女神なんかじゃない

月野さと

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21話 ゴードン

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 魔術師のみなさんに移送してもらって、ゴードンさんのいる執務室へ向かう。

「レオン団長は、どうでしたか?」
 書類を片付けながら、ゴードンが聞いてきた。

「・・・へ?あ、ご無事でした。」
 どうしても、赤面して下を向いてしまう。
「?? そうでしたか。あの方も無茶する方なので、団員の様子から心配していたのですが。安心しました。」
「へ?心配してたんですか?」
 ゴードンが、書類から目をは無し、目を細めて私を見る。
「・・・わたくしも人間ですからね。レオン団長とも長い付き合いですから。」

 ・・・この人のポーカーフェイスは、本気でわからん。
 そうか、仕事中なのにすぐに魔法省に行かせてくれたのは、団長の様子を見てきて欲しいってことだったのか。

「今日は、この国の地理を勉強して頂きます。」
 地図やら、農作物やらの特産品など人口やらが書かれた書類を渡される。
「地理が世界情勢を知る近道ですからね。その小さい頭にたたきこんでおいてください。」
「・・・は~い。」
 地理を知る事で、隣国との関係、世界情勢を理解することができると・・・。メモメモ。

 これは、ちょっと地味で時間かかりそうな勉強だなと思う。受験勉強やり直し感が、半端ないけど頑張る。

 そうそう、不思議なのだけれど、こちらの世界の文字が読めるようになってきている。
 まるで、最初から知っていたかのように読める。
 が、しかし、書くのは苦労していて、自然と日本語になる。
 英語を、話せるけど書けない人みたいな感じだ。

 執務室の端っこに机を用意してもらったので、そこでコツコツ勉強を始める。
 ゴードンさんの仕事を見ていると、本当に有能さがわかる。
 きっとアーサーも、こんな風に仕事をしてきたんだなと、照らし合わせてみる。
 王と同じ志、王と同じように見て考えらえる存在。
 ゴードンさんは、まさに右腕だ。

 夢で見た、アーサーの子供の頃を思い出す。

 どんな逆境にも耐えて、きっとこうして勉強してきた?

 同じ志を持った仲間たちと、一緒に命をかけて・・・・。



 この国、ウォステリア国は、一番北の広大な土地を所有してる。トルネ山の奥は雪と氷の世界で、魔獣しか住んでいない。西は海に面していて、東には小国が連なり、南にガルーダ王国がある。


「ガルーダ王国は南の温かい国で、特産品も多く豊かな大地。・・・・なんでこっちに攻めてくるわけ?」
 独り言のようにつぶやく。

 ゴードンは書類の手を止めることなく、答える。
「魔石目当てだと思われます。まぁ、それだけでは無いのでしょうが。」
「魔石?」
「はい。我が国は、魔獣の住む唯一の国であると共に、魔石が豊富にとれる国でもあるのです。また、何故か魔術師が多く生まれる、我が国の魔術師団は世界一と言われています。」

 魔石については、団長から聞いている。

 いわゆる、携帯電話みたいに遠方でも連絡とれたり、結界を張ったり、記録をとったりなど、現代世界で使われている、家電みたいな使い方ができる。

「うーん。」
 パラパラと、歴史と書類に目を通す。

「ガルーダと、貿易はしていないんですか?」

 ゴードンが、手をとめて、サラを見る。
「・・・奪われるか奪うかです。」

「そっかぁ。平和条約を結んで、貿易協定でも組めたらなぁ。」

「貿易協定?」
「うん、国と国としての仲の悪さは仕方ないとしてさ、貿易だけ協定を組んだりするの。」
「どのようにしてです?」
「え・・・それは、まず国同士で戦争をしないっていう平和条約を結ぶの。戦うのではなく、商売するのよ。どちらにも利益があって、飲まざるおえないように仕組む感じで、貿易協定を結べば、争う必要性もないかなって。」
「・・・・。」
 ゴードンは黙り込んだ。
「うーん、あっちは魔石が欲しい。アーサーは何か欲しいものあるかなぁ?あーーーごめんなさい。私には難しいです。もう少し、色々勉強しないとダメだ。」

「・・・・。」
 ゴードンは、良い政治感覚をもっているなと、感心していた。

 ただの小娘だと思っていたが、教養は有ったようだ。




◇◇◇◇◇


それからというもの、ゴードンはサラに様々な教育をした。

早朝から夕方まで。マナー、ダンス、話し方。法律も少しずつ教えた。


サラも必死に勉強した。



「サラ様はリズム感がありますわ。ダンスの飲み込みも早くていらっしゃいます。」

社交ダンスは、楽しかった。

「ダンスと音楽は学校の授業でしかやってないんですけどね~。」

どうやら、意味の無い授業も役に立っていた様子だった。


人生、どこで何の役に立つか分からないものである。


「貴方は、元の世界では貴族だったのですか?」

ゴードンが質問する。

「まさか!私は一般家庭ですよ。というか、身分とか無い社会ですが。」

サラはテルマさんからタオルを受け取って、汗を拭く。


「身分が無い・・・社会?」

ゴードンが不思議そうな顔をする。

「はい。私の国では、身分制度が無いので、努力や能力次第で将来が決まります。だから、私は必至で勉強してたんですけどね。」


「しかし、その教育はどこで?貴族でもないのに教育が受けられるのですか?」

ゴードンは、真剣な顔になっていた。

「あぁ、義務教育という憲法があります。国の全ての子供は、必ず学校に行かなければいけないというものです。教育費は国が支払います。」

どうゆうわけなのか、勉強嫌いな子供が多い気がするけれど。


「素晴らしい!なんと素晴らしい法なんだ!!」

感心したように、ゴードンは目を輝かせた。


「国民が、当たり前のように学べる。それは夢のような世界!民度を上げ治安も一気に良くなる。また、優秀な人材が増えれば、国は豊かに!!そのうえ身分制度もなく、能力で将来を決められるとは!!!まさに楽園!・・・・ゴホン!少々興奮してしまいました。」


・・・・ビックリした。

ゴードンさんが興奮したところ、初めて見たわ。


でも、そうか。

日本という国は、安定した平和な国なんだ。

そこで生まれ育ったのは、本当に幸せなことなのかもしれない。


日本もかつてはそうだった。「女は勉強するな。家事をして子供を産め。」という時代もあったと言うのだから。


そうだ。この世界でも、こうして勉強させてもらえるわけだから、頑張ろう。

この国には奴隷もいるんだ。ここでも、私は恵まれた所にいる!



「サラ様、宜しければ、貴方の世界について話を伺うことは出来ますか?」

「はい!私なんかの知識が役に立つなら!!」



今ある、当たり前は、当たり前じゃなかったという話も含めて。


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