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祝賀会
しおりを挟む祝賀会の会場には、国内の貴族達が集まっていた。
フィオナは、涼しい顔をしながらも、内心では戸惑い困惑していた。
さっきは、なんとか、魔法を使ったことを誤魔化せた。
しかし、自分以外の誰かがエヴァンを狙っている。いったい誰なのか?
いや、誰でも良い!それよりも、自分は何故、あの時、エヴァンを守ってしまったのか?もう、本当に自分が自分で分からない!放っておけば良かったのだ。そうすれば、自分が手を下す必要も無いし、正体を明かしてしまいそうにならずに済んだ。
とにかく!これ以上の失態は、敵地では身も危険だ。
再度、暗殺を実行するべく、体制を立て直し、相手の様子を伺おう。
次の暗殺の機会を待とう。
一呼吸ついてから、真っ直ぐに目の前を見つめる。
多くの貴族たちが一斉に、こちらを見ている。これが、セシリア王妃としての、初めての社交の場となる。
ウオッホン!と、咳払いをして、お爺さんが立ち上がる。
「これより、神の祝福とともに、この宴を開かせていただきます。陛下と王妃陛下の栄光を称え、共に祝いましょう。今宵は我が王国の栄光の日であり、心ゆくまで楽しみ、神とともに祝杯を挙げましょうぞ。」
全員がグラスを掲げて乾杯をする。
横に長いテーブルが並び、中央に王と王妃が着席する。その両隣には王族が順番に着席し、対面の席には筆頭侯爵家、国の政を左右させるような大貴族たちが順番に鎮座する。国にとって重要な貴族の順番で席が設けられているらしい。
侍女たちからは、普通に会話を楽しむ程度で大丈夫だと言われている。それにこちらの調べでは、セシリア王女は自ら話しをふるような性格ではない。静かに微笑んで、何か聞かれたら、当たり障りなく返答する。そんな感じで良いはずだ。
貴族たちの紹介の後、会食が始まって、見たことも無いような高級料理が運ばれてくる。少しだけ口に入れたシャンパンも、とても美味しかった。
チラリと、エヴァンに視線を移すと、彼もすぐに気がついて、私の方に目を落とす。
「この料理は、初めて見るだろう?この国では祝いの席に出て来る、定番の伝統料理だ。こうして食べる。」
小さい声で、そう言うと、サッとナイフで切って開いて食べて見せる。その仕草がとても美しくて、見惚れてしまう。せっかく教えてもらったので、真似をして食べてみる。
とても美味しい!!
思わず微笑むと、エヴァンも満足そうに微笑んだ。
すると、斜め前に座っている侯爵が話しかけて来た。
「陛下。王妃陛下と仲睦まじい様子で、安心致しました。人種も文化も違いますれば、臣下一同、心配しておりましたので。」
・・・ん?人種?
なんか、このスキンヘッドの侯爵の言葉に、なんか引っかかる。すると、3人隣に座っていたチョビ髭オヤジまで発言した。
「クロウリー侯爵の言う通りですな。私も心配しておりました。しかし、王妃様がお決まりになったことで、第2夫人をお迎えしやすくなったというものです。」
え!?第2夫人!?
全く聞いていない話しに戸惑う。
ここで、エヴァンが2人を睨みつけて言った。
「クロウリー侯爵、ベルグレイブ伯爵、その話は、私が承認していないぞ。」
エヴァンの鋭い眼光に、2人は顔を引きつらせる。
「は、はははっ。そうでしたか。いえ、そうですな。この話はまた、追々。今すぐにというわけではございません。」
チョビ髭のベイグレイブ伯爵は、笑いながら言う。それに続いて、スキンヘッドの侯爵が繋げる。
「そうですとも!国の安定と繁栄の為、魔力大国としての威厳を保つため、いずれは国の為に、王妃様共々、賢明なご決断を頂けると信じておりますとも!」
・・・ねちっこい!!と、私は叫びそうになった。
つまり、この2人は、セシリア王妃反対派というわけだ。魔力無しの人間は、人種が違うって?王妃としては相応しくないって?この2人は、この場でセシリアの地位を貶めて、本人にも周囲にも知らしめようとしている。
周囲を見渡してみると、数名の人々がニヤリと口元で笑い、白い目を私に向けて来た。招かざる客。セシリアは、歓迎されていない花嫁だった。
この国では当然と言えば当然か。
すると、クロウリー侯爵の隣に居た女性が言った。
「魔法大国へ嫁いで来られたのだもの。聡明で寛大な王妃様であれば、国民が何を求めているのか、王妃様も解っておいででしょう?」
真っ黒い大きな瞳、長く黒い髪を持つ、美しい女性に見つめられる。
「王妃に求められるものは、強大な魔力を持つ、跡継ぎですか?」
自分の口から、つい、出てしまった言葉に、自分で驚く。しまった!セシリアなら、言い返さない!
「そうですわ。ご理解頂けているようで、なによりですわ。」
彼女の、人を見下した目。その目にイラっとする。
「それでは、この国では、魔力や力だけに価値があると?」
自分の口を、止めたいのに止まらない。
周囲が、シンと静まり返り。私の言葉に注目する。
セシリアという1人の人間を調べつくしたのだから、彼女を演じればいいだけなのだけど・・・考えてみると、今回の任務では、そこまで彼女を演じなくても良いのかもしれない。そう考え直す。なぜならば、彼女を詳しく知るものが、今ここには居ないからだ。
リヴェリアでは、魔法が使える者も使えない者も、差別されることは無い!
もしも、私が、セシリアの立場ならば、黙ってなどいない。ハッキリと言わせてもらう。
「魔法の力があるからといって、あなたがたは他人を見下す権利を持っているのですか?力があることが人の価値を決めるのなら、この国は弱き者を守ることすらできない。私は魔法を持たないけれど、私の心は誰にも屈しません。力があるから強いのではなく、他者を尊重し、弱き者にも寄り添うこと、それこそが本当の強さではありませんか?」
そう。私達、魔術師団は、弱きものを守るために鍛えてきた。強さを誇る為じゃない!
力こそ全てとし、力で世界を捻じ伏せようとする国に、私は屈したりなどしない。
と、つい気持ちが高ぶって、言葉にしてしまえば、スッキリはしたものの、不穏な場の空気に冷や汗が出て来る。
しかし、数秒後。
遠くのテーブルから、拍手する音が響いた。1人、また1人と拍手する音。別のテーブルからも拍手が響き、高位貴族では無い人々からは、賛同いただけている様子だった。
よかった。この国にも、分かってくれる人がいる。
その事にホッとした。
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