女神なんかじゃない

月野さと

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73話 再会

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 目が合った瞬間。
 視界が、ユラユラと涙で、見えなくなっていく。

 必死で目を擦る。
 アーサーを、見失わないように。
 彼の影を捉えて、なんとか走る。

 アーサーも、一角獣から飛び降りて、走ってくる。

「サラ!」

 彼の低い声が聞こえる。
 途端に、しゃくり上げて泣き出しながら、走る。
 雪で足を取られながら、がむしゃらに走った。

 言いたいことがたくさんある。
 たくさん、たくさんありすぎて、きっと、全部伝えきれない。

「アーサー・・・!アーサー!!」

 名を呼ぶ声を聞いて、アーサーの顔が、泣きそうな顔に歪んで破顔する。
 何度もバランスを崩して、何度も何度も、雪に足を取られて。
「アーサー!!!」
「サラ!」
 彼の腕が伸びてきて、大きな胸の中に、思いっきり飛び込んだ。
 大きな腕の中に、スッポリと納まる。
 私は、力の限りに、彼を抱きしめた。

 会いたかった。

 会いたかった。

 ずっと、ずっと、会いたかった。

「うわぁぁぁああん!」

 私は大声で泣いた。まるで子供のように。声の限りに、力の限りに、アーサーを抱きしめて。
「アーサー!アーサー!!ふえぇえん。」
 あんまりにも、子供のように泣くサラに、アーサーは・・・苦笑した。
 サラを抱きしめて、何度も何度も頭を撫でて、きつく抱きしめなおして。また、頭を撫でた。
「サラ・・・サラ。」
 何度も何度も、アーサーは、サラの名前を呼ぶ。
 落ち着かせるように。ここに居る、大丈夫だ。ここに居る。と、言っているかのように。何度も名前を呼んだ。


 魔術師団は、その姿を見守った。
 レオン団長は、ラタ族の青年が、サラを見ていることに気が付く。話を聞こうと、青年の方に向かい始めると、サミュエルに「団長」と呼び止められる。
 視線で何かを知らせるので、目配せされた方を見る。
 アーサー王の背中に回された、サラの両手首には、うっ血して縄の跡が残っていた。

 ラタ族が、様子を伺うように近づいてきて、ヒューガの傍に寄る。
「ヒューガ!・・・マズイ!早く逃げよう。」
 そう言って、2人の青年たちが、ヒューガを引っ張る。
 レオンは、即座に瞬間移動して、ヒューガの前に立つ。
「おまえが、ラタ族の長か?!」
 そう言うなり、胸ぐらを掴んで、ガッ!!っと殴り飛ばした。
 鈍い音が鳴って、ヒューガは雪の上に倒れる。
「ぐはっ!」と、血を吐く。

 その声に、サラとアーサーが振り返る。

 驚いたラタ族の仲間たちが、「ぎゃぁ!」と悲鳴を上げて、逃げようとする。
 サミュエルが、目の前に立ちはだかって、一瞬で、2人を殴りつけた。
 2人が、雪の上で呻きもがくのを、冷たい目で眺める。
 そのうちの1人の首を掴む。
「おい。サラ様に手を出したのは誰だ?お前か?」
 今にも殺しそうな目を向けられて、青年はヒィィィ!と声を出して言った。
「ち・・・違う!何もっ!何もしてない!」
 サミュエルは青筋を立てて切先を、青年の口に入れる。
「ウソつきは、この口が悪いのかな?じゃぁ、あの手首の縄の跡はなんだ?!」

 青年は、もう泣きながら叫んだ。
「お、お、俺だけじゃない!み・・みんなだ!全員でやっちまえって!でも抵抗して暴れるから!・・・ぐふぉ!!」
 話しの最中で、サミュエルは青年の顔面を殴った。
 それ以上、聞いていられなかったのだ。

「ダメ!サミュエルさん、やめて!」
 サラは、2人を止めようと走り出す。

 サミュエルは、剣を引き抜く。
「団長。すみません。こいつらを皆殺しにします!」

 振り向くと、レオンは既に剣を抜いていた。
 ヒューガに剣を振り上げたまま、低い声でレオンが言った。
「言い残す事はあるか?最後に聞いてやる。」

「ダメ!!」
 サラが走って、ヒューガを庇うように、両手を広げて目の前に立つ。
「待って!レオンさん!やめて!サミュエルさんも、やめて!」

 レオンは、カッとなって言う。
「どいて下さい!!」
 サラは、レオンを見返して叫ぶ。
「どかない!!お願い!話を聞いて!私は大丈夫なの!何もない!何も無かったから!」
 レオンの腕が、ワナワナと怒りで震える。
「あなたは・・・あなたって人は!!こいつらに同情など必要ない!」
 サラは首を振る。
「最初に同情したのは、レオンさんだ!魔法省をやめてまで、ブリテンで魔獣退治するつもりだったんでしょ?」

 レオンは、ヒクっと顔を歪ませて怒りをあらわにする。
「こんな奴らの為ではない!」
 サラは、レオンの懐まで詰め寄る。そして、レオンの胸元に手を置いた。
「私は、大丈夫。」
 そう言って、わざと屈託のない笑顔を見せる。

「レオンさん、聞いてください。ブリテンを植民地にするか、立国させようかなって思ってるの。」

 あまりにも、素っ頓狂な?ことを笑って言うので、レオンもサミュエルも、無言になった。
 アーサーも、少し離れた所から、その話を聞いて、頭が真っ白になった。

 サラは、3人に必死で訴える。
「私は・・・同情するよ!同情しかない!!ここに居る子たちは、まだ10代だよ?!魔力も無い。全員が魔獣のエサみたいな生活を送ってて、生き残るだけで精一杯で、助けが必要なの!!女神の存在に目がくらんでたけど、今は違う!!今は、ブリテンを1つにまとめて、みんなで何とかしようとしてるの。だから、許してあげて!助けてあげて!!」


 サミュエルが、先に声を発する。
 左手を額において、はぁ~っとため息をついて、言った。
「サラ様。また、何をやらかしてるんですか?ガルーダの時に懲りなかったんですか?」
 サラはニカっと笑って返答する。
「あの時は、失敗しちゃったけど!今回はまだやらかしてないわ!これから、みんなで話し合って解決するって、ブリテンに住む民族たちを掌握してるところよ!」

「・・・・。」 
 レオンが、青筋を立てて、剣を鞘に納める。そして、アーサーを見た。
 アーサーはサミュエルとレオンを見る。

「・・・記憶が戻った瞬間、トラブルメーカーも復活ということらしいな。」
 アーサーがそう言うと、レオンとサミュエルは、項垂れながら苦笑した。

 アーサーは、サラを引き寄せて言った。
「ラタ族よ。お前たちのしたことを、我々は許す事が出来ない。だが、これからの話は、また後日に話を聞こう。」

 そうして、私たちは、ウォステリアに戻った。





 これは先の話になるけれど・・・・ブリテンの問題は解決までに、長い年月がかかった。

 ガルーダ王国との話し合い。ブリテンの散らばった各部族・民族を掌握。そして、同盟や平和協定。経済としては、サラの提案で、一角獣の量産と他国への輸出を行うことになった。魔獣退治は、ウォステリアとガルーダで請け負うことになった。ウォステリアはみかえりとして、一角獣を無償で手に入れる事となった。

 そうして、話し合いの結果、最初は植民地扱いで、数年後に立国させることとなる。 
 立国するにあたり、リーダーはセルゲイと決まり、政治などを行うことになる。




 

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