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思い出
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クレインが知らせにやってきた。
「陛下。オスカー殿下が、城に滞在されるそうです!」
「!兄上が?」
驚き、嬉しさのあまり、立ち上がる。
結婚式や祝賀会には、参席することすらできず、こっそりと祝いの言葉だけでもと来てくれた兄。
数年ぶりに兄と会って、城に滞在するように話しても断られ、食事を共にしようと説得しても兄は首を縦には振ってくれなかった。
これっきり、もう二度と兄上とは話しをすることも、もう会う事も無いのだろうと悟った所だった。
「そうだ!部屋は一番広い貴賓室を準備しろ!それから、少し遅くなっても構わないから、最上級のフルコース料理を準備させろ!それで、兄上は?今どこに?」
興奮気味に言うと、クレインは複雑な顔で答えた。
「王妃様と、ご一緒です。」
一瞬、時が止まる。
「・・・何?」
「王妃様が、オスカー殿下と食事がしたいと引き止め、説得されたそうです。部屋も一番良い部屋をと、女官長に伝えたそうで、貴賓室に荷物をお運びいたしました。今は、お二人で城の屋上におられます。」
エヴァンは、絶句した。そして、とりあえず執務室を出て、屋上に向かった。
お城の屋上に出ると、話し声と、笑い声がした。
笑いながら、セシリアが質問する。
「じゃぁ、陛下とクレイン団長が本気で喧嘩したら、陛下は負けちゃうんですか?」
「クレインは、この国で1番強い魔力を持っているのです。彼に敵う者はいない。幼少期のエヴァンは、負けず嫌いで、分かっていても毎日のようにクレインに仕掛けては、なぎ倒されて。もはや、戯れているようにしか見えず、本当に可愛かった。」
「ふふっ。それは私も見たかったですわ。でも、そうやって陛下は日々鍛錬されていったのですね。」
オスカー殿下が、頷いて微笑む。
「今では立派な国王になり、戦は全勝。見事な戦いぶりだと聞き及びます。」
「諸外国から、恐れられてますしね…」
悪魔のような噂とは違っても、エヴァンの強さは明らかだ。私が陛下と正面から戦ったら、どうなるか。勝算はあるか、分からない。
エヴァンの子供の頃の話を聞くと、どんどん出て来る。幼い頃の悪戯や、お城を抜け出したこと。一緒に眠ていた事など。そして、その懐かしい思い出を、全て嬉しそうに話してくれた。
空を見上げると、周囲は少しづつ着実に太陽が沈もうとしていて、空が赤い色に変化していく。そんな空を見上げながら、フィオナは聞いた。
「城を追われ、弟に全てを奪われたと、卑屈に思われなかったのですか?」
フィオナの、率直な疑問だった。率直過ぎた質問だった。
でも、人間なのだから僻んだり恨んだりする。理不尽なことに出会えば怒りも感じる。もし、私だったら。
「私だったら、きっと、どうして私が、こんなめに合わなければいけないのか?どうして、こんな風に産まれてきたのかと、悩み苦しみ、恨むと思います。」
オスカー殿下は、まじまじと私を見つめてから、フワッと首を傾げて、微笑んだ。
「そうですね。そんなふうに思うのが、むしろ普通でしょう。けれど・・・弟は、子供の頃から泣き虫だったんです。魔力もそこそこ強くて、なんでも上手くこなすように見えて、人を傷つける力を恐れ、負けては泣き、失敗しては泣く。友人が苦しんでいると、貰い泣きをする。」
驚いて、オスカー殿下の目を見つめる。そんな、私の顔を見て、おかしそうに笑う。
「10歳までの弟は、私の部屋に来ては、よく泣いていました。」
「…意外です。驚きました。」
殿下は、頷いて見せてから言った。
「私の中で、弟はあの日のまま…私に甘えて、慕ってくれる弟を、憎んだり僻んだり、そんな気持ちは沸かなかった。むしろ、守ってやりたくて、可愛くてしかたがなかった。」
そう言ってから、オスカー殿下は、悲しそうに眉をひそめた。
「しかし、当時の私は、日を追うごとに進退きわまっていき、厳しい状況でした。兄として、何もしてあげられない、守ってやれない悔しさは、ありましたね。」
フィオナは思った。
やっぱり、兄弟なのだなと。
「・・・守ってあげられたのでは、ないですか?」
「え?」
たぶんだけど。
「陛下の、優しい部分を、失わせることなく守ってあげれたのは、オスカー殿下の存在だったのかなと。今の陛下があるのは、きっと、オスカー殿下のおかげなのかもしれないですね。」
私は、私には、そんな存在は無かった。
大切な存在など無い。だから、過去を思い出したりすることも無い。だから、恨んだり後悔することも無い。
ただただ、前を見て、前に進んで来た。
親の顔も覚えていない。兄妹はいるのかすら知らない。終わったことだからだ。過ぎ去ったことだからだ。未来にしか、望みを見出せないからだ。
常に前を見て、常に先のことを考える。
だから、泣いたことなんて1度も無い。今まで、1度も・・・無かったのに。
「そうか。それは良かったことなのだろうか?」
「えぇ。良かったのだと思います。」
「弟は、陛下は、優しいかい?」
「・・・えぇ。とても。優しい方だと思います。オスカー殿下、ありがとうございます。」
「え?何が?」
「色々とお話して頂いて。」
「ふふ。では、もっと教えてあげましょう。弟の弱点とか」
?弱点?
「それは・・・是非、教えてくださいませ!!」
「じゃぁ、誰にも言ってはいけないですよ?実は、エヴァンは芋虫が・・・」
「兄上!!!!!」
突然、後ろから大きな声が響く。
驚いて振り向くと、そこにはエヴァンが立っていた。
「陛下。オスカー殿下が、城に滞在されるそうです!」
「!兄上が?」
驚き、嬉しさのあまり、立ち上がる。
結婚式や祝賀会には、参席することすらできず、こっそりと祝いの言葉だけでもと来てくれた兄。
数年ぶりに兄と会って、城に滞在するように話しても断られ、食事を共にしようと説得しても兄は首を縦には振ってくれなかった。
これっきり、もう二度と兄上とは話しをすることも、もう会う事も無いのだろうと悟った所だった。
「そうだ!部屋は一番広い貴賓室を準備しろ!それから、少し遅くなっても構わないから、最上級のフルコース料理を準備させろ!それで、兄上は?今どこに?」
興奮気味に言うと、クレインは複雑な顔で答えた。
「王妃様と、ご一緒です。」
一瞬、時が止まる。
「・・・何?」
「王妃様が、オスカー殿下と食事がしたいと引き止め、説得されたそうです。部屋も一番良い部屋をと、女官長に伝えたそうで、貴賓室に荷物をお運びいたしました。今は、お二人で城の屋上におられます。」
エヴァンは、絶句した。そして、とりあえず執務室を出て、屋上に向かった。
お城の屋上に出ると、話し声と、笑い声がした。
笑いながら、セシリアが質問する。
「じゃぁ、陛下とクレイン団長が本気で喧嘩したら、陛下は負けちゃうんですか?」
「クレインは、この国で1番強い魔力を持っているのです。彼に敵う者はいない。幼少期のエヴァンは、負けず嫌いで、分かっていても毎日のようにクレインに仕掛けては、なぎ倒されて。もはや、戯れているようにしか見えず、本当に可愛かった。」
「ふふっ。それは私も見たかったですわ。でも、そうやって陛下は日々鍛錬されていったのですね。」
オスカー殿下が、頷いて微笑む。
「今では立派な国王になり、戦は全勝。見事な戦いぶりだと聞き及びます。」
「諸外国から、恐れられてますしね…」
悪魔のような噂とは違っても、エヴァンの強さは明らかだ。私が陛下と正面から戦ったら、どうなるか。勝算はあるか、分からない。
エヴァンの子供の頃の話を聞くと、どんどん出て来る。幼い頃の悪戯や、お城を抜け出したこと。一緒に眠ていた事など。そして、その懐かしい思い出を、全て嬉しそうに話してくれた。
空を見上げると、周囲は少しづつ着実に太陽が沈もうとしていて、空が赤い色に変化していく。そんな空を見上げながら、フィオナは聞いた。
「城を追われ、弟に全てを奪われたと、卑屈に思われなかったのですか?」
フィオナの、率直な疑問だった。率直過ぎた質問だった。
でも、人間なのだから僻んだり恨んだりする。理不尽なことに出会えば怒りも感じる。もし、私だったら。
「私だったら、きっと、どうして私が、こんなめに合わなければいけないのか?どうして、こんな風に産まれてきたのかと、悩み苦しみ、恨むと思います。」
オスカー殿下は、まじまじと私を見つめてから、フワッと首を傾げて、微笑んだ。
「そうですね。そんなふうに思うのが、むしろ普通でしょう。けれど・・・弟は、子供の頃から泣き虫だったんです。魔力もそこそこ強くて、なんでも上手くこなすように見えて、人を傷つける力を恐れ、負けては泣き、失敗しては泣く。友人が苦しんでいると、貰い泣きをする。」
驚いて、オスカー殿下の目を見つめる。そんな、私の顔を見て、おかしそうに笑う。
「10歳までの弟は、私の部屋に来ては、よく泣いていました。」
「…意外です。驚きました。」
殿下は、頷いて見せてから言った。
「私の中で、弟はあの日のまま…私に甘えて、慕ってくれる弟を、憎んだり僻んだり、そんな気持ちは沸かなかった。むしろ、守ってやりたくて、可愛くてしかたがなかった。」
そう言ってから、オスカー殿下は、悲しそうに眉をひそめた。
「しかし、当時の私は、日を追うごとに進退きわまっていき、厳しい状況でした。兄として、何もしてあげられない、守ってやれない悔しさは、ありましたね。」
フィオナは思った。
やっぱり、兄弟なのだなと。
「・・・守ってあげられたのでは、ないですか?」
「え?」
たぶんだけど。
「陛下の、優しい部分を、失わせることなく守ってあげれたのは、オスカー殿下の存在だったのかなと。今の陛下があるのは、きっと、オスカー殿下のおかげなのかもしれないですね。」
私は、私には、そんな存在は無かった。
大切な存在など無い。だから、過去を思い出したりすることも無い。だから、恨んだり後悔することも無い。
ただただ、前を見て、前に進んで来た。
親の顔も覚えていない。兄妹はいるのかすら知らない。終わったことだからだ。過ぎ去ったことだからだ。未来にしか、望みを見出せないからだ。
常に前を見て、常に先のことを考える。
だから、泣いたことなんて1度も無い。今まで、1度も・・・無かったのに。
「そうか。それは良かったことなのだろうか?」
「えぇ。良かったのだと思います。」
「弟は、陛下は、優しいかい?」
「・・・えぇ。とても。優しい方だと思います。オスカー殿下、ありがとうございます。」
「え?何が?」
「色々とお話して頂いて。」
「ふふ。では、もっと教えてあげましょう。弟の弱点とか」
?弱点?
「それは・・・是非、教えてくださいませ!!」
「じゃぁ、誰にも言ってはいけないですよ?実は、エヴァンは芋虫が・・・」
「兄上!!!!!」
突然、後ろから大きな声が響く。
驚いて振り向くと、そこにはエヴァンが立っていた。
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