声は、完全にバカにしている感じだ。
 ・・・世界平和なんて言葉は、稚拙な感じさえするけれど。それを切実に願っている人がいる。
「はい!この地上の平和を本気で望んでます!何かおかしいですか?」
 質問に、サラは胸を張って言い切った。

 その姿を見て、ガルーダ王も笑うのをやめる。
 そして、憎らしそうに視線をこっちに向けて来る。

「今までさんざん侵略し、奪ってきたのはウォステリアの方だ。」
 歴史上では、どちらが最初なのか分からないほど、お互いに侵略し合っている。
 だけど、この人にとっては、ウォステリアが先なのだ。
「・・・仰ることも理解できます。しかし、このままでは繰り返し。何も生まない!それに、新王であるアーサー王は、どの国も侵略したりなんかしない!」
「ふん!!前王の子供だ、信じられん!現王も冷酷非道と聞く、継母も実の父親である王さえも、その手で殺したそうではないか!血は争えん!」

 ムカッと来て、サラは言い返す。
「アーサー王は、前王と血は繋がってません!あんなヤツと一緒にしないで欲しい!」

 その言葉に、ガルーダ王は、眉をひそめる。
「なんだと・・・?血が繋がっていない?」
 一瞬、言って良い事なのか迷ったけれど、感情のままに行ってしまう。
「はい。母君であるマルグレーテ様は、この国に来た時には、もう既にアーサーを身ごもっていたそうです。」

 威厳にみちあふれて、怖かったガルーダ王が、目を見開く。
「?」
 ガルーダ王のその様子に、サラは少し戸惑う。
 そして、みるみる、瞳が揺れて、ゆらゆらと彷徨うように見えた。

 完全に取り乱したように・・・。
  
 サラは、黙り込んでしまった王に、説明するように話す。 
「王家の血を受け継いでいないアーサー王は、生まれてからずっと、何度も暗殺されそうになりました。しかしマルグレーテ様は、最愛の人の子を守りぬいたんです。でも、最後は毒殺されてしまいました。」
 ガルーダ王の目は、見開かれて、サラの話を信じられないという風に見つめた。

「マルグレーテ王女は、殺されたのか?」
 ガルーダ王の質問に、サラは頷く。

 先程の勢いも、圧力もオーラもない、ガルーダ王の驚きは隠しきれなかった。

 何かわからない雰囲気に、何かの予感にかられる。

「ガルーダ王・・・・。あなたは。」
 サラが言いかけて、ガルーダ王の言葉にかき消される。
「現ウォステリア王も、あなたのように平和などと考えているのか?」
 その言葉に、サラは何て答えていいのか、やはり一瞬迷う。
 でも、そのまま正直に答えた。

「はい。アーサー王は、世界の平和を望んでおられます。」

 その時だった。
 ドタバタと廊下が騒がしくなる。

 バタン!!と、扉が開く。


「サラ・・!!」
 部屋に入ってきたのは、アーサーだった。
 そこにはレオン魔術師団長、ウィルさんも居た。
 
 ガルーダ兵が剣に手をかける。それを見たウォステリア兵も、手をかけた、その瞬間に、サラは大きな声をあげた。

「ごめんなさい!!私が、どうしても、ガルーダ王と話したくて勝手なことを!」
 アーサーに向かって、サラは頭を下げる。それを見て、全員が剣から手を離し、姿勢を正す。
 息を切らせながら、アーサーはサラの傍に寄る。また怒られる!と思ったけれど、サラを背後に隠すと、ガルーダ王の前に立ちはだかる。
 
 ガルーダ王は、アーサーを見上げた。
 アーサーは呼吸を整えると、周囲を確認してから言った。
「非礼をお詫びする。女神が失礼をした。」
 そう言うと、サラの腕を掴んで部屋を出て行こうとする。

「アーサー王。」
 ガルーダ王が声をかけた。
 アーサーは足を止めて振り返る。その背中に、サラは顔をぶつけてしまう。
 2人の王は、視線を交わす。
 そして、ガルーダ王が言った。
「式典が終わって、晩餐会が終わったら本日中に帰路につく約束だったが、少し話す時間を頂きたい。」
 アーサーは目を細めて、眉をひそめる。
「・・・・わかりました。時間をとりましょう。」



 今日のスケジュールは、分刻みだ。
 貴賓室での面会をこれ以上は伸ばせない。そこに、ガルーダ王との会談も、追加されてしまった。
 頭を切り替えて対応をするアーサーに、ウィルたちはついて行く。
 ウィルは思う。
 この王は、今までも苦労が絶えなかったが、女神の出現で益々忙しくなっている。やれやれ。と。


 その後、ガルーダ王との会談は夜も深い時間帯だった。
 ガルーダ王が何を考えているのか分からぬまま、始まった会合だったが、まさかの2国間での平和条約を結ぶことが出来た。しかも、貿易条約も結ぶことで合意となった。
 細かい話は後日となったが、嘘のようにスムーズだった。
 その事に、アーサーもゴードンも、夢かと思うほど驚いていた。

「アーサー王よ。」

 書類にサインし交換して、本当に会談が終わったあとだった。
 ガルーダ王が声をかけた。

「女神から聞いたのだが、和約を結び、世界の平和がアーサー王の望みとか?」
 アーサーは、ガルーダ王を見る。
 一呼吸おいてから、しっかりと頷いて答えた。
「そうです。その為に、私は王になった。」

 ガルーダ王は、瞼を伏せる。そして、ゆっくりと目を開けた。
「あなたの母、マルグレーテ王女は慈愛に満ちていて、強い女性だった。」
 アーサーは、眉を寄せて、まっすぐに視線を動かさない。

「あの方の、墓はあるのか?」
 思いもよらないガルーダ王の言葉に、ゴードンも両団長も、驚く。

「王家と認められることなく、城の外に。」
 アーサーの言葉に、ガルーダ王は、険しい顔になる。

「我が国へ、亡骸を戻すことは可能か?」
 ここで、ゴードンが口をはさむ。
「失礼だが、マルグレーテ様は陛下の実母であられる。また、もう20年も前の亡骸ですぞ。掘り起こす事など不可能。お断りさせていただきます。」
 ガルーダ王は、それを聞いて、椅子の背に背中を預ける。
「分かった。では、女神の話をしよう。」

 アーサーは、ガルーダ王が何がしたいのか見定めようとした。しかし、全然意味が分からなかった。
 ガルーダ王が続けて言う。
「女神は、女神の真珠をご所望だった。私の条件としては、女神の指輪との交換だ。いかがかな?王。」
「・・・。」
 アーサーは思った。
 サラは、普通の人間になりたがっている。彼女の為ならば手放しても良いと考えている。
 しかし、この返事がこの後に何かを起こすのか、頭を巡らせても分からなかった。

「本来、その二つは女神のもの。女神が望むなら私に異論は無い。しかし、受渡しの際、私の立ち会いのもとでお願いしたい。」
 ガルーダ王は頷いた。
「解った。そのようにしよう。」


 そうして、会談は終了した。



 執務室に戻る間も、執務室に戻った後も、アーサーは黙り込んでいた。
 ウィルが、お茶をアーサーに差し出す。

「ガルーダ王は、何を考えていたんでしょう?マルグレーテ様を返せなどと。」
 ウィルの言葉に、ゴードンは、アーサーの顔色を伺いながら言った。
「ガルーダ王は、マルグレーテ様を支持するものだったのやも。」
 アーサーはお茶を口にしてから、一息つく。
 そして、その違和感に考えを巡らせる。
 指輪と真珠の交換を含めて、何もかもを、こちらの希望通りにガルーダ王は飲んだことになる。

 それは、何故なのか?

 いや、もしかすると、サラと話したのを期に一変した?

「・・・・あいつ、何かしたのか?」
 アーサーの独り言に、アモン騎士団長が反応する。
「サラ様の能天気さに、ガルーダ王も魔術師団もネジを飛びましたよね。」
 そう茶化したように言う。
「おい、魔術師団がネジとんだ、という言い方は聞き捨てなりません。」
 レオン団長が返答する。アモン騎士団長は首をすぼめて、これは失礼!と笑う。
「まぁ確かに、サラ様のおかげで、平和的解決になっているようにも感じますね。」
 ウィルは、微笑む。

「まぁいい。今日はご苦労だった。私も休ませてもらう。」
 騎士団長とアーサーが、出て行った後に、レオン団長がゴードンに声をかける。

「ガルーダ王は、もしかして、王女様の騎士だったのでは?」
 レオン団長の言葉に、ゴードンが「さあな」と言う。
 素知らぬ顔のゴードンに、レオン団長は突っ込む。

「何か知っています?」

「何をだ。」

「陛下と、目元も似ておられるかと。それから、魔力の色が・・・」

 ゴードンは、レオン団長を見る。

「魔術師団長、国の為に何も探るな。」

 

「・・・・・・・なるほど。」



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