女神なんかじゃない

月野さと

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12話 恋心

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「陛下は、何時ごろ自室に戻られますか?」
 テルマは、ウィルを呼び止めた。
「そうですね。最近は深夜が多いですが。何か?」
 キッ!と真剣な眼差しをウィルに向ける。
「サラ様との、お時間を作って頂きたいのです。」
 基本、のんびり屋のウィルは、意味が分からずに聞き返す。
「・・・サラ様が、そう仰っているのですか?」
「そうです!」
 その会話に、近くを通りかかったゴードンが立ち止まる。
「それでしたら、休憩時間か、よろしければ要件を私がお伝えしましょうか?」
 テルマは、ゴードンにもキッと目を向けて言った。
 男2人は、なんとなく息を飲む。なにか悪いことを言っただろうか?と。
 
「夜のお時間を頂きたいのです!!」
 テルマに、キッパリと言われて、ゴードンとウィルは固まった。

 3秒ほど置いてから、ゴードンは仕事の調整をいたします!と慌てて立ち去った。
 ウィルは、陛下にお伝えしてきます!と足早に行ってしまった。



 その夜、アーサーがサラの部屋へやってきた。

 トントンとノックされる。
「陛下がいらっしゃいました」と言われた。

 もう寝る所だったのか、アーサーはラフな服装で、お風呂上りの石鹸の匂いすらした。
 1ヵ月ぶりに見るアーサーは、少し目の色に疲れが出ていた。

「サラ、話があるそうだな。どうした?元気にしていたか?」
 ふわりと笑って見せるアーサーに、ドキドキする。

 話があるとは言ってないのに・・・と、テルマさんを見ると、女官たちもウィルさんも、全員さささっと退出して行った。

 2人きりになって、なんか緊張してしまう。

 もじもじする、私をよそに、アーサーは、ソファーに深く腰かけて、置いてあったワインに口をつける。ふうと、湿ったため息をついた。
「アーサー大丈夫?疲れてるみたい。」
 彼は、目を細めて微笑んだ。
「あぁ、大丈夫だ。王が交代したばかりだからな、こんなものだろう。」
 ワインを口にしながら、視線を向けられる。
「どうした?」
 うーー、何か言わなきゃ。とりあえず、アーサーの隣に行って、座る。
 隣に座って、まじまじと彼を見る。
 そんな私を見つめて、どうした?と聞くように顔を傾けて、私を見た。その仕草が、子供をあやすように見えて、くすぐったくなってしまう。

「・・・っ」
 突然、こめかみを押さえる仕草をした、アーサーに手を伸ばす。
「頭痛い?」
「少しな・・・。眠れば良くなる。」

 そっと、アーサーの頬に触れると、彼がこちらを見たので、そのまま口づける。
 アーサーは驚いて、目を見開いた。

 少し、思いついた。
 セックスで魔力を与えられるなら、キスでも可能なのでは?と。
「サラ・・・」唇を離して、言いかけたアーサーに、もう1度キスをする。さっきよりは、少し長め。
 唇を離して、顔色を伺う。
「さっきよりも顔色が戻ってる。魔力、戻った?」

 私が聞くと、アーサーは眉をひそめた。
「魔力の事を聞いたのか?・・・レオンだな?」
「うん。・・・もしかしたらキスでも良いのかもって思って。」
 真剣な顔で、アーサーはサラの肩に手を置いた。
「サラ。私はお前を、こんなふうに利用したくない。お前は元の世界に帰る身だ。自分を大事にしろ。」

 以前は、キス1つで泣いていたサラが、今では挨拶をするようにキスをする姿に、アーサーは少しショックを受けた。
 そんな事とも知らずに、サラは、アーサーが自分の事を気づかってくれるのを、喜んでいた。

 久しぶりに、アーサーに会って気づく。
 この美しくて優しい、この人が好きだって。

「私、アーサーの力になりたい。私にできることがあるなら。言って。」
 ぎゅう!と抱き着いて、耳を胸に当てる。アーサーの鼓動が聞こえてくる。手は冷たいけど、心は温かい人。これは、夢じゃない。この人は、現実に存在するんだ。そのことを体で感じるように、彼を抱きしめる。
 
 少しの間があってから、アーサーは、サラを抱きしめ返してくれた。
「ありがとう、サラ。もう充分だ。」
 ポンポンと、頭を撫でられる。
 それから、アーサーの顎が頭に乗せられる。グリグリとされるがままで、私も目を閉じて彼の胸に頬を擦り寄せる。そのまま、お互いの体温を感じながら、何も言わずに、くっついていた。
 とても落ち着く。

 好き。やっぱり好き。

 でも、何故なのか、夢のように思えてしまう自分がいる。
 今、この瞬間すらも、長い長い夢を見ていて、いつか元の世界に戻るんだと、そんな気がしている。
 この不思議な、異世界へのトリップに、サラはまだ実感が無かった。

 これが夢だったら、嫌だ。
 そう思うと、寂しくなってしまって、顔を上げてアーサーを確認する。
 彼の顔を両手で覆う。
 夢なんかじゃない。この人の存在も、私のこの感情も。

 自分から、キスをする。
 アーサーの唇は柔らかくて、ワインの味がした。

 ソファーの背もたれに、彼を押し付けて、必死でキスをする。
 ドクン、ドクン、ドクン、と自分の心臓が脈打つのがわかる。 
 アーサーは目を細めて、サラに答えるように、キスを返した。
 もう、堪らなくなって、抱き合って何度も何度も、高ぶる感情のままにキスを交わす。
 
 アーサーが傍にいると、それだけで安心してしまう。
 その爽やかで甘い、優しい香水の香りも好き。

 本当は、いつも一緒に居てほしい。

 ずっと一緒にいたい。

 そう思った。






◇◇◇◇◇

 

 翌日、ゴードンとウィル、テルマ、レオン団長まで加わり、こそこそと話し合っていた。

 ゴードンが言う。
「昨日は一緒に眠っただけだと?!何もなかったのか」
「はい、サラ様はよく眠れたとお元気でした。」
 レオン団長が、悪そうな顔つきをする。
「かくなる上は・・・・私が媚薬を用意しましょう。」
「悪の魔術師!なんとあくどい!」
「テルマ、これは国の為です!」
 ゴードンがフォローをする。
「そうですわね!ここは私たちで頑張りましょう!」
「私は、そこまでしなくてもと・・・」
「ウィル様、甘いですわ!」

 そうして、どこか楽し気な4人組は、ちりじりに持ち場へと去って行く。



 そこに、怪しい影がいたことに気が付かずに。


 
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