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相応しい女
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ボーーっと、温室の水やりをする。
全てが夢だったかのような、なんだか嵐のような一夜だったと思う。
何も考えたくなくて、周囲の草花を見て回る。
あぁ、こんなのが植えてあったんだな。とか、こんな所に芽が出てるな、とか、目が見えるということは、こんなにも情報が多くて、気を紛らわせることが出来るのだと、しみじみ思ってみる。
それに、目が見えないだけで、内向的になっていた気がする。行動範囲も考え方までも狭くなっていたようだった。
そんな事を考えていると、誰かがこちらに向かって、歩いて来るのが見えた。
遠くても解る。逞しく大きな男。
クレイン騎士団長だ。
彼はフィオナの前までやってくると、神妙な顔つきで言った。
「少しお話、よろしいでしょうか?」
なんだろう?特に話す事など無いのだけれど……まさか、私に陛下の事は諦めろとか、トドメを刺しに来た??そんなの充分理解してますから!
「話すことは有りません!」
ハッキリ断ると、クレインは面食らった。が、たじろぎながらも再度言った。
「あ、いえ…少々お時間を、頂きたいのです。」
「ですから、嫌です!!」
「あーー…、解りました!命令です。話を聞きなさい!」
「……はい。」
仕方が無いので、あまり人が来ない所まで2人で歩いた。
クレイン騎士団長が、立ち止まり、私の方をジッと見つめると、口を開いた。
「単刀直入に申し上げますが、あなたは陛下と共に生きる覚悟はございますか?」
「…………へ?」
想像していた話とは違って、フリーズする。
そして、ついこの間とは話し方が変わっていて、丁寧な話し方になっているのが気になる…。
しかし、お構いなしでクレインは話を続けた。
「我が国の王妃となり、国を支える覚悟はあるかと質問しているのです。」
‥‥‥‥ある、わけがない!!!
当たり前でしょう?と怒りそうになる。
もう、いい加減にして欲しかった。トーマス書記官の言う通り、私は相応しくない!ジェットコースターのように感情を動かされて、様々な人に振り回されている!もう、そっとしておいて欲しい!!
「考えた事もありません。ご存じの通り、私は魔術師団員として、暗殺を謀っていたのですよ?」
クレインは、その言葉に眉をひそめて言い返す。
「えぇ。しかし、貴方は国を裏切ってまで、陛下の考えに賛同し、陛下をお守りした。今朝も、陛下の為に身を引いた。違いますか?」
「わ、私はっ……というか、だったら何だって言うんです?」
「あなたが、本気ならば、お力添えしましょう。」
「…何を言ってるんですか?」
もう、本当に、みんなで色々言ってきて、わけがわからない。
「陛下は、本気です。」
「……」
その言葉に、ズキンと胸が痛む。
確かに、エヴァンは本気だった。本当に私のことを連れて帰ろうとしてた。それが、本当に嬉しかった。
黙り込んだフィオナに、クレインは続けて言った。
「陛下は、貴方を手に入れる為に、リヴェリアを落としたんですよ。貴方を縛り付けている全てのモノから解放するために!」
!!?
私の‥‥ため?
「貴方の政治思想は、我々と同じと捉えています。違いますか?」
クレインは挑戦的な目を、フィオナに向ける。
「貴方には、スパイとして完璧に演じられる、あらゆる教養がある。その全ての知識を、陛下と我が国の為に使うのです!」
「!……でも!」
今までしてきたことは…。
「ご心配なく。貴方と体の関係を持った男は、全員この世に別れを告げています。そして、知る者は全員、記憶を消しました。」
クレインは、リヴェリア魔術師団の1人1人に“正誓の印”をかけ、全て聞き出し、時には死刑にし、時には記憶を消し、地道な作業を続けて来た。フィオナが体を張って騙した悪人は、ほぼ既に斬首刑になっており、生きていなかったので手がはぶけたが、業務過多で倒れそうな日々であった。
そして、いつしか、フィオナの過去を知っていくうちに、敵意と嫌悪が薄れていた。
「……このこと、知っているのは私と陛下だけです。トーマスも貴方の過去の詳しい仕事内容は知らない。」
フィオナは、クレインの言葉を、ただただ、信じられないという顔で見つめて聞いていた。
「貴方を縛るものは、何も無いのです。」
それは、私が自由だということ。
心のままに、思う場所に行って良いということだった。
「あなた次第です。いかがしますか?」
真剣な顔で言う、クレイン騎士団長の目を見つめる。
私を縛り付ける過去は、無かった事にしてくれたと言う。
それは世間に対しての偽りではある。けれど、もう気にしなくて良いということ。その代わりに、私にエヴァンの為に働けと言っているのだ。私が持っている全ての能力を、彼の為に使えと。死ぬまで、エヴァンの為に生きろと。そんなこと…そんなことならば、出来る。ううん、むしろ、望んでするよ!
だけど、エヴァンが自分の為に働けと言うはずが無い。つまりは、クレイン騎士団長が、私に求めているのはそれだということ。
助けてやるから、エヴァンに忠誠を誓えと。
凄い。エヴァンの腹心の部下は、確かに信用のできる男だ。
だけど、本当に私で良いのかな?
矛盾する気持が、邪魔をする。
クレイン騎士団長は言う。
「相応しいかどうかは、あなたの決めることではない。他人が決めること。考えるだけ無駄です。」
…なかなか、キツイ事を言う。
でも、そっか。
あとは、私が決断するだけ。
私の覚悟だけ。
そんなの、決まってる。
エヴァンの為なら、何だってする。
「…」
今、決めたら、もう引き返せない。
ずるい私は、ロイド隊長を思い出してしまう。彼と一緒に生きていくことを、一瞬でも考えた。
きっと、誰も傷つけず、誰も巻き込まず、このままで生きていける。お似合いといえば、そうなんだ。分相応。
別に、目の見えるようになった今、一人でだって生きていける。
だけど‥‥。
あの人を愛している。
極力、争いを避けて、人を傷つけたくないと願う優しい人。
『全ては私のエゴだ』そんな風に言って、自分の責任からも、真実からも決して逃げたりしない人。
『おいで。一緒に行こう。』
うん。
行ってみようか。
私の本気が、私の全力が、どこまで行けるのか分からないけれど。
あなたが、信じてくれるなら。
全てが夢だったかのような、なんだか嵐のような一夜だったと思う。
何も考えたくなくて、周囲の草花を見て回る。
あぁ、こんなのが植えてあったんだな。とか、こんな所に芽が出てるな、とか、目が見えるということは、こんなにも情報が多くて、気を紛らわせることが出来るのだと、しみじみ思ってみる。
それに、目が見えないだけで、内向的になっていた気がする。行動範囲も考え方までも狭くなっていたようだった。
そんな事を考えていると、誰かがこちらに向かって、歩いて来るのが見えた。
遠くても解る。逞しく大きな男。
クレイン騎士団長だ。
彼はフィオナの前までやってくると、神妙な顔つきで言った。
「少しお話、よろしいでしょうか?」
なんだろう?特に話す事など無いのだけれど……まさか、私に陛下の事は諦めろとか、トドメを刺しに来た??そんなの充分理解してますから!
「話すことは有りません!」
ハッキリ断ると、クレインは面食らった。が、たじろぎながらも再度言った。
「あ、いえ…少々お時間を、頂きたいのです。」
「ですから、嫌です!!」
「あーー…、解りました!命令です。話を聞きなさい!」
「……はい。」
仕方が無いので、あまり人が来ない所まで2人で歩いた。
クレイン騎士団長が、立ち止まり、私の方をジッと見つめると、口を開いた。
「単刀直入に申し上げますが、あなたは陛下と共に生きる覚悟はございますか?」
「…………へ?」
想像していた話とは違って、フリーズする。
そして、ついこの間とは話し方が変わっていて、丁寧な話し方になっているのが気になる…。
しかし、お構いなしでクレインは話を続けた。
「我が国の王妃となり、国を支える覚悟はあるかと質問しているのです。」
‥‥‥‥ある、わけがない!!!
当たり前でしょう?と怒りそうになる。
もう、いい加減にして欲しかった。トーマス書記官の言う通り、私は相応しくない!ジェットコースターのように感情を動かされて、様々な人に振り回されている!もう、そっとしておいて欲しい!!
「考えた事もありません。ご存じの通り、私は魔術師団員として、暗殺を謀っていたのですよ?」
クレインは、その言葉に眉をひそめて言い返す。
「えぇ。しかし、貴方は国を裏切ってまで、陛下の考えに賛同し、陛下をお守りした。今朝も、陛下の為に身を引いた。違いますか?」
「わ、私はっ……というか、だったら何だって言うんです?」
「あなたが、本気ならば、お力添えしましょう。」
「…何を言ってるんですか?」
もう、本当に、みんなで色々言ってきて、わけがわからない。
「陛下は、本気です。」
「……」
その言葉に、ズキンと胸が痛む。
確かに、エヴァンは本気だった。本当に私のことを連れて帰ろうとしてた。それが、本当に嬉しかった。
黙り込んだフィオナに、クレインは続けて言った。
「陛下は、貴方を手に入れる為に、リヴェリアを落としたんですよ。貴方を縛り付けている全てのモノから解放するために!」
!!?
私の‥‥ため?
「貴方の政治思想は、我々と同じと捉えています。違いますか?」
クレインは挑戦的な目を、フィオナに向ける。
「貴方には、スパイとして完璧に演じられる、あらゆる教養がある。その全ての知識を、陛下と我が国の為に使うのです!」
「!……でも!」
今までしてきたことは…。
「ご心配なく。貴方と体の関係を持った男は、全員この世に別れを告げています。そして、知る者は全員、記憶を消しました。」
クレインは、リヴェリア魔術師団の1人1人に“正誓の印”をかけ、全て聞き出し、時には死刑にし、時には記憶を消し、地道な作業を続けて来た。フィオナが体を張って騙した悪人は、ほぼ既に斬首刑になっており、生きていなかったので手がはぶけたが、業務過多で倒れそうな日々であった。
そして、いつしか、フィオナの過去を知っていくうちに、敵意と嫌悪が薄れていた。
「……このこと、知っているのは私と陛下だけです。トーマスも貴方の過去の詳しい仕事内容は知らない。」
フィオナは、クレインの言葉を、ただただ、信じられないという顔で見つめて聞いていた。
「貴方を縛るものは、何も無いのです。」
それは、私が自由だということ。
心のままに、思う場所に行って良いということだった。
「あなた次第です。いかがしますか?」
真剣な顔で言う、クレイン騎士団長の目を見つめる。
私を縛り付ける過去は、無かった事にしてくれたと言う。
それは世間に対しての偽りではある。けれど、もう気にしなくて良いということ。その代わりに、私にエヴァンの為に働けと言っているのだ。私が持っている全ての能力を、彼の為に使えと。死ぬまで、エヴァンの為に生きろと。そんなこと…そんなことならば、出来る。ううん、むしろ、望んでするよ!
だけど、エヴァンが自分の為に働けと言うはずが無い。つまりは、クレイン騎士団長が、私に求めているのはそれだということ。
助けてやるから、エヴァンに忠誠を誓えと。
凄い。エヴァンの腹心の部下は、確かに信用のできる男だ。
だけど、本当に私で良いのかな?
矛盾する気持が、邪魔をする。
クレイン騎士団長は言う。
「相応しいかどうかは、あなたの決めることではない。他人が決めること。考えるだけ無駄です。」
…なかなか、キツイ事を言う。
でも、そっか。
あとは、私が決断するだけ。
私の覚悟だけ。
そんなの、決まってる。
エヴァンの為なら、何だってする。
「…」
今、決めたら、もう引き返せない。
ずるい私は、ロイド隊長を思い出してしまう。彼と一緒に生きていくことを、一瞬でも考えた。
きっと、誰も傷つけず、誰も巻き込まず、このままで生きていける。お似合いといえば、そうなんだ。分相応。
別に、目の見えるようになった今、一人でだって生きていける。
だけど‥‥。
あの人を愛している。
極力、争いを避けて、人を傷つけたくないと願う優しい人。
『全ては私のエゴだ』そんな風に言って、自分の責任からも、真実からも決して逃げたりしない人。
『おいで。一緒に行こう。』
うん。
行ってみようか。
私の本気が、私の全力が、どこまで行けるのか分からないけれど。
あなたが、信じてくれるなら。
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