女神なんかじゃない

月野さと

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5話

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 紗良は、家に帰宅したところだった。
 制服姿のまま、リビングのソファにダイブした。
 珍しく母親が居た。

「おかえり、紗良。ちょっと話があるんだけど。」
 少し言いずらそうに母親が言う。

「・・・・何?」
「あのね、突然で驚くと思うんだけど、お母さんね、再婚を考えてる人がいるの。」
 あ、言うんだ。
「いいんじゃない?」
 顔を赤らめる母の顔など、見たくもなかった。そっぽを向く。
「それでね・・・。」
「私、ここで1人で暮らしたらダメかな?」
「え?・・・でも、だって・・・」

 戸惑う母親を、横目に続ける。
「ごめん。海外に行くんだよね?この前、マンションの下で男の人と話してるの聞いちゃったんだ。私、行きたい大学もあるんだ。でもね、お母さんには、幸せになってもらいたいから!だから、私・・・・。」

「紗良?!!!」

 母親が、大声を上げたので、振り向く。

 その時、突然、視界が白くなった。

 周囲が真っ白になって、強い光に包まれる。



 え?

 目の前には、大きな惑星が現れる。
 紗良は、宙に浮いていた。

 そのまま何かに引っ張られるように、白い煙に吸い込まれる。


 誰かの声が、聞こえてくる。 

『汝、我が願いを聞き届けたまえ。女神よ姿をあらわし地上を照らしたまえ』

 
 ・・・?
 たくさんの人が見えてくる。



 その真ん中、魔法陣の中に、着地した。


「おおおおお!!!!!」
 大勢の人たちに囲まれて、大きな声を出されて、固まる。


 周囲を見渡すと、変な服装の人たちばかり。


 え?
 なにこれ?ここどこ?



 その中に、見覚えのある人を見つけた。
 金髪で青い目。目を大きく開けて、私を見てる。
 アーサーの隣にいた、アドルフ皇太子が紗良に話しかける。

「女神・・・・?本当に?」
 ゆっくりと、紗良の前に歩み寄ってくる。かなりの大男で、後ずさりする。
「確かにあの時の娘だ。女神よ、私はアドルフと申します。私と共にこの国を統べましょう。」

 紗良に差し伸べられた手。
 突然の事に、紗良は困惑した。

 とても、相手の話を聞いている余裕が無かったし、大勢の人に囲まれて、異様な雰囲気に恐怖を感じた。様々な男たちの匂い、好奇の目。助けを求めるように、アーサーを見つめて、一直線に駆けだす。

 アーサーは、一心不乱に駆け寄る紗良に向かって、反射的に手を広げる。
 思いっきり抱き着いて、紗良は顔をうずめた。

 アーサーの、生身の体と温かさがあった。
 胸板は固く広かった。ほのかに優しい香りすらした。


 その姿を見て、ゴードンが大きく息を吸い込んで言う。
「女神降臨に成功しました。また、この通り、女神様はアーサー殿下をお選びに!」
 ゴードンのその顔には、冷や汗が凄かった。
 すかさず、ウィルも叫ぶ!
「まさに、あの時の女神様だ!!我が国の次期国王をお選びになった!!」
 急に大歓声が上がる。

 アーサーは、そっと自分のマントを紗良にかける。あまりの状況に私は震え上がった。
 その事に気が付いたアーサーは、紗良を軽々と抱き上げる。生まれて初めて、お姫さま抱っこというものをされた。
「女神は、地上に降り立ったばかり、我が宮でゆっくりとお休みいただく。本日の会議は、これにて閉廷にしようではないか。議長!」
「あ、、はい。そうですな。この件については、元老院によって、引き続き話し合う事にいたします。」
 議長は急に丁寧な言葉使いになる。


 アーサーが、さっさと退場する姿を、その場の全員が見守る。
 広場では、「アーサー殿下万歳!」と次々と響き渡っていた。



 ・・・ここ・・・・どこ???
 なんか、いかつい大男ばっかりで、すっごく怖い。
 呆然と、流れていく景色に目をやりながら、アーサーにしがみついていた。

 馬車に揺られて、大きなお城につく。
「すっごい、大きいお城・・・・」
「私の宮だ。とりあえず、着替えが必要だな。そのハレンチな恰好は見ていられない。」
「え?!ハレンチ?って、制服だよ!!」
「ほう・・・これが制服??信じられん。妓女でも、もう少しまともな服を着よう。」
「なんか複雑。前も、夢で会った時にこの服だったけどな。」
「夢の中の話だろう?現実では見てられん。」
 もう!この人は、相変わらず淡々と話すなぁ。

 そんな事を話していると、執事のような人や、メイドのような人が近寄ってくる。
「殿下、おかえりなさいませ。」
 全員が、ビシっと整列して、頭を下げる。
「この娘の着替えを頼む。それからゴードンが後から来るはずだ。執務室へ入れてくれ。」
 次々と指示を受けて「かしこまりました。」と動きだす女性たち。

 アーサーは、カツカツと階段を上がって行こうとする。

「アーサー!」
 紗良が呼びとめると、その場に居た全員が息を飲んだ。第一王子であるアーサーを、呼び捨てにする人間を始めて見たので、全員が息を飲んだのである。
 アーサーは、紗良を見て顔色一つ変えずに返事をした。
「どうした?」
 急な事の連発で、アーサーと離れるのが、不安だなんて・・・なんか言えない。
「あの、えっと・・・アーサーは、どこに行くの?」
 もじもじと質問をすると、すぐにアーサーは紗良の傍に歩み寄る。
「大丈夫だ。着替えてから、私の所に来なさい。」
 そう言って頭を撫でられた。
 ふわりと、甘い香りが漂った。柑橘系のような爽やかで甘い、何か香水を使っているのだろう。

 夢とは違う。生身の人間なんだと実感する。




 アーサーの後ろについてきたウィルが、紗良が見えなくなるのを確認してから言う。
「本当に会っていたんですね。まだ信じられません。」
「私もだ。まさか本当に実在するとは・・・。」
「しかも、呼び捨て・・・まずくないですか?」
 フフ、とアーサーは笑った。
「女神なんだろ?この国では別格の地位だ。呼び方などどうでも良い。」
「・・・・殿下、あの娘が好きなんですね。」
「え?」
 本当に思いもよらなかった発言に、振り返る。
 ウィルは、ニコニコと微笑んで言う。
「あの娘を見る目が、やたら柔らかいですよ?それに楽しそうです。」
「・・・・」
 一瞬、絶句する。
「く、くだらん事を言ってないで、お前は明日の準備に行け!」


 アーサーは、思った。
 自分自身、サラの出現に動揺が隠せない。
 夢の中の不思議な娘。
 自分とは全く違う考え方をする娘。

 話していて、楽しかったのは確かだった。






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