女神なんかじゃない

月野さと

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28話 サラの作戦

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 意外にも州知事は、簡単にサラとサミュエル副団長を中に入れて歓迎してくれた。

「これはこれは、女神様がおこしとは。ごゆっくりされて行ってください。」
 州知事がニコニコ笑う。

 サミュエルさんにお願いして、自分用にドレスを用意してもらい、サミュエルさんには魔術師団の制服を着てもらった。
 人間というのは、身なりで人を判断しがちなのである。
 私たちは、州庁舎の奥にある応接室で、丁重なもてなしを受けていた。

 サラは、背筋を伸ばして、自分なりの神秘的な顔。というのを作ってみる。 
 そして、気が付かれないように息を吸い込んで言った。

「私がココに来た理由を、単刀直入にお話し致します。」
 サラが堂々とそう言う。
 サミュエルは、出された料理の肉に手を伸ばしかけながらも、ギョッとする。
 州知事が、サラを見る。
 サラは一度目を閉じてから、口を開いた。

「この州は温暖でありながら辺境にあり、街が衰退しています。」

 額に手をやり、はぁ!と、わざとらしく、ため息をつく。

「正直言って財政難ですね?なんと嘆かわしい。同じ国境にあるミュンデンは、あれほどに栄えているというのに!」

 見たことないけど・・・、まいっか。と、サラは思う。
 州知事は、うんうんと頷く。
 サミュエルは、ゴクリッと肉を飲み込みながら、誰これ?
 と、言わんばかりに、じーーっとサラを見つめる。

「・・・いかにも。女神様の仰る通り、かなり苦しい街です。しかし、ミュンデンのしていることは・・・。」
 制止するように手を前に出してから、サラは頷き、州知事の話に繋げて言う。
「違法なことはしたくない!そうですね?知事。なんて素晴らしい!」
 やっぱり、わざとらしく賞賛する。

 州知事は、満足げに頷きながら話し出す。
「ありがとうございます。しかし、先の戦争のこともあり、人口も減って・・・」
 サラは、そうでしょうと言うように、大げさに頷く。

「そこで、何か力になれるのならばと、お話を伺いにきたのです!」

 サラは、椅子から乗り出して、ニコリと笑って言う。

「貿易を考えたことは?」

 サラの言葉に、州知事が素直に驚く。

「貿易・・・ですか?」

 サラは、不適な微笑みを崩さない。

「はい。ガルーダ王国は、資源豊富でこちらには無い物があります。それを買い付けて合法に国内で売れば、ガッポリ稼げます。」

 あ、ガッポリとか言っちゃった。まぁいっか。

「そ・・・そんなことが?」

 気を取り直して、話を続ける。
「長期戦になるかもしれませんが、交渉するのです。我が国とガルーダは、世界第1位と2位の国土を保有する大国です。お互いに国境にある小さな街のことまで、手が行き届きません。」

 残念だという顔で首を振って見せる。

「だからこそ、ガルーダの国境の街と、この州で独自に話をつけるのです。もしも、話がまとまれば、私が陛下に進言します。いかがですか?もちろん、私が先に交渉に出向きましょう。」

 ゴキュ!と、サミュエルがワインを飲みこむ音が響く。

 チラリとサラに見られる。

 視線を戻して続ける。
「魔術師様もいらっしゃるので、供の者も不要です。国境を超えるので一筆書いてくださる事と、馬車などの援助をお願いしたいのです。悪くないお話かと。」

 サミュエルは、字のごとくにポカンとした。

「解りました。ご協力しましょう。」
 州知事が立ち上がる。
 サラは、心の中でガッツポーズをとって、すました笑顔を見せる。

「しかし、失敗するかもしれません。その時はご容赦くださいませ。失敗して戻ってきても、この話は城に持ち帰り、ここの州のことは対策を講じるように陛下に申し上げておくことをお約束します。」

 サラは、州知事に手を伸ばして、握手を求める。
 州知事は立ち上がって、サラの手を取る。

「女神様。我々の為にお考えくださり、ありがとうございます。」

 トントン拍子で話が進んだ。



 要求した馬車には、ガルーダには無い魔道具や魔石、そして剣など、その他装飾品を積んでいく。

 女神らしくジャラジャラと飾りを着けていた髪をかき上げて、無造作にポニーテールにまとめる。
 ポイポイとアクセサリーを外して、適当に片付けて、サラは言った。
「サミュエルさん、魔道具や魔石は好きに選んで良いそうです。選んでおいてください。」
 大量に揃えられた魔石を目の前に、サミュエルが問う。
「・・・・・サラ様、最初からこの作戦ですか?」
 ははっと、サラが笑う。
「まさか!探し人が国外の人だとは、ガルーダ王国の人とは思って無かったし。思い付きです。」

「・・・・・・そら恐ろしいな。。」

「え?」

「本当に上手くいくんですか?」

 サラは、眉間に少しだけ皺を寄せて、唇を噛む。
「・・・・たぶん、貿易の話はダメかも。だけど、州知事が乗ったってことは、ダメもとで話してみます!本当に上手くいけば、この街の為にもなるし。まぁ、私はガルーダに今日だけ入れれば、それでいいので。」


 2人で商人の恰好をして、準備が終わるとすぐに、ガルーダへと向かった。

 国境を超えると、ガルーダ王国から飛竜に乗った2人がやってくる。

「おまえ達が、連絡をよこした使者か?」

 敵国の兵士を見て、緊張が走る。
 サミュエルは、気付かれないように身構える。

 サラはニッコリと笑う。
「そうです!こちらの州知事様、もしくは貿易でお話し出来るかたとの謁見をお願いします。」

 堂々とした振る舞いで、人懐っこく笑ってお辞儀なんかをしている。

 地上に降り立つ兵士たちは、魔術師ではないようだった。
 サミュエルは、ほっとする。

「荷物を検める。」
 そう言って、ガルーダの兵士たちは中身を確認すると、2人とも頷いて案内を始めた。

 道中、サミュエルは悩んでいた。

 サラ様は、良い政治感覚をお持ちだ。
 しかし、無謀過ぎる。本人は全く魔法が使えない。
 あまり遠くまで案内されても困る。テレポーテーションは、サラを抱えて100メートル。何度も繰り返せばいいわけだが、危険すぎる。

 というか、これは止めるべき危機的な状況なのかもしれない。しかし・・・。



「ついたぞ!」
 と言われて案内されたのは、ミカタン州の城塞だった。

 サミュエルは再び安心する。

 よかった。ここなら知っている。おそらくガルーダ王国は、戦争の後で、こちらまで何かを作る余裕ができていないのだ。それに比べて、アーサー王の戦後の処置が早い。国の守りが堅い。

 広い広間に通される。王座のようなところに、20代くらいの若い男性が座っていた。
 サミュエルの言う通り、全員が金髪碧眼。見分けがつかないほどだ。


「よく来た。話を聞こう。」

 部屋の中には、側近と思われる男たちが4人。
 全員武器を所持している。こちらは丸腰だ。
 魔石だけは、サミュエルが持って行く。

「我の名は、カイン・ガルーダと言う。」

 そう、男が名乗った。


 瞬間に、サミュエルは息が止まるかと思った。

 冷たい汗が背中を伝う。


 カイン王太子?!?!


「そこで止まれ」
 兵士に言われて、かなり遠い距離で跪く。

 顔を上げて、ニッコリとサラは笑う。
「本日は、お話を聞いて頂きまして、ありがとうございます。」

 カイン王太子は立ち上がった。

 サミュエルは身構える。

 ひたすらに、冷や汗が、背中を伝い流れていく。


「おい娘。名はなんという?」

 そのまま、サラに近寄ってくる。

「あ、はい。私はサラと・・・申しま・・・。」
 サラが、言葉につまる。
「!?」
 カイン王太子も、驚いた様子を見せた。

「おまえは、あの時の竜の娘だな?」

 サラは、驚いて目を見開く。

 夢で見た。
 飛竜に乗っていた、青年が、目の前にいた。


 この人が、女神の真珠を持っている人だ!!!









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