女神なんかじゃない

月野さと

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70話 ブリテンのラタ族3

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 城に戻った瞬間、ゴードンが変な顔をした。
「おや?サラ様はいかがされましたか?」

 ウィルが何のこと?と聞き返す。
「え?サラ様ですか?どうかされたんですか?」
 アーサーも「?」とゴードンを見る。

 そこへ、バタバタとルカが走ってくる。
「父上!!父上ーーー!」
 アーサーは、駆け込んで来たルカを抱き上げる。
「聞いてください!母上が変なんです!」
「ルカ、母上はどこだ?」
 アーサーが聞くと、首をかしげる。
「さっき、廊下で会って、なんか“世界で一番愛した人の子”だって、母上が言って、なんか様子が変で、それから・・・どっか行っちゃった。」

 世界で一番・・・。

 アーサーは、ゴードンを見る。
「サラは、どこだ?」
 ゴードンが答える。
「先ほど、こちらに来られて、陛下にお会いしたいと仰るので、魔法省にいる事をお伝えしたのですが。会われませんでしたか?」
 部屋の外に出る。
「おい、騎士団!サラを探してきてくれ!」
 そう言うやいなや、アモン騎士団長が走って来た。
「陛下!!!」
「アモン?」
「申し訳ございません!!サラ様がさらわれました!魔法省に向かう途中で、馬車ごと奪われたと報告が!」
 その時、全員が身につけている魔石が赤く光り出す。

 執務室にある、魔道具の所まで速足で行く。
 魔道具に手をかざして、壁に映像を写させる。
「何事だ?!」
 アーサーが叫びながら呼びかける。
 すると、最北端の州知事が映し出された。
 そこに、テルマが居た。
 瞬間に、アーサーが叫ぶ。
「テルマ!!おまえ、なぜそこにいる!!?」 
「陛下!!サラ様が!ブリテンのラタ族と言ってました!女神の力が欲しいのだと!お早く!サラ様が危険です!」

 ・・・女神の力だと?

 ドン!と波動が執務室を揺るがす。
「陛下!気を静めてください!」ゴードンが書類を押さえる。
「ゴードン、ラタ族について調べろ!至急だ!」
 そして、魔石に話しかける。
「レオン!!レオン!至急ブリテンに向かう!魔術師を集めろ!今すぐだ!」
 歩きながら、叫ぶ。
「それからアモン!城を封鎖しろ!警備を増やせ!不審者は全員縛り上げろ!」
 ウィルが、走ってアーサーについて行く。
 黙って、愛用の戦闘用の剣を、アーサーに渡す。魔術などを跳ね返すマントなど、魔道具なども手早く準備して、アーサーに渡す。

 そこへ、チョロチョロとルカが駆け寄ってくる。
「父上!僕も行く!母上を助けに行く!」
 ウィルが、ニッコリ微笑みながらルカを抱き上げる。
「王子、今回は陛下にお任せください。王子には、この城を守るという使命がございます。」
 ウィルは、チラッと視線をアーサーに移す。もはや、頭の中は作戦を立てていて、何も見えていない様子だった。
 ルカの方に目を戻して、言う。
「王子、お願いできますか?この城を守ってください。」
「うん!解った!父上の代わりに、ここを守る!」

 その時だった。
 バタバタと、後ろからレオンが現れた。
「陛下!」
 アーサーは、ホッとしたようにレオンを見る。

 ウィルは、知っている。
 アーサー王にとって、レオンの存在は大きい。
 力とか能力とか、確かに大事なのだけれど。言葉で伝えなくても、理解し合える信頼関係。その絆が、いざという時に生きてくる。

 レオンは、アーサー王にとって、腹心の部下なのだ。




◇◇◇◇


 サラは、力の限りに抵抗して、力の限りに叫んだ。

「嫌だ!!やめて!!信じてよ!こんな事しても無駄なんだから!」
 男たちに手足を縄で縛られ、押さえ込まれる。
 最初は、必死で抵抗していたサラも、気が付き始める。
 こんなに大人数で、両手両足を押さえられて、とても敵わない。

 ダメだ・・・敵わない・・・。
 そう思った瞬間、犯される恐怖と屈辱で、涙が溢れはじめる。
「いやっ・・・!」
 怖くて怖くて、震える。
「・・・助けて!!」
 無数の手に抑え込まれて、頭は諦め始めているのに、体が拒否をする。
「やめて!助けて!!」
 秘部に手が入れられた瞬間、全身が拒否するのが分かった。鳥肌が立ち、吐きそうなほどゾワリとする。
「いや!!助けて!助けて!アーサー!!」

 その時だった。部屋の隅から声が響いた。
「やめろ!!!」

 全員が驚いて、声の方を向く。
 サラも、ゆっくりと、そちらを向く。

 ここへ、サラを連れてきた男が、こちらへ歩み寄ってくる。  
「なんだ?どうしたんだ?ヒューガ。」
「やっぱり気が変わった。最初は俺が抱く。ここの長は、俺だ。この娘を連れてきたのも俺だ。だから最初に抱く権利は俺にある!」
 そう言いながら、男たちを追う払う。
 布1枚も身につけていない私を見下ろして、腕を掴んで起こす。
「立て。俺の家に行く。」
 すると、近くにいた男が言った。
「ヒューガ!1人で大丈夫なのか?逃げられるなよ?」
 ヒューガと呼ばれた男が、私の肩に上着をかける。私は、動けずにいた。
「見ろ。おまえらがよってたかってビビらすから、もう抵抗する気も無いらしい。」
 そう言われて、ビクリと体が反応して、後ずさる。
「おっと、逃げようとするなら、こいつらに輪姦させるぞ。それが嫌なら付いてこい。」
「・・・・。」

 外に出ると、雪がちらついている。
 寒い筈なのに、男たちに触れられた肌の感覚に比べれば、刺すような寒さの痛みに心地よさを感じる。

 ふと、一角獣が、外につながれているのが見えた。
「あの子たちは、中に入れないの?」
 気になって聞く。
 ヒューガは、サラの視線の先を見る。
「あぁ、あいつらはこの土地の生き物だ。寒さには強い。」  
「そう・・・良かった。」
 少しホッとする。
「・・・おまえ、あいつらの心配してる立場か?」
 そう言いながら、少し離れた所にあった家の中に、サラを押し込む。

 部屋の中は、冷えきっていた。
 ヒューガが、明かりを灯していく。その姿に、サラは驚く。
「あなた、魔力があるのね?」
 一気に暖房まで魔法を使ってつけると、彼は笑う。
「そうだ、俺は皆と違って少しの魔法が使える。」
 じっと、彼を見つめる。
「ヒューガは、何歳なの?他の人たちも若く見えたけど。」

 ヒューガは、スタスタとキッチンに行き、魔法でポットに湯を沸かす。そしてお茶を入れていた。
「俺は今年で20歳になる。1番の年長者だ。部族を守ろうとした大人たちは、みんな魔獣に食われた。」
「・・・それで・・・女神の力が必要なのね?」 
「そうだ。生きるために、お前が必要だ。」

 ヒューガの目は、鋭く突きさすような視線だった。



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