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第12話
しおりを挟む「おまえら、俺の家は溜まり場じゃないんだぞ?」
例のごとくに、2次会と称して、神崎さん宅に来ている。
「ふへ~。いいじゃないっすかぁ。神崎さんち居心地がよすぎるんですよぉ。」
ビールを片手に、ムニャムニャと桜井君は、眠そうにした。と、思ったらダウンした様子で寝てしまった。
「・・・・桜井君寝ちゃいましたね。私、ベッドまで運びますね。」
私は、桜井君の腕を掴んで、持ち上げる。
お風呂セットを用意してくれた神崎さんが、駆け寄る。
「おいおい、重すぎてむりだろ!」
「大丈夫ですよ!私、こう見えて力持ちで、田舎では米俵を持ち上げたこともあるんですよ。」
そう言って振り向くと、私と桜井君を支えようとした神崎さんの顔が、思ったよりも至近距離にあった。
反射的に、顔を赤く染めてしまう。
神崎さんは、少しの間の後、何ともないような素振りで笑う。
「米俵って、おまえ、面白過ぎること言うな。バカ。」
結局、2人で桜井君をベッド下に敷いた布団に運ぶ。
寝室から出てくると、林さんがバスタオルを持ってきてくれて、私に渡してくれた。
「綾瀬さん、お先にお風呂どうぞ。」
ニッコリと笑う林さんの気持ちに、私は、何も気が付いていなかった。
喜んで、お風呂を使わせてもらって、脱衣所で体を拭き始めた時だった、リビングから声がした。
「彼女いないなら、軽い気持ちでも、ダメですか?」
・・・林さんの声だった。
「申し訳ない。林さんの気持ちはとても嬉しいけど・・・。」
「私、神崎さんを支えたいんです。仕事でもプライベートでも。」
少しの沈黙の後、低い声が響く。
「・・・・・本当に、申し訳ない。」
「聞いてもいいですか?」
「・・・・。」
「綾瀬さんのこと好きなんですか?綾瀬さんが来てから、神崎さん変わりました。」
・・・そ、それは親友の妹だから・・・。と心の中でツッコミを入れてしまう。
「・・・確かに、職場の人間とプライベートで関わるのは今までになかったな。みんなにも、勘違いをさせてしまったかもしれない。」
「そうですよ!ずっとヤキモチ焼いてました。」
林さんの声が、可愛らしく響く。
「ふっ・・・林さんは有能で可愛らしい人なので、こんなオジサンではなく、もっと若くて良い男がすぐに見つかるかと。」
「笑わないでください。私を振ったことを後悔するほど、もっとイイ男探します!」
そこで、わざと、バスルームの扉を「バタン」と閉める音を鳴らす。
2人は静かになった。
ドライヤーで髪を乾かしてから、リビングに入る。
「お先にお風呂頂きました~。林さん次どうぞ。」
「ありがとうございます。でも、神崎さん先にどうぞ。」
林さんは、いつもの感じでフワリと笑う。
「あぁ、でも林さん先に・・・」
「秘書たるもの、上司より先には動きません。あしからず。」
「・・・・解りました。」
神崎さんが、お風呂場に消えて行った。
なんとなく・・・気まずいなと思いつつ、ソファーの前を通り過ぎて、ベランダのある窓へ近づく。
「綾瀬さん。」
「ふぇっ?あ、はい?」
「・・・・聞いてましたね?」
「ひゃっ・・・い。・・・はい。聞いてません!」
「正直言って、ショックです。なんで、私、言っちゃったんでしょうか?泣きそうです。」
林さんが、あまりにも可愛らしく言うので、抱きしめたくなる。こ・・これを振るとか、神崎さんはゲイなんじゃないか説~~!!と心の中で、ちょっと叫ぶ。
「あ~、えーと、たぶん、神崎さんが悪いんだと思います!」
「・・・そうですね!そうです!神崎さんが悪いんです!最近の神崎さんは変で、しかもあんな弱い部分とか見せられて、もう言わずにはいられないってヤツじゃないですかっ?」
「え・・・あ~、はい・・・タブン。」
もう、よくわからんけど、頑張れ!!林さん!
「綾瀬さん、飲みましょう!やけ酒です!」
「は、はい!!飲みましょう!!お付き合いします!」
「この家のお酒全部飲んでやります!」
「ぜ・・全部持ってきます!!!」
林さんという人は、本当に良い人なんだと思うのだ。
察しが良くて、知らぬふりが得意で、さらっと華麗に何でもこなす。強くて優しくて、きっと絶妙なタイミングで支えてくれる。
絶対に神崎さんには必要な人で、間違いなくお似合いで・・・・。
なんで、振っちゃうんだろう?
神崎さんの家にあったお酒は、かなり強い酒ばかりだったせいか。いや、飲み方の問題なのか?林さんは、神崎さんがお風呂から上がってくる頃には、ダウンして夢の世界に行ってしまった。
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