34 / 83
34話 建国記念日
しおりを挟むサラがベットから出れたのは、2日目の朝だった。
何度、目を覚ましても、目の前にアーサーが居て、腕と足か絡まっていた。すり寄ると、抱きしめられる。何度も何度も愛し合って、幸せだと再び眠りにつく。彼の愛に溺れた。
何度目かで目を覚ますと、そこにはアーサーが居なかった。
トントン。
と、ドアを叩く音がして、部屋を見渡す。
返事をすると、テルマさんが入ってきた。
「おはようございます。サラ様。」
そう言って、食事とお茶を乗せたワゴンを運んでくる。
「アーサーは?」
ぼーーっとする頭で、聞いてみる。
テルマはベッドの横にワゴンを置いて、温かいスープを器に移し始める。部屋に、美味しい香りが広がった。
「陛下は、式典の準備をされると伺っています。」
式典・・・・そうだ。
14日後に、建国記念日がある。
国に強大な結界を張り終えたアーサーは、女神から魔力を与えられて復活。今や、この世界でウォステリア国は、各国から一目置かれ始めていた。神をも味方につけて、地上最強の国として君臨しようとしていた。
そんな国の建国記念日が、1週間後にあるというので、盛大なお祝いとなりそうだった。テルマさんは、女神様のお披露目もあるとワクワクしていたけれど・・・。
サラは、具沢山のスープに口をつけて、一息つく。
「うーん、ボロが出ないように、女神っぽく振る舞わないとなぁ。」
マナーや振る舞いの勉強を、また再開しなくては。
「ふふ。サラ様は、最初の頃よりマナーなども見に着きましたし、大丈夫ですよ。」
「そうかな?」
自分では、成長してるかどうか、よくわからない。だから、人の評価は嬉しい。
ふと、気になったことを質問する。
「さっき、ドアが開いた時に、部屋の前に騎士が2人もいたけど、何かあった?」
するりと、ベッドからおりて窓から外を見ても、騎士の多さに驚く。
「騎士団が増員して警備してる?建国記念日のせい?」
なんの気なしに聞いたのだけれど、テルマさんが少し言いずらそうに言葉を選びながら、言う。
「はい。それもあるんですけど・・・」
何やら言いずらいのだろうか?と思いながら、ソファーに移動して座る。
テーブルに置かれたブドウを摘まむ。
すると、迷っていたテルマが思いもよらないことを言った。
「ガルーダ王国の、王が来るそうです。」
・・・へ?
ブドウを落としそうになる。
「どうして?」
「それが、建国祝いにとのことです。式典に参列されるそうです。」
「だって、友好関係には無いでしょう?」
「はい。初めてのことです。」
「・・・アーサーは受け入れたんだね?」
あのカイン王太子の居る国。襲撃をしてきた、ガルーダ王国。そのカイン王太子の父親である王が、来るんだ。
・・すごく、嫌な予感しかしない。
私が、何かの役に立てるとは思わないけれど、不安になって、じっとはしていられない。
「すぐに着替えて、アーサーの所に行くわ!」
テルマは、梅干しみたいに顔をすぼめる。
「サラ様~。妃らしく、何もしない方が宜しいかと。」
「解ってる!様子を見に行くだけだから!」
アーサーは、式典の行われる聖堂に居た。
レオン魔術師団長も、アモン騎士団長も居た。
警備の配置などを話している様子だった。
3人を見て、サラは駆け寄ってしまう。
すぐに3人は気が付いてこちらを向く。
「アーサー!団長たち!」
お姫様でも妃らしくも無く、アーサーの所まで走って行く。
「ガルーダ王が来るって、大丈夫なの?」
団長たちの顔が、引き締まる。
「大丈夫だ。」
と、アーサーは答える。見上げると、余裕そうに笑うアーサーの顔があった。
アモン騎士団長が、ニコニコと笑って言う。
「そうですよ。騎士団と魔術師団が、お二人をお守りします。」
レオン団長は無表情で、説明する。
「入城できる人数を制限させましたし、カイン王太子と違って、現ガルーダ王は無茶な人間ではないと考えています。今までも慎重さを見せていた王です。」
両団長の話を聞いて、サラは自分の不安をぶつける。
「でもでも、結界を張ったから、作戦を変えてきたってことなんじゃ・・・。」
その言葉に、アーサーが答える。
「結界を張ったことで、魔獣は入り込めない上に、外側からの魔術師による攻撃ができなくなったからな。何か態度を変えてくるだろうな。」
だよね。と、サラは思う。
「じゃぁ、建国記念日の式典出席と見せかけて?」
アーサーは、サラの頭に手を乗せる。
「かもしれないが、そうではないかもしれない。それを探る為に会うのだ。おそらく、あちらも探る為に来るのだろう。何かをする為ではないと考えている。」
女神が降臨したことが知れ渡り、結界を張り、王の魔力が増大した。ガルーダも身の振り方を模索しているのだろうと。
アーサーは、これを期に、友好関係を築けるか模索するつもりだと言った。
「まぁ、ムリかもしれんがな。」
不安そうに3人を見つめるサラの背中に手をまわして、誘導するようにアーサーは歩きだした。
「そもそも、我が国の魔術師団は世界一と言われている。騎士団と合わせて、武力は右に出る国は居ない。だから、心配することは無い。」
アーサーに言われて、レオン団長は頷いて、不適に笑う。
騎士団長が、ニコニコと首をかしげてサラに言う。
「不意をついて奇襲をかけられない限りは、我が国に、面と向かって勝てる国などではありません。やられたら、倍返しにしてやります。そのための日々の鍛錬と、まぁ魔獣狩りという実践が生かされているのでしょうが。」
レオン団長が、サラの表情を見て言う。
「何が心配なのかわかりませんが、貴方は我々を信じれば良い。信じて、貴方は貴方が成すべき事をすれば良いのです。」
確かに。
私は、みんなを信じれば良いんだ。
うん。信じられる。この人たちは強い。
私は自分自身のこと、頑張らなきゃ。
レオンさんは、言い方キツイけど、本当に信頼できる素敵な人だ。
ただひたすらに、尊敬の眼差しを送ってしまう。
うん、そうだ。
私は、私たちは、相手を信じて、自分を信じて、
自分の成すべきことを精一杯やりとげるだけだ。
きっとそれが、未来を切り開くということなんだ。
0
お気に入りに追加
111
あなたにおすすめの小説
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。
さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。
忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。
「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」
気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、
「信じられない!離縁よ!離縁!」
深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。
結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる