女神なんかじゃない

月野さと

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68話 ブリテンのラタ族1

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「俺は、ブリテンに住んでいるラタ族だ。」
 褐色の肌と黒髪で、金色の目をした男が言う。

 サラは、一生懸命に考えたけれども、どこにある国かも分からなかった。まだルカを産む前、ゴードンさんから色々聞いて世界の勉強したけれども、もう今ではうろ覚えだ。
 サラとテルマは両手を縛られて、乗って来た馬車で、どこかに連れて行かれていた。 
「どこへ連れて行くつもり?」
 サラが聞くと、男は答えた。
「おまえが女神だな?お前の力をラタ族が手に入れる。」
 サラは、思いっきりため息をついた。
「女神の力ってこと?・・・残念だけど、私は女神の力を失ったわ。ウォステリアに結界を張ったのを最後に、もう私には何の力もないの。」
 ジャキン!と刀を素早く閃かせて、サラの首筋に剣をピタリと当てる。サラは息を飲んだ。
「それを信じるかどうかは、お前を犯して子を産ませてからだ。」
「サラ様!!」
 テルマさんが身を乗り出した瞬間、男は、サラに剣を向けたまま、テルマさんの首を左手で掴んだ。そのままテルマさんを壁に押し付けて首を絞める。
「やめて!!彼女に手を出したら、舌噛んで今すぐ死んでやる!!」
「うぐ・・・さ・・サラ・・・さま・・!!」
 男は、サラの目を睨みつけたまま、少し考えると、テルマさんから手を離した。
「取引だ。この女をココで馬車から下ろしてやる。その代わり、お前は俺の言う通りにしろ。」
 サラは慎重に考えて答える。
「・・・・いいえ、信用できないわ。彼女を安全な場所で降ろしてくれないと、言う事を聞けない。あなたの仲間が、彼女を人知れず殺すかもしれないでしょう?」
 男はニタリと笑う。
「フン!食えない女だな。良いだろう。ウォステリアの国境で、役人に引き渡すでどうだ?」
 国境?首都から国境までは馬車で数日かかるはず。それまでに・・・。
「・・・わかったわ。」

 サラの予測は覆された。
 驚くことに、この馬車は既に国境まで来ていた。馬車の窓の外を見ると、国境である壁が見えてきた。
「どうゆうこと?あなたたちは魔術師なの?」
 クツクツと男は笑う。
「我々が飼育している一角獣は、一足飛びに千里を駆ける。」
 男の言う通り、馬車のスピードは新幹線のように早い。いや、それよりも早い・・・。
 そして、テルマさんは馬車から下ろされた。

「サラ様!!」
 馬車を下ろされたテルマさんが、サラを見る。
「テルマさん、私、ここで見てるから、州知事の所へ、建物の中に入って?」
 テルマさんの目が、何かを無言で訴えていた。サラはゆっくりと頷く。
 きっと、アーサーに言いに行ってくれる。そう信じた。

 男は、剣をサラの首にくっつけたままにする。
 テルマは、城門まで走って行く。門番と話をして、扉の中へと入って行った。

「これでいいな?」
 男はそう言って、馬車の扉を閉めた。
 馬車の窓の外を眺める。再び新幹線のように移動を始める。

 ウォステリアを出て、トルネ山の麓。そこには雪に閉ざされたような町があった。人が誰も外には居ない。遊牧民族のような、大きなしっかりめのテントが点在していた。
「ここが、ブリテン?」
 冷たい目をした男が、無表情で返事をする。
「そうだ。1年を通して雪に覆われている。魔獣の出る街だ。」

 馬車を降りると、サラは気になっていた、馬車を引いていた馬を見る。
「これが一角獣?」
 馬に短い角が生えていて、青みがかった白く光る毛並みだった。
「なんて・・・綺麗な馬なの。」
 サラは、一角獣に近寄って行く。
「おい!待て!怖くないのか?」
 手を縛られているので、一角獣の傍まで行くと、ほおずりしてみた。
「怖くなんてないわ。・・・わぁ。温かい。フワフワの毛並み。」
 とても大人しくて、賢そうな生き物だと思った。この世界には、まだ知らないことが多いな。

 その時、大きなテントのような家から、10人位が姿を現した。
「ヒューガ!戻ったか!!」
「上手くいったんだな!!さすがは長だ!ヒューガだ!」

 見る限り、10代20代の若い人たちばかりだった。民族衣装なのだろう。みんな同じような服を着ている。『ヒューガ』と呼ばれた男は、私を引きずり下ろすと、家の中に引っ張って行く。両手を縛られた縄を引っ張るので、縄が手首に食い込んだ。

 家の中は、思っていたテントの作りでは無く、普通に仕切りがある家だった。外から見た時はテントだと思ったのに、ちょっと驚く。
 だだっ広い広間に、絨毯が敷いてあって、そこに男たちが胡坐を組んで座っていた。
 その目の前に、投げ込まれる。バランスを崩して、私はその場に倒れこむ。・・・地味にイタイ。

「この女が、ウォステリアを守っているという女神か。」
「あぁ、そうだ。何ヵ月もかけて隙を狙っていたが、やっと運が廻ってきた。」
「この女を抱けば強大な魔力を得て、子を産ませれば、魔力の強い子供が生まれるのか。」
「それなら、10人ほど産ませれば、いいんじゃないか?」
 男たちは、サラを目の前にして、恐ろしい話を始めた。

 サラは、何とか息を吸い込んで言った。
「待って!本当に、もう力を持っていないのよ!私を犯しても、何をしても、何の意味も無いわ!!」

 男たちの中に居た、1番屈強な男がサラに近づく。
「なんだと?だが、最近現れた王子は、強大な魔力を持っているそうじゃないか。」
「・・・それは、まだ女神の力を失う前だったから!」
 サラは自分で言っていて、信じてもらうには、説得力が無く、証拠も何も無い事に気が付く。 

「信じられるか!!もう、俺達には後が無いんだ!!」
 他の男も叫ぶ。
「そうだ!俺たちが生き残るには、女神の力を手に入れるよりほかにない!」

 生き残る?
「どうゆうこと?生き残るって、何があるの?」

 興奮した男たちは、サラの声など聞こえないようだった。
 ギラギラとした男たちが、サラを取り囲む。

「誰からやる?」
「全員でやるか?」
「順番だ。」

 手を縛った縄を引っ張られる。 

「痛!!・・やめて!本当なの!何の力も無い!!・・・嫌!!やめて!!」


 



 
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