王様の愛人

月野さと

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34話

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 翌朝、陛下が仕事に向かうのを見送って、自室に戻ろうとすると、昨夜の女性と廊下で鉢合わせした。

「あら、妃殿下。陛下とはちゃんとお話できたの?」
 流れるような波打つ髪に、大きな瞳。私よりも年上で、大人の魅力溢れる、キレイな女性だった。
「おかげさまで。昨日は大変失礼いたしました。」 
 当たり障り無いように返事をすると、ソフィアの後ろにいた侍女が、女性をにらみつける。
「あぁ、自己紹介がまだだったわね。私はミレーネ。高級娼館の娼婦よ。」
 娼婦?
 なるほど、通りで知らない顔なわけだ。ある程度の身分の令嬢は覚えているはずなので、全く見覚えが無いことに、疑問に思っていた。
 侍女が口を挟む。
「この方は、侯爵令嬢であり妃殿下です。貴方のような方が、声をかけて良い方ではありません。」
 ミレーネは、ニヤリと笑った。
「そんな硬いこと言わないでさ?ちょっと挨拶しただけじゃない。」
 そう言って、立ち去ろうとするミレーネに、ソフィアは引き止めた。
「あの、お茶でもご一緒にいかがでしょう?」


 応接室で、お菓子やお茶を並べて、ミレーネとソフィアは、向かい合わせに座って、お茶を飲んだ。
 
「それで?私に何か聞きたいことがあるんでしょう?」
 ミレーネは、一口お茶を飲んで聞いてきた。
 ソフィアは、頷く。
「あなたは、どうして娼婦をしているの?」

 以前、フィジーと別れてから、八百屋の男性に声をかけられたことがある。
「スラムの女は、大人になったら娼婦になることが多い。文字なんて教えても意味ないよ。」
 意味、無いのだろうか?助けられないのだろうか?

「どうしてって、食べていくためよ。私はこの美貌を武器に、高級娼館でも1位とってんのよ。あなたの大好きな陛下の筆下ろしに、呼ばれたのがきっかけで、愛人にもなってたわ。」
 ミレーネは得意げに話す。

「そうですか。食べていくために…」
 ソフィアがボソリと言って、遠くを見ながら眉間にシワをよせた。
「・・・あんた、同情してるの?」
「え?あ、その、スラムに知り合いがいて、その子の将来が気になるというか・・・」
 ミレーネは、眉間に皺を寄せて、疑わしそうにしながらも答えた。
「そりゃ、最初こそ辛かったけど、今は楽しんでるわよ。私には性に合ってたみたい。セックス好きだし?良い男とできるのは楽しいし?まぁ、陛下との夜伽で呼ばれたときなんかは、子供出来ちゃえば、いい暮らしができるって思ったけどね。あの人、事務的にセックスして、どの女としても、イケない人だったでしょ?」

「・・・へ?」
 そうなの?
「だから驚いたわ。あんたの顔見た瞬間、デレデレした顔しちゃってさ。陛下ったら、あんたに惚れてんのね。」
 そう言われて、つい、赤面してしまう。

 ダメだ、本題からそれてる。

「あの、教えて下さい。スラムの女性はみんな娼館で働くというのは本当でしょうか?もしも、文字の読み書きが出来たら、将来が変わると思いますか?」

 ミレーネは、真剣に考えて「そうねぇ」と呟いてから言った。

「文字の読み書きができる娼婦ならいるわよ?凄く少ないけれどね。読み書きや計算ができる娼婦は、やっぱり身請けされて買い取られる子が多いわ。だから、読み書きと計算が出来れば、未来はあるかもね。」
 
 なるほど。
 やっぱり、読み書き計算は出来るに越したことは無いんだわ。
 ソフィアは今までの自分が間違っていないと、確信を持って、心の中でガッツポーズをする。

「お妃様ってさ、陛下に、ちょっと似てるわね。」
「え?私が?陛下に?」
 ミレーネは、クッキーをかじりながら頷く。
「陛下は私を娼婦扱いしないわ。人を蔑んだりしない。あんたもそんな感じだものね。」

 私と、ヴィンセントが似てる?
 なんか、少し嬉しくなる。

「でも、あんた大変でしょ?あんな立派なモノを持った陛下から、愛を一途に求められたらさ。陛下って性欲強いでしょう?」
 急になんで、そっちの話?と思ったけど、確かにそうである。
「・・・まぁ、体が持たないですね。月のモノが来ても、我慢できない様子なんで・・・」
 ん~・・・と少し考える素振りをして、ミレーネは言った。 
「色々と、テクニックを教えてあげましょうか?」
 ‥‥テクニック?
 それは、もしかして、エッチなことの?

 ソフィアはガタン!と席から立ち上がって、ミレーネの手を握りしめた。

「ぜひ!!ナンバーワンのテクニックを、私に伝授してくださいませ!!」

 こうして、娼婦直伝の、エッチな技などを教えてくれた。
 フェラの仕方。男性にも性感帯があって、それを探してあげると良いなど。
 エッチな講習会は、午前中いっぱい行われて、ソフィアはむしろメモまでした。

 昨日は、きっと陛下を満足させてあげられなかったもの!次こそ!!

 ソフィアは結構、これで真面目な性格だった。





◇◇◇◇

  
 数日後。
 美しいお城の中庭で、ソフィア、ミレーネ、そしてメリーアン王女と親友のセリーヌまでもが集まってお茶をしていた。

 娼婦のミレーネは、オッホンなんて咳ばらいをしてから、切り出す。
「では、この私、ナンバーワン娼婦が、お嬢様方に実戦で役に立つ知識やテクニックをお教えしましょう。」
 ソフィアはメモを持参していて、セリーヌは何故か扇で顔を隠しながら、興味津々だった。メリーアン王女は正しい姿勢で座って、先生を見つめる。

「まず、1番大切なのはテクニックではなく、自分の性感帯を知ることです。次に、相手の性感帯を知る事です。殿方によって感じる場所も、したいことも違います。具体的には、亀頭、陰茎、陰茎小帯、尿道口、陰嚢、会陰、耳、首、などです。女性においては、陰核、陰唇、膣口、乳首、乳房、尿道口、Gスポット、耳、首などです。お互いに、コミュニケーションをとりながら、どこが良いか聞きながら触ってあげるのが良いわね。」

「はい!先生!触るというと、口?手で?」
 ソフィアが、手を上げて質問をする。
「そうねぇ。自分がしたい方で、口は抵抗ある初心者は無理にしなくていいわ。手でも口でもいいから優しく愛撫してあげて。男性でも、最初は優しくね。体中を愛撫して良い所を探していく。そういったやり取りが、興奮を呼んだり、ムードを盛り上げるから無駄ではないのよ。」

 扇で顔を半分隠しながらも、セリーヌが聞く。
「あの・・・それは、女性もそうしてもらいたいって、言ってもいいのでしょうか?」
 ミレーネは、力強く頷いて身を乗り出して言う。
「当然よ。性交は、男性優位であってはダメ。相手が分かっていないなら、自分からお願いするべき!抱擁1つ、キス1つにしても、同意も無しはダメ。相手の体に触れる1つ1つ、きちんと同意を得て。」
 そこで、メリーアンが質問する。
「毎回ですの?最初の時だけでいいのかしら?」
「当然よ。今日は、そうゆう気分じゃないとか、その時によって不快に思うってことは有るもの!」
 
 カリカリカリ・・・・必死で全てをメモしていくソフィアを、みんなが見つめる。
 親友のセリーヌが、ソフィアの肩を揺らす。
「ソフィア・・・。あなた、そんなハレンチな事を文章に残すなんて、後で読み返すの?」
「ううん。これ、学校でも教えられないかと思って。」
 その言葉に、全員が一瞬引く。 
 そして、3人は声をそろえて大きな声を出した。

「・・・・!!!ええええええ?!」
「な、何を言っているの?ソフィア、ありえないわ!」
「あんた、どんな学校作る気なのよ???」

 ソフィアは、キョトンとした顔で3人を見る。
「え?だって、2人だって今日は興味があって話を聞きに来たでしょう?」
 そう言われて、セリーヌは扇で顔を隠す。
 ソフィアは、笑って言う。
「正しい性教育は、女性にも男性にも重要だと思うわ。誰もが大人になったら経験することでしょう?正しく体の事を知って、性交で辛い思いをしないように。知識は必要だわ。」
 
 ミレーネは、大きく口を開けていたけれども、顎に指をやると、うーーーんと唸る。
 メリーアン王女が、言う。
「それは、確かにそうね。誰もが必ず通る道だわ。変に恐れたり間違った知識でされたり、したりして相手を傷つけるなんてあってはならないわ。」
「そうでしょう?王女様!恥ずかしいとか確かにあるけど、正しく知る必要はあると思うの。」
 ソフィアは、理解者の手を握って、仲間を捕まえて喜ぶ。

 セリーヌが、扇を下ろして、自分の髪を整えながら頷く。
「冷静に考えれば、確かに、あまりよく分からないばかりに恐れて、当日にショックを受けるという話も聞かなくもないわ。」
「まぁ、娼婦たちは最初に色々と姉さんたちから教わるわ。妊娠しないように薬を使うから、悪質じゃない薬の名前や売り場、自分の体の守り方をね。」
 ミレーネの言葉に、なるほどとソフィアは頷く。
「大事な事だわ!性的同意、そして自分の体の仕組み。それから、愛する人と結ばれた後でさえも、もっとハッピーなセックスをする為には、テクニックを!」
 ミレーネはソフィアを、可愛そうな目で見て言う。
「・・・あんたの場合は、個別の特別指導ね。陛下を満足させるのは至難の業でしょ?体力も精力も強いからね。」
   
 王女が、少し考えてから聞く。
「性的同意とは・・・例えば、恋人同士や夫婦になったとして、今日はしたくないと、言っても良いと?」
 ミレーネは頷く。
「言うべき。今日はそんな気分じゃない、だけど、あなたの事は好きだ。と相手に言うべきね。否定だけはダメ。相手の事を考えて、上手くコミュニケーションをとること。」
 セリーヌが、リンゴのように顔を赤くして、震えた声で言う。
「もし、男性に、君の事は好きだけど今日はしたくないって言われたら、わたし、トラウマになりそうだわ。」
 王女様も、私も、そのことには同意して頷く。
「そうねぇ、だからこそ、相手を思いやった言葉で伝えればいいのよ。嫌な時は嫌で仕方のない事。良い関係を築いていく為にも、相手を甘やかしちゃダメ。気持ちをきちんと伝えて、相手を教育していくつもりでね。」  

「セックスって、コミュニケーションの1つだと思えばいいのかしら。」
 ソフィアが言うと、ミレーネは頷く。
「それだけではないわ。セックスは、言葉よりも相手に与えるモノは多い。だけど、体だけじゃダメなの。絶対に愛の言葉は必要よ。相手を思いやる気持ちもね。私のような娼婦でも、愛を持ってお客様に接するわ。本気じゃないけどね。」

 その後も、エッチな抗議は続いた。
 本題であるテクニック云々あたりで、親友のセリーヌは気絶してしまったので、抗議は後日になってしまったが。

 





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