女神なんかじゃない

月野さと

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44話 ガルーダ王国へ

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 ガルーダに行く日。
 レオンを含む魔術師団7名が、同行することになった。
 いつものように、騎士団は城の警備に回る。

「ゴードン、後は頼んだぞ。昼頃までには戻る。」
「かしこまりました、陛下。」
 魔法陣の上に乗る。
「サラ様、くれぐれも勝手な行動は慎んでくださいね。」
 テルマが心配そうに言う。今回は敵国なのでテルマは同行できない。サラはしっかりと頷いて、彼女を安心させるためにも真剣な顔で返事をする。
「今度こそは、大人しくしてます。」
 私が、そう言うと、レオンさんが頷いて呪符を唱え始め、光に包まれる。
 一瞬で、10人が瞬間移動した。

 こうして、国王が不在のお城は、少しガランとした感じになる。国王不在の国内を守るのも、残された者の仕事。それを全うしようと、それぞれが皆、仕事に戻ろうとした時だった。
 「騎士団長。ちょっと、宜しいですか?」
 珍しく、お見送りに来ていたサミュエルが声をかける。アモン騎士団長は、振り返った。この2人が話をするのは、恐らく初めてなのではないか?と思う。ゴードンも、その様子を見ていた。
「サミュエル副団長だね。私に何か?」
 遠慮の無いサミュエルは、アモン騎士団長の傍に、近すぎる程に近づいて、顔を寄せてきた。アモンは驚いて、少し体に力が入る。サミュエルは、小声で言った。
「あそこの、通路の端に居るヤツ。あいつは何者です?」
 そう言われて、目を動かすと、そこにはクリスが居た。彼は数年前に入団してきた移民だ。姿形こそ目立つが、若い割には落ち着いていて、よく気が利くし、その柔らかい雰囲気や性格で、貴族たちからも評判が良い騎士だった。
「何者とは?一兵卒です。」
「・・・ふーん。騎士団には何年?城内に上げたのは、最近て所ですか?」
「えぇ、まぁ、経歴は確か3年程だったか、そうですね、城内の警備に配属されたのは、ここ1ヵ月くらい前からです。」
 アモンはサミュエルが何を言いたいのか分からずに、素直に答える。サミュエルは、ずっとクリスから目を離さない。そこへ、ふとクリスが、サミュエルを見た。サミュエルは、ニッコリと笑う。
「おにいちゃん美形だな~。惚れちゃいそう♪」
 ニタリっと笑うサミュエルに、騎士団が悪寒を感じる。そうして、サミュエルは、ゴードンの方に向きなおる。
「ゴードン宰相。仕事たまってるんじゃないですか?」
 サミュエルは、スタスタと、ゴードンの傍に行く。
「宰相も大変ですねぇ。急にガルーダとの和平とか仕事も増えて、書類も溜まっているみたいですねぇ~。執務室は、溜まった書類の山。いやいや、ご苦労様です。ところで少し話を聞いてもらいたくてですね。こちらへ。」
 サミュエルはゴードンを連れて、執務室とは反対の方向へ行ってしまった。
 そうして、姿が見えなくなると、騎士団たちも持ち場へと散って行った。

 誰も居なくなったのを確認すると、クリスは、周囲を警戒しながら、歩き出した。


◇◇◇◇◇


 目の前に広がる景色は、神殿の中のようだった。
 ガルーダ王が、目の前に現れる。

「ウォステリア王よ。時間通りだな。ガルーダへようこそ。」
 ガルーダ兵士たちが、一同に敬礼をする。
 貴賓室へ案内すると言われ、全員で移動する。
 長い回廊を歩いて行くと、途中から自画像などの絵が飾られて、並んでいた。
 その最初の絵に、アーサーが立ち止まる。
 それに気づいて、ガルーダ王も立ち止まる。
「マルグレーテ王女だ。絶世の美女と謳われていた。」

 美しく流れるような金髪に、優しい微笑みをたたえて、そこにいた。
 アーサーは、目を外して歩き出す。
 ガルーダ王は、その何枚目か後の絵を指刺す。
「これが、当時の国王だ。その隣が、その父王。」
 アーサーは、ガルーダ王をジロリと見る。
「・・・ウォステリア王には興味が無かったか。仮にも、あなたの祖父と曽祖父に当たる方々なので説明させて頂いた。」

 サラは、じっくりと絵を眺める。
 食い入るようにして、観察する。アーサーは父親似なのだろうと思う。波打ち流れるような金髪は、お母さん似なのだろうけど、顔のパーツはどうしたって・・・。
 ふと、斜め後ろから観察するレオン団長に気が付く。
「なによ?」(小声)
「いいえ、女神らしい行動でお願いします。」(小声)
 ・・・レオン団長、イヤミばっかり。

 豪華な扉の前まで来ると、部屋に通される。
 中に入ろうとして、アーサーが立ち止まった。

「ようこそお越しくださいました、ウォステリア王。」
 部屋の中には、金髪碧眼の年若い青年がいた。
 ガルーダ王は、青年の隣に歩いて行く。
「第二王子のカルロだ。突然だが、我が国では王太子の交代を考えている。」
 全員が王の方を向いて息を飲む。
「既に手続きは済んでいて、来月にはカルロが正式に王太子となる予定だ。」
 アーサーは難しい顔をした。
 アーサーの顔色を伺ってから、ガルーダ王が少しほほ笑みながら言う。
「ウォステリア王が思っている通り、おそらく内乱は避けられないだろう。」
 全員沈黙したままだった。
 あのカイン王太子の事だ、黙って王座を渡すわけがない。
 促されるままに、全員が着席すると、女官たちがやってきて、お茶などを準備していく。おもてなしが始まった。そして、ガルーダ王は、話し始めた。 
「今回の条約は、我が国にも願ってもいない話だ。ウォステリアと和約を結び、このカルロを王にする。我が国の内戦が治まるのを見守って頂きたい。」

 アーサーは口を開く。
「勝算はあるのですね?」
「根回しはしてある。しかし、あやつが国一の魔術を扱うことは確かなのだ。」
 ガルーダ王も目を閉じる。
 カルロ王子が、発言する。
「私は、力では兄上には勝てません。しかし、国の半数以上を掌握しています。我が国の多くは、平和を求めているのです。」
 カルロ王子は、スラリとした体格で、細マッチョな体系。同じように金髪に青い目だけれども、ストレートの髪がサラサラとしていた。時折、サラを見てニコリとほほ笑み、優しそうな人だ。

「そうだ、あれを。」ガルーダ王が言うと、カルロ王子が「はい。」と言って立ち上がり、小さい箱を持って、サラの横まで来る。差し出された箱を覗く。

 真珠が1つ入っていた。
「女神様、ご所望の物です。」
 サラは立ち上がって、それを受け取る。
「ありがとうございます!」
 これで、私はあの変な力とはサヨナラだ。安心?不安?どちらの感情も湧いてきた。

「ガルーダ王。」
 アーサーが、突然口を開く。
「カルロ王子が立太子されるにあたり、私が力を貸しましょう。」
 え?
 サラは驚いて、レオンの方を向く、しかしレオン団長は無表情だった。
 狼狽えたのは、私だけだった。
 カルロ王子が歓喜の声を上げる。
「それは、とても助かります。あなたは今や地上最強の魔力を保有されている。兄上も太刀打ちできないはずです!」
 興奮するカルロ王子を、手ぶりで落ち着かせて、ガルーダ王が言う。
「しかし、ウォステリア王よ。無理はされるな。あれはどんな手を使ってくるかもわからん。」 
 ガルーダ王の心配に、アーサーは「承知の上です。」と平然と言う。
 それって・・・それってつまり。アーサーとカイン王太子が、戦うってこと?つまり、戦うって・・・殺し合いだよ?
「ダメ・・・!そんなこと、そんな簡単に決めないで!」
 心の声が漏れ出てしまう。解っているけど、怖い。解るよ?放っておいたら、カルロ王子がカイン王太子に負けて、結局は平和条約も無かったことにして、あいつが王になって、戦争になる。もしも、あいつに勝てるとしたら、アーサー位だ。今のうちにあいつを失脚させる方が良いに決まってる。
 でも、でもでも!!
「ダメだよ!アーサーが何で戦わなきゃいけないの?」
「・・・・サラ。落ち着け。」
 アーサーが少し戸惑ったように言う。
 ここでは、こんな事を言っちゃいけないって、解っているのに、だけど、止められない。
「この為に、私は魔力を渡したってこと?!アーサーを戦わせるために?!」 
 アーサーは立ち上がって、サラを抱きしめる。
 みんなが居る前で、息が出来ないほど、きつく抱きしめられた。
 穏やかな声が、頭上から降って来る。
「大丈夫だ。落ち着け。大丈夫だから。」
 解ってる。負けるわけない。そんなわけないもの。でも、サミュエルさんの時のことを思い出してしまう。無傷で済まないでしょ?危険なはずだ。
 ガルーダ王は、サラとアーサーを見つめて黙っていたが、口を開いた。
「女神様は、次期王妃となられるお方だったか。」
 アーサーは、ガルーダ王に向きなおる。
 ガルーダ王のアーサーを見る目が、優しかった。

 その後は、平和条約についての細かい話や、カルロ王子が王太子になる為の段取りなど話し合った。お昼頃まで会談は長引き、食事を誘われたけれど、アーサーは、帰国することを選んだ。
 再び長い廊下を歩いて、元来た道を歩き始める。

 その途中で、それは突然だった。
 
 黒い風が吹き荒れて、鋭い刃のような光が飛んできた。

 アーサーが、前に出て防御の壁を作る。

 すると、30人ほどの黒服の男たちが現れた。
 その後ろには、カイン王太子が居た。
「カイン!なんのまねだ!」
 ガルーダ王が、問いかける。
「父上は、耄碌してしまわれた!父上と同じ方法で、王位を頂くまでです!」

 そう言うと、魔法で攻撃をしてきた。


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